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6.他称ロリコン軍人は、毒舌少女の願いを叶える
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ベルの身体は、もともと発熱していたのに加えて泣いてしまったせいで、かなり熱い。
だからレンブラントは話の途中だが、このままベルが泣きつかれて眠って欲しいと切に願っている。逃げるつもりはない。ただベルの身体が心配で心配で仕方が無いのだ。
……でも、どんなに強く願っても、現実がなかなか思うようにはいかないようで。
「─── ねえ……どうして、黙っていたんですか?」
主語を抜かしたベルの問いに、レンブラントは「何が?」と聞き返すことはしない。
「レンブラント・レイカールトンっていう名前がダサいからだ」
「そんなくだらない理由で黙っているほうが、よっぽどダサいですよ」
「……相変わらず手厳しいな」
ため息交じりに呟くレンブラントに、ベルは顔を上げて睨み付ける。
「この期におよんで誤魔化そうとするあなたよりは、手厳しくないと思いますけど?」
「まぁ、確かにそうだな」
ぐうの音も出ないことを言われたレンブラントは観念した。ただどこから話せば良いかわからない。
なにせベルとレンブラントの関係は少々複雑だったりもする。
「どこから話せばいいかわからんが……まず、あんたは俺のことをちょっと前まで知らなかったと思うが、俺は結構前からあんたのことを知っていた」
「……ストーカー?」
「違う。あんた親父さん……ラドバウト団長から色々聞かされていたんだ。俺はもともと団長の部下だったんだ」
「……お喋りジジイ」
「だからそう団長を悪く言ってやるな。可愛い娘を持ったら、どうしたって目が合った人間に娘自慢をしたくなるもんだ」
「……そんなの知らない」
「まぁ、俺も娘を持ったことがないからわからんが……おっと、話が逸れたが、要はあんたの婚約者にならないかと、団長から言われてたんだ。本当に随分昔の話で、団長が再婚する前で……結局、団長が死んじまってその話は立ち消えになったけどな」
自分の与り知らぬところでそんなことになっていたとは微塵も知らなかったベルは、どうリアクションして良いのかわからない。
だから口をむぎゅっと噤んで、レンブラントの話の続きに耳を傾ける。
「それから数年は俺も軍人としてなんだかんだと忙しかった。まぁ団長の死を受け入れられない部分があったのもあって、ケルス領のことは敢えて触れないように生きてきた。……だから、あんたがあんな過酷な状況に置かれていたことに気付けなかった。……すまなかった」
最後の謝罪はまるでレンブラントが傷を負ったかのような痛々しいものだった。
「……良いんです。謝らないでください」
父親であるラドバウトが死んで幸せだった世界が一変してしまったあの時、救いの手を求めていたのは確かである。そして不安と孤独に打ちのめされたことも。
でもレンブラントは来てくれた。
だから、これで良い。ケルス領はまだ最悪な状況には落ちていない。今からでも十分に持ち直せる。だからやっぱりこれで良い。
そんなことよりも……大事なことをこの人の口からちゃんと聞きたい。
「それより出会ってから、今までどうして黙っていたのかをちゃんと教えてください」
レンブラントにもたれかかっていた身体をちゃんと起こして、彼の目を見つめて強く訴える。
そうすれば何故かレンブラントは半目になり、信じられないことを口にした。
「黙っていたのは、あんたのせいだ」
ここでまさか責任転嫁されるとは思っていなかったベルは、自分でも笑ってしまうほどの間抜けな顔をレンブラントに披露してしまった。
だからレンブラントは話の途中だが、このままベルが泣きつかれて眠って欲しいと切に願っている。逃げるつもりはない。ただベルの身体が心配で心配で仕方が無いのだ。
……でも、どんなに強く願っても、現実がなかなか思うようにはいかないようで。
「─── ねえ……どうして、黙っていたんですか?」
主語を抜かしたベルの問いに、レンブラントは「何が?」と聞き返すことはしない。
「レンブラント・レイカールトンっていう名前がダサいからだ」
「そんなくだらない理由で黙っているほうが、よっぽどダサいですよ」
「……相変わらず手厳しいな」
ため息交じりに呟くレンブラントに、ベルは顔を上げて睨み付ける。
「この期におよんで誤魔化そうとするあなたよりは、手厳しくないと思いますけど?」
「まぁ、確かにそうだな」
ぐうの音も出ないことを言われたレンブラントは観念した。ただどこから話せば良いかわからない。
なにせベルとレンブラントの関係は少々複雑だったりもする。
「どこから話せばいいかわからんが……まず、あんたは俺のことをちょっと前まで知らなかったと思うが、俺は結構前からあんたのことを知っていた」
「……ストーカー?」
「違う。あんた親父さん……ラドバウト団長から色々聞かされていたんだ。俺はもともと団長の部下だったんだ」
「……お喋りジジイ」
「だからそう団長を悪く言ってやるな。可愛い娘を持ったら、どうしたって目が合った人間に娘自慢をしたくなるもんだ」
「……そんなの知らない」
「まぁ、俺も娘を持ったことがないからわからんが……おっと、話が逸れたが、要はあんたの婚約者にならないかと、団長から言われてたんだ。本当に随分昔の話で、団長が再婚する前で……結局、団長が死んじまってその話は立ち消えになったけどな」
自分の与り知らぬところでそんなことになっていたとは微塵も知らなかったベルは、どうリアクションして良いのかわからない。
だから口をむぎゅっと噤んで、レンブラントの話の続きに耳を傾ける。
「それから数年は俺も軍人としてなんだかんだと忙しかった。まぁ団長の死を受け入れられない部分があったのもあって、ケルス領のことは敢えて触れないように生きてきた。……だから、あんたがあんな過酷な状況に置かれていたことに気付けなかった。……すまなかった」
最後の謝罪はまるでレンブラントが傷を負ったかのような痛々しいものだった。
「……良いんです。謝らないでください」
父親であるラドバウトが死んで幸せだった世界が一変してしまったあの時、救いの手を求めていたのは確かである。そして不安と孤独に打ちのめされたことも。
でもレンブラントは来てくれた。
だから、これで良い。ケルス領はまだ最悪な状況には落ちていない。今からでも十分に持ち直せる。だからやっぱりこれで良い。
そんなことよりも……大事なことをこの人の口からちゃんと聞きたい。
「それより出会ってから、今までどうして黙っていたのかをちゃんと教えてください」
レンブラントにもたれかかっていた身体をちゃんと起こして、彼の目を見つめて強く訴える。
そうすれば何故かレンブラントは半目になり、信じられないことを口にした。
「黙っていたのは、あんたのせいだ」
ここでまさか責任転嫁されるとは思っていなかったベルは、自分でも笑ってしまうほどの間抜けな顔をレンブラントに披露してしまった。
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