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4.女神の一本釣りと、とある軍人の涙
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廊下に一歩出たレンブラントの表情は、硬く厳しいものに変わっていた。
靴音を響かせ足早に廊下を歩く。そして屋敷のとある一室の前で足を止めると、ノックもせずに扉を開けた。
「待たせたな」
レンブラントがそう言ったと同時に室内で待機していた部下達─── ラルク、ロヴィー、マース、モーゼスは、一糸乱れぬ動きで軍人の礼を取った。
そんな中、同じく部屋で待機していたフローチェがドレスの裾をバサバサと言わせながらレンブラントに詰め寄った。
「ねえ、予想以上に遅かったけど、あなたベルちゃんに変なことしてないでしょうね!?」
「……ああ」
出鼻を挫かれたレンブラントは、苦々しい顔をしながらも一先ず頷いた。
ただフローチェと一切目を合わせないところが妙に怪しい。
ここにいる全員が、レンブラントの嘘を瞬時に見破った。そんな中、ダミアンがレンブラントとフローチェの間に割って入った。
「ねえフローチェ、そんなことを言っては駄目だよ。レンだってさすがに熱を出しているベルちゃんを困らせるほど、不埒なことはしてないはずだよ。うん、多分」
余計に誤解を生む発言をした腐れ縁の青年に、レンブラントは心底苦い顔をする。
「……ダミアン。口を閉じろ」
「なんで?!」
せっかくフォローしたのにと悲しい顔をするダミアンを無視して、レンブラントは部屋の中央まで歩を進めた。
そして長い前髪をかき上げて、表彰をもとに戻してから口を開いた。
「改めて、皆、無事で何よりだ。ダミアン、フローチェ、二人にも感謝する。では、今後の予定を伝える」
「はっ」
部下達は生真面目な表情を作り、レンブラントの指令に耳を傾けた。
「ロヴィーとマースは俺と同行。ラルクとモーゼスは、ここで待機。ベルの警護に当たれ」
すかさず「はっ」と軍人らしい返事をする彼らに、レンブラントは一つ頷く。
しかし、これで終わりではない。彼らへの指令はまだ続きがあった。
「フローチェ、ドレスの予備は?」
「たぁーくさんあるわよ。それにうちのメイドの中には、優秀な針子もいるから安心して」
パチリと可愛らしいウィンクをフローチェがしたと同時に、ラルクは自分の役割を瞬時に察してしまい、この世の終わりのような顔をした。
「……隊長……また……ですか?」
ラルクはどうか間違いであれという念を送りながら、レンブラントに問いかける。
何を食べても、どんなに身体を鍛えても、華奢な体格を維持してしまうラルクは、変装というより女装に適した人材ではある。
だが、任務といえどやはり割り切ることができなかったりする。
そんなラルクに向け、レンブラントは無情にも否定をすることはしなかった。
「ああ、そうだ。それと、いい加減慣れろ」
「慣れませんよっ」
レンブラントは、同じ男として多少は不憫だと思っているのだろう。
器の大きい上官らしく、カッと目を見開いて反論するラルクの訴えを黙って聞くことにする。
しかし、頭の中では別のことを考えるのに忙しい。
全員が無事に合流できたのは、ベレンブラントがここフローチェの別宅に到着してから半日後だった。
後から知ったことだが、今回の事件の黒幕はクルトではなく、現ケルス領の領主でありベルの継母であるフロリーナだった。
軍人に刃を向けるという暴挙を取らなければならないほど、現ケルス領の領主は相当追い込まれているようだった。
それは領印を破壊したことを知ってしまったせいだろうか、もしくは国王が、ケルス領の一斉摘発に乗り出すことを察したからであろうか。
どちらにしても部下が誰一人も傷を負っていないことに心から安堵したものの、これからより一層気を引き締めなければならない。
雪が解ける前には、ベルを取り巻く憂いは全て片付くだろう。
しかし言い換えるなら、ここからが正念場でもある。
それに、ベルとの約束もある。
軍人嫌いの理由を語ったてくれたことは、意地っ張りで天邪鬼な彼女が、精一杯、己に心の中を見せようとしてくれたことだというのはわかる。
素直に嬉しかった。
ベルしか知らない。そしてとても大切な話を聞かされ、彼女の心の中に、自分の居場所を作って貰えたような気持ちになった。
今頃きっと着替えをしないまま、再び眠りに落ちているであろうベルの寝顔を想像して、レンブラントはぎゅっと目をつぶった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ここまでのお話が、過去に掲載していたものを加筆修正して再投稿していたものになります。
