美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

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5.【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた

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 ケンラートはレンブラントによって身動きを封じられている。

 しかしフロリーナ達は拘束されていない。でも、逃げないということは後ろにいるラルク達が、レンブラントと同様に彼女達に拳銃を向けているからなのだろう。

 過去に銃口を向けられた経験があるベルは、それがどれだけ恐ろしいことか身をもって知っている。

「───......おい、だんまりは無しにしてくれよ、ケンラート君。俺は黙秘が一番嫌いなんだ。そして口を割らない奴に対して、どうも俺は手加減できない性格のようなんだ」

 パウェルスの拘束をなんとこさ解いたと同時に、唸るようなレンブラントの声が聞こえてきてベルはそこに視線を向ける。

 ケンラートの眉間には、銃口がピタリと張り付いていた。

 そこそこの距離ですら心臓が凍りそうだったのに、距離感ゼロでは、さぞかし恐ろしいだろう。

 だがしかし、ベルは気付いている。レンブラントがケンラートを脅しているだけだということを。いや、まるで時間を稼いでいるようにすら見える。

(......誰を......何を待っているの?)

 手練れは、ほとんど自分が倒した。残るは悪行を重ねるだけ重ねた挙げ句、全てを放り出し逃げ出してきたケルス領辺境伯の家族だけ。

 しかも、ここにはレンブラントの部下達だっている。この場を制圧するのに、手助けを求める必要なんてないはずだ。

(......なら、どうして??)

 ベルは必死に思考を巡らす。

 しかし、その答えにたどり着く前に、バタバタと倉庫に複数の足音が響いた。

「なん……っ!?」

 地震でも起きたのかと勘違いするほどの地響きに、ベルは驚いて振り返った。そして目を丸くする。

 無表情で拳銃を構えるラルク達の背後で、軍人とは似て異なる濃紺の制服を纏った男達が倒れている手練れ達を拘束し始めていたのだ。

 彼らは公共の安全と秩序を維持し、法令の執行等の職権を持つ集団───通称自警団と呼ばれる者たちだった。

 ただベルは、突然現れた自警団に驚いているわけでも、彼らの統率された無駄のない動きに息を吞んだわけでもない。
 
 ここにいる自警団のトップであろう人物に釘付けになっていたのだ。

 一際飾りが多く付いた濃紺の制服に身を包んだ壮年の男は、ベルの見知った人物。女神ことフローチェの屋敷の執事─── ガドバルドだった。

(なんで?なんでガドバルドさんがそんな恰好してるの? これもレンブラントさんが仕組んだこと? それともガドバルドさんは元々フローチェさんの執事じゃなかったってこと? でも、なんで??)

 驚きを通り越してしまったベルは声すら出せない。

 だが少し離れた場所にいる自警団のトップことガドバルドを穴が開くほど見つめていれば、自然と目が合った。

 ベルの視線に気づいた彼は、ゆっくりと靴音を響かせてベルに近付く。そして手を伸ばせば届く距離に来た途端、何かしらの言葉を紡ぐと思いきや……あっさりとベルを素通りした。

 ガドバルドは紙より白くなったフロリーナの前に立つと、ここでようやっと口を開いた。

 懐から取り出した王家の紋章が付いた書面をフロリーナの顔面に突きつけながら。

「フロリーナ・エドゥ・クラース、ならびにその親族一同。領治法第5条4項及び、資金規正法2条3項違反の容疑の為、国王陛下の名の下にその身柄を確保する」
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