美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

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5.【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた

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 ベルは自分の小さな手のひらに収まる小さなソレをまじまじと見つめる。

「……ねえ、これ」
「ほら、あいつらが行ってしまうぞ。良いのか?」

 レンブラントはベルの言葉を遮って、顎でフロリーナ達を示した。

 言外に、これを喚き散らかすフロリーナ達に見せつけろと言っている。はっきり言ってしまえば、ぎゃふんと言わせてみろと命じているのだ。

 しかしベルは、手の中にあるソレをぎゅっと握りしめたまま黙りこくる。やれと言われても、できるわけが無い。

(だってコレ、偽物じゃん!そんなのここで見せたら、どうなると思ってるの!?)

 レンブラントから手渡されたのは、破壊したはずのケルス領の領印だった。

 どうやってこれを複製したのかわからないし、そもそも自分はレンブラントに領印を破壊したことを伝えていない。一体、いつどこで……いや、そんな過程はどうでもいい。

 それより軍人という立場にいる彼が、レプリカを作るだけでも重罪だということは知っているはずなのに、これを法令の執行等の職権を持つ集団の前で、フロリーナに見せつけろと言っていることの方が問題なのだ。 
 
 そんな恐ろしいこと、できるわけがない。

 自分が更に罪を重ねることでなく、レンブラントが罪に問われることが怖いのだ。

 なのに、レンブラントはさっさとやれと背中を押す。いつぞやに見せてくれた、不可能を可能にできそうな笑みを浮かべながら。

「ベル、俺を信じろ。あんたが恐れているようなことにはならない」

 まるで自分の心を読んだかのように、レンブラントは低く小さな声で囁く。

 何を根拠にと詰め寄りたい。怖いもの知らずの彼の発言に、いっそ呆れてしまう自分がいる。

 しかしこれまでレンブラントは、一度だって自分を裏切ったこともは無かった。彼に対して失望したことも、軽蔑したことも、悔しいが一度も無い。

 レンブラントは、自分の味方でいてくれた。

 だからベルは、レンブラントの言葉を信じることにした。

「義母さま、あなたが言っているのはコレのことですか?」

 ベルは一歩前に出て、手のひらに収めていたそれをフロリーナに掲げて見せた。

 離れた場所にいるフロリーナは、最初それが何かわからなかったのだろう。目を細めてそれを見つめる。

 待つこと数秒、フロリーナは驚愕した。

「……嘘。あなた私たちを騙していたのね!?卑怯者!!」

 壊した領印が現存しているとまんまと勘違いしたフロリーナは、あらんかぎりの声で叫んぶ。

 次に「この領印は偽物よ!」と叫んだ。なんとしても自分だけじゃなくベルも裁きの場に連れて行きたい一心で。

 しかし、執念と呼ぶべきそれはレンブラントによって一刀両断される。
 
「偽物なわけがあるか。これは本物だ」

 何も言い返すことができないベルに変わって、レンブラントはきっぱりと言い切った。

 そして納得できない表情を浮かべるフロリーナに向け言葉を続ける。まるで絶対的に自分が正しいという前提の下、罪人を見下すような口調で。

「ま、あんたがこれを偽物と言い張りたいなら、特別に国王陛下の御前で直訴できる権利を与えてやろう」

 言い終えたレンブラントは、フロリーナに向けニヤリと挑発するように笑った。
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