次のお話から、未公開のお話です(o*。_。)oペコッ
靴音を響かせ足早に廊下を歩く。そして屋敷のとある一室の前で足を止めると、ノックもせずに扉を開けた。
「待たせたな」
レンブラントがそう言ったと同時に室内で待機していた部下達─── ラルク、ロヴィー、マース、モーゼスは、一糸乱れぬ動きで軍人の礼を取った。
そんな中、同じく部屋で待機していたフローチェがドレスの裾をバサバサと言わせながらレンブラントに詰め寄った。
「ねえ、予想以上に遅かったけど、あなたベルちゃんに変なことしてないでしょうね!?」
「……ああ」
出鼻を挫かれたレンブラントは、苦々しい顔をしながらも一先ず頷いた。
ただフローチェと一切目を合わせないところが妙に怪しい。
ここにいる全員が、レンブラントの嘘を瞬時に見破った。そんな中、ダミアンがレンブラントとフローチェの間に割って入った。
「ねえフローチェ、そんなことを言っては駄目だよ。レンだってさすがに熱を出しているベルちゃんを困らせるほど、不埒なことはしてないはずだよ。うん、多分」
余計に誤解を生む発言をした腐れ縁の青年に、レンブラントは心底苦い顔をする。
「……ダミアン。口を閉じろ」
「なんで?!」
せっかくフォローしたのにと悲しい顔をするダミアンを無視して、レンブラントは部屋の中央まで歩を進めた。
そして長い前髪をかき上げて、表彰をもとに戻してから口を開いた。
「改めて、皆、無事で何よりだ。ダミアン、フローチェ、二人にも感謝する。では、今後の予定を伝える」
「はっ」
部下達は生真面目な表情を作り、レンブラントの指令に耳を傾けた。
「ロヴィーとマースは俺と同行。ラルクとモーゼスは、ここで待機。ベルの警護に当たれ」
すかさず「はっ」と軍人らしい返事をする彼らに、レンブラントは一つ頷く。
しかし、これで終わりではない。彼らへの指令はまだ続きがあった。
「フローチェ、ドレスの予備は?」
「たぁーくさんあるわよ。それにうちのメイドの中には、優秀な針子もいるから安心して」
パチリと可愛らしいウィンクをフローチェがしたと同時に、ラルクは自分の役割を瞬時に察してしまい、この世の終わりのような顔をした。
「……隊長……また……ですか?」
ラルクはどうか間違いであれという念を送りながら、レンブラントに問いかける。
何を食べても、どんなに身体を鍛えても、華奢な体格を維持してしまうラルクは、変装というより女装に適した人材ではある。
だが、任務といえどやはり割り切ることができなかったりする。
そんなラルクに向け、レンブラントは無情にも否定をすることはしなかった。
「ああ、そうだ。それと、いい加減慣れろ」
「慣れませんよっ」
レンブラントは、同じ男として多少は不憫だと思っているのだろう。
器の大きい上官らしく、カッと目を見開いて反論するラルクの訴えを黙って聞くことにする。
しかし、頭の中では別のことを考えるのに忙しい。
全員が無事に合流できたのは、ベレンブラントがここフローチェの別宅に到着してから半日後だった。
後から知ったことだが、今回の事件の黒幕はクルトではなく、現ケルス領の領主でありベルの継母であるフロリーナだった。
軍人に刃を向けるという暴挙を取らなければならないほど、現ケルス領の領主は相当追い込まれているようだった。
それは領印を破壊したことを知ってしまったせいだろうか、もしくは国王が、ケルス領の一斉摘発に乗り出すことを察したからであろうか。
どちらにしても部下が誰一人も傷を負っていないことに心から安堵したものの、これからより一層気を引き締めなければならない。
雪が解ける前には、ベルを取り巻く憂いは全て片付くだろう。
しかし言い換えるなら、ここからが正念場でもある。
それに、ベルとの約束もある。
軍人嫌いの理由を語ったてくれたことは、意地っ張りで天邪鬼な彼女が、精一杯、己に心の中を見せようとしてくれたことだというのはわかる。
素直に嬉しかった。
ベルしか知らない。そしてとても大切な話を聞かされ、彼女の心の中に、自分の居場所を作って貰えたような気持ちになった。
今頃きっと着替えをしないまま、再び眠りに落ちているであろうベルの寝顔を想像して、レンブラントはぎゅっと目をつぶった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ここまでのお話が、過去に掲載していたものを加筆修正して再投稿していたものになります。
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