83 / 117
5.【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた
5
しおりを挟む
「いやぁあああああっ、やめてっ!! 誰か助けて!!」
ベルは喉が破れんばかりの勢いで悲鳴を上げ、全力でもがいた。
すぐさま「何だ、どうした」とあちらこちらから声が上がる。
と同時に、いかにも正義感の強そうな男が一人近付いて来たかと思えば、勇敢にもダミアンの襟足を掴んだ。
それから、べりっと音がしそうな勢いでベルからダミアンを引き剝がす。
「何やってんだよ、てめぇ」
「いや、違うっ!この子は僕の」
「黙れ、この変態っ。昼間っから年端もいかない子供をどこに連れ込もうとしたんだよ!」
「どこって……そうじゃない!誤解だ!!」
「何が誤解だっ。お前みたいな変態は、大抵そう言うんだっ」
怒鳴りつける名も知らない厳つい男は正義感も強いが、腕っぷしも強いようでダミアンがどんなに暴れてもびくともしない。
そして問答無用といった感じで、ダミアンを無理矢理とある方向に引きずって行く。多分向かう先は、警護団の詰所だろう。
(ダミアンさん、本当にごめんなさい。それとどうか持ち前のお茶目なキャラと豊富な財力で自力脱出してください。最悪どうにもならなかったら、レンブラントに助けを求めてください)
きっとダミアンが聞いたら憤慨するであろう台詞をベルは心の中で叫ぶと、くるりと背を向け真逆の方向へと駆け出した。
ついさっきの騒ぎで、街はちょっとだけ騒然としており、全速力で走り抜けるベルに人々は不躾な視線を向ける。
中には気遣う言葉をかけてくれる人もいるけれど、ベルはそれら全部を無視して息を切らしながら走った。
スカートの裾が豪快に靡き細い足首を晒そうが、反対側から来た人とぶつかろうがお構い無しに。
見慣れない景色は、記憶に留める間もなく流れるように過ぎ去っていく。とにかく騒ぎがあった場所から離れることでベルは頭が一杯だった。
そして適当な裏路地に入り込み、速度を落とす。みっともないくらい肩で息をしながら、それでも足を止めることはしない。
(食い付いて来て。私に気付いて、お願い!)
ベルはダミアンを生贄にして、自分がここに居ることを大勢の人間に示したのだ。
フローチェはおそらく誰かに囚われていて、きっとその身の安全を引き換えに、取引を持ち掛けてくるであろう人物だ。
その相手とは、ベルが良く知る人物に間違いない。そして取引とは───
「そこの女、止まれ」
ベルが歩きながらも思考を巡らせていれば、背後から鋭い男の声が飛んできた。
声の質からして、軍人でもなければ紳士でも、酔っ払いでも無い。己の欲の為なら人を殺すことに何の躊躇もない人種のそれ。
間違いなく人生で絶対に関わり合ってはいけない危険人物だ。
でもベルは言われるがまま、ぴたりと足を止めた。
ベルは喉が破れんばかりの勢いで悲鳴を上げ、全力でもがいた。
すぐさま「何だ、どうした」とあちらこちらから声が上がる。
と同時に、いかにも正義感の強そうな男が一人近付いて来たかと思えば、勇敢にもダミアンの襟足を掴んだ。
それから、べりっと音がしそうな勢いでベルからダミアンを引き剝がす。
「何やってんだよ、てめぇ」
「いや、違うっ!この子は僕の」
「黙れ、この変態っ。昼間っから年端もいかない子供をどこに連れ込もうとしたんだよ!」
「どこって……そうじゃない!誤解だ!!」
「何が誤解だっ。お前みたいな変態は、大抵そう言うんだっ」
怒鳴りつける名も知らない厳つい男は正義感も強いが、腕っぷしも強いようでダミアンがどんなに暴れてもびくともしない。
そして問答無用といった感じで、ダミアンを無理矢理とある方向に引きずって行く。多分向かう先は、警護団の詰所だろう。
(ダミアンさん、本当にごめんなさい。それとどうか持ち前のお茶目なキャラと豊富な財力で自力脱出してください。最悪どうにもならなかったら、レンブラントに助けを求めてください)
きっとダミアンが聞いたら憤慨するであろう台詞をベルは心の中で叫ぶと、くるりと背を向け真逆の方向へと駆け出した。
ついさっきの騒ぎで、街はちょっとだけ騒然としており、全速力で走り抜けるベルに人々は不躾な視線を向ける。
中には気遣う言葉をかけてくれる人もいるけれど、ベルはそれら全部を無視して息を切らしながら走った。
スカートの裾が豪快に靡き細い足首を晒そうが、反対側から来た人とぶつかろうがお構い無しに。
見慣れない景色は、記憶に留める間もなく流れるように過ぎ去っていく。とにかく騒ぎがあった場所から離れることでベルは頭が一杯だった。
そして適当な裏路地に入り込み、速度を落とす。みっともないくらい肩で息をしながら、それでも足を止めることはしない。
(食い付いて来て。私に気付いて、お願い!)
