美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

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4.女神の一本釣りと、とある軍人の涙

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(ああ……私の馬鹿。なんてことを言っちゃったんだろう)

 ベルは、生まれて初めて自分の発言に後悔をした。

 本当は、あんな憎まれ口を叩くつもりなんて、これっぽちもなかった。

 そりゃあ確かにちょっとは、レンブラントが誰とキスしたのか気になったし、わざわざ口に出した彼に対してイラッとしたけど、でも大の大人が異性とふしだらなことをしていないほうが不自然だ。逆に彼が清らかな身である方が怖い。

 ただあんまりにも、レンブラントの瞳が真剣だったから、どうして良いのかわからなかっただけなのだ。

 それに、そもそもダダくさな返事をしたり、意地悪を言ったレンブラントが悪い。そうだ全部、彼のせいだ。
  
 ……と、思っているのに、ベルが取った行動は真逆のものだった。

「レンブラントさん、ごめんなさい」

 すぐ側でベッドに腰掛けているレンブラントのシャツの裾を、ベルはぎゅっと握った。

 そうすれば、なぜか彼は笑った。

「あんたに殊勝な態度を取られると妙に怖い……嵐になるような気がしてならないな」
「なっ」

 あまりの言い様に、思わず毒の一つでも吐きたくなる。

(違う違う。それじゃあ、いつもの流れになってしまう)
 
 だからベルは、むぎゅーっと唇を引き結んで鼻で深く呼吸をして、苛立ちを押さえた。

 次いで、こんな自分になってしまった理由を吐露する。

「...... 私、軍人が嫌いなんです。だから、あなたに必要以上に突っかかってしまうんです」
「そりゃあ、初耳だ」

(当たり前だ。初めて言うのだから)

 なんて言葉が出てきそうになるが、それもぐっと押し止めて再び口を開く。

「軍人は嘘つきだから嫌いなんです。こっちが一番欲しい言葉をくれたと思ったら平気でそれを裏切るんですから。しかも、二度と文句を言えないやり方で......だから私、軍人の言葉は全面的に信じないって決めたんです」
「それは、あんたのお父上のことか?」

 ベルが何を伝えたいのかすぐに察したレンブラントは、身体の向きを変えてこちらを覗き込む。

 じっと見つめられるのは居心地悪いが、それでもベルはこくりと首肯してから言葉を続けた。

「......あの日......いつもは何も言わずに外出する父が珍しく私に声を掛けたんです。”行ってくるよ。今日は早く帰れると思う”って。でも父は帰ってきませんでした。......いえ、正確には翌日に肉体は帰ってきましたが、魂はどっかに行ってしまったんです。翌日に帰るのが父にとって早く帰るという定義に当てはまるものだったかもしれませんが、父という存在の半分しか帰ってこなかったんですから、やっぱり嘘つきですよね」

 あの頃、すでにベルと父親であるラドバウトの間には、深い溝ができていた。フロリーナを後妻に迎えたせいで。

 ラドバウトは何とかベルとの関係を修復しようとしたが、話せば話すほど溝は深まるばかりだった。

 その原因の一つとして、ベルがまだ幼すぎたせいでもある。

 またフロリーナが執拗にベルを虐げていたこともあり、ラドバウトが話下手で、彼自身が後ろめたいことをしたという自覚があったから。

 日に日に関係が悪化していく中、ベルは父親を避けるようになった。徹底して顔を合わせないようにして、食事も自分の部屋で取った。

 ただそれは、父親を毛嫌いしていたからではない。
 顔を会わせれば憎まれ口を叩いてしまう自分が、嫌だったから。嫌いになりたくても、ベルは父親のことが大好きだった。

 だからあの日、関所に向かう父がわざわざ部屋に来て声をかけてくれたことが嬉しかった。

 戻ってきた時は、いつもは毒を吐いて終わりにしてしまう父親の話を、最後まで聞いてあげようと思った。そして、自分もひどい態度をとったことを謝ろうと思った。

 けれど、ラドバウトは帰ってこなかった。

 ベルはあの時、父親の死によって更に過酷な環境になる恐怖よりも、約束を破られたことが悔しくて悲しかった。

 ─── それから数年後、義理の姉のミランダは、元軍人ケンラートと結婚した。

 ケンラートは嘘つきで、横領に手を染めることに何の罪悪感を覚えず、平気な顔でベルを殴る。

 そんな最低な人間と同じ屋敷で生活するようになって、ベルはもう完璧に軍人が嫌いになってしまったのだ。
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