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6.他称ロリコン軍人は、毒舌少女の願いを叶える
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レンブランは、ベルの願い通り自分が知るすべてのことを語った。
ベルをさらうようにケルス領から連れ出したのは、国王陛下の命令だったこと。ベル自身にも嫌疑をかけられていたこと。それから拳銃を突きつけた理由も。
あと、ベルの父親が再婚した理由と、伯父であるガドバルトと仲違いをした経緯と、その後どれだけ喧嘩をして王城の備品をぶっ壊したかを。
そんな余談も交えた言葉をベルは時折相槌を打ちながらじっと聞く。レンブラントの膝の上で。
「─── あんたは今回のケルス領の横領事件において完全なるシロだ。国王陛下もお認めになった。それと領印のことは、経年劣化による再造ってことで処理されたからそっちもお咎め無しだ」
「......そうですか」
ずっと聞き役に徹していたベルは、ここで始めて声を発した。
そして大きく息を吐き出しながら再び口を開く。
「とどのつまり、私の父親はどうしようもなく女を見る目がなかったってことなんですね」
「ははっ。そうきたか」
真相を知ってもなお父親を悪く言うベルに、レンブラントは苦笑する。しかしその眼差しは、とても優しいものだった。
「......そうだな。あんたの親父さん。俺らにとったら頼れる団長は、確かに情に脆い部分があったな。だが、良い人だった。ああいう人こそ長生きして欲しかった。あと、俺は一つわかったことがある」
「......なんですか?」
「あんたが毒を吐くときは、自分の本心を隠すときだってこと」
「......っ」
図星をさされてビクリと身体を強ばらせたベルを、レンブラントはそっと抱き締める。
「なあベル、ここには今、俺とあんたしかいない。だから」
─── ちゃんと泣いて良いんだぞ。
ベルの頬はすでに涙で濡れていた。父親を悪く言いながらも、その死を悲しんで、悔やんでいた。
「......今更そんなこと言われたって」
最後の虚勢を張るベルに、レンブラントは抱き締める力を強くする。
「今更じゃない。あんたはようやっと思う存分泣けるようになったんだ。団長の為に泣いてやってくれ。頼む」
「なんですか、それ」
呆れ声でそう言いたかったベルだが、笑ってしまうほどその声は震えていた。
「レインブラントさん」
「あんた、まだその名で俺の名を呼ぶのか?」
「はい。まだ話の途中ですから。......それはどうでも良いんですか」
「良くはないが......まぁ、良い。で、何だ?」
「ちょっとだけここを貸してください」
「ああ、好きにしろ」
レンブラントから許可を得たベルは、彼のシャツをぎゅっと握って逞しい胸に顔を押し付けた。
そして子供のように声を上げて泣き始める。
「......ぅううっ......お、お父さま......う、ううっ。なんで死んじゃうの......馬鹿。大嫌い......でも、好き。大好き」
「ああ、俺も隊長が大好きだった。世界で唯一、尊敬できる人だった」
レンブラントは泣き続けるベルに優しい言葉をかけながら、いつまでもその背を撫でてていた。
ベルをさらうようにケルス領から連れ出したのは、国王陛下の命令だったこと。ベル自身にも嫌疑をかけられていたこと。それから拳銃を突きつけた理由も。
あと、ベルの父親が再婚した理由と、伯父であるガドバルトと仲違いをした経緯と、その後どれだけ喧嘩をして王城の備品をぶっ壊したかを。
そんな余談も交えた言葉をベルは時折相槌を打ちながらじっと聞く。レンブラントの膝の上で。
「─── あんたは今回のケルス領の横領事件において完全なるシロだ。国王陛下もお認めになった。それと領印のことは、経年劣化による再造ってことで処理されたからそっちもお咎め無しだ」
「......そうですか」
ずっと聞き役に徹していたベルは、ここで始めて声を発した。
そして大きく息を吐き出しながら再び口を開く。
「とどのつまり、私の父親はどうしようもなく女を見る目がなかったってことなんですね」
「ははっ。そうきたか」
真相を知ってもなお父親を悪く言うベルに、レンブラントは苦笑する。しかしその眼差しは、とても優しいものだった。
「......そうだな。あんたの親父さん。俺らにとったら頼れる団長は、確かに情に脆い部分があったな。だが、良い人だった。ああいう人こそ長生きして欲しかった。あと、俺は一つわかったことがある」
「......なんですか?」
「あんたが毒を吐くときは、自分の本心を隠すときだってこと」
「......っ」
図星をさされてビクリと身体を強ばらせたベルを、レンブラントはそっと抱き締める。
「なあベル、ここには今、俺とあんたしかいない。だから」
─── ちゃんと泣いて良いんだぞ。
ベルの頬はすでに涙で濡れていた。父親を悪く言いながらも、その死を悲しんで、悔やんでいた。
「......今更そんなこと言われたって」
最後の虚勢を張るベルに、レンブラントは抱き締める力を強くする。
「今更じゃない。あんたはようやっと思う存分泣けるようになったんだ。団長の為に泣いてやってくれ。頼む」
「なんですか、それ」
呆れ声でそう言いたかったベルだが、笑ってしまうほどその声は震えていた。
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「あんた、まだその名で俺の名を呼ぶのか?」
「はい。まだ話の途中ですから。......それはどうでも良いんですか」
「良くはないが......まぁ、良い。で、何だ?」
「ちょっとだけここを貸してください」
「ああ、好きにしろ」
レンブラントから許可を得たベルは、彼のシャツをぎゅっと握って逞しい胸に顔を押し付けた。
そして子供のように声を上げて泣き始める。
「......ぅううっ......お、お父さま......う、ううっ。なんで死んじゃうの......馬鹿。大嫌い......でも、好き。大好き」
「ああ、俺も隊長が大好きだった。世界で唯一、尊敬できる人だった」
レンブラントは泣き続けるベルに優しい言葉をかけながら、いつまでもその背を撫でてていた。
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