ベルはダミアンを生贄にして、自分がここに居ることを大勢の人間に示したのだ。
フローチェはおそらく誰かに囚われていて、きっとその身の安全を引き換えに、取引を持ち掛けてくるであろう人物だ。
その相手とは、ベルが良く知る人物に間違いない。そして取引とは───
「そこの女、止まれ」
ベルが歩きながらも思考を巡らせていれば、背後から鋭い男の声が飛んできた。
声の質からして、軍人でもなければ紳士でも、酔っ払いでも無い。己の欲の為なら人を殺すことに何の躊躇もない人種のそれ。
間違いなく人生で絶対に関わり合ってはいけない危険人物だ。
でもベルは言われるがまま、ぴたりと足を止めた。
1
お気に入りに追加
983
あなたにおすすめの小説
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!
結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。
当麻月菜
恋愛
平民だけれど裕福な家庭で育ったシャンディアナ・フォルト(通称シャンティ)は、あり得ないことに結婚式当日に花婿に逃げられてしまった。
それだけでも青天の霹靂なのだが、今度はイケメン軍人(ギルフォード・ディラス)に連れ去られ……偽装夫婦を演じる羽目になってしまったのだ。
信じられないことに、彼もまた結婚式当日に花嫁に逃げられてしまったということで。
少しの同情と、かなりの脅迫から始まったこの偽装結婚の日々は、思っていたような淡々とした日々ではなく、ドタバタとドキドキの連続。
そしてシャンティの心の中にはある想いが芽生えて……。
※★があるお話は主人公以外の視点でのお話となります。
※他のサイトにも重複投稿しています。
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
冷徹領主は、みなしご少女を全力で溺愛したいようですが。
当麻月菜
恋愛
盗賊に襲われ両親を失ったモニカはこの半年ずっと憂鬱な日々を過ごしている。
婚約者であるセリオが毎日のように結婚を急いてくるから。
セリオは村長が勝手に決めた婚約者。
そして、閉鎖的な村の考え方を押し付けてくる支配的な一面を持つ。
そのせいでモニカは、セリオとの結婚にどうしても同意することができない。
そんな中、突然、領主であるクラウディオが現れた。そして、出会って数秒で暴言を吐いた
「ここは随分と粗末な家だな」
「なんですって?!」
思い出がたくさん詰まった我が家を馬鹿にしたクラウディオの好感度は、ゼロではなくマイナスだった。
最悪な出会いは、当然の如く二人の間に深い深い溝を作ってしまう。けれども……
地位と財と見た目の容姿のおかげで女性に不自由してなかった領主が、初めての恋にアタフタしながら精一杯、みなしご少女を溺愛しようとする、じれったくてもどかしい恋のおはなし。
※他のサイトにも重複投稿します。
※★は主人公以外の目線でのお話です。
※2020/10/25 タイトル変更しました。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる