美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

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4.女神の一本釣りと、とある軍人の涙

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 ─── 結局のところ、ベルの疑問に答えてくれたのは、意気消沈したレンブラントではなくフローチェだった。

 フローチェとレンブラントがいとこ同士であることは間違いなく、またダミアンとも幼馴染である彼女は、どんなツテを使ったのかはわからないが、危機的状況を察してあの森に駆け付けてくれたらしい。

 そして移動中の馬車の中で気を失ったベルは、信じられないことにフローチェの別邸に到着してから3日間も高熱の為に意識が戻らなかったのだ。

 ちなみにベルが目を覚ました際に見た光景の真相は、レンブラントがベルの看病をしながら己の傷の手当をしていたところ、我慢の限界を超えたフローチェが部屋に飛び込んできて馬乗りになって責めていた─── ということだった。

 熱のせいで朦朧としていたベルは、寝起きで聞いたフローチェの罵倒は、てっきり『知らない小娘を連れ込んで』的な嫉妬からくるものだと思っていた。

 だがそれも、どうやら違うようだった。

 もちろん命の恩人であるフローチェに「あなた変態軍人に嫉妬したんですか?」などと聞けない。……というか聞いてはいけない。

 なぜなら、フローチェがこれまでの経緯の説明をすると共に、現在進行形で自分の看病をせっせとしてくれているからである。

 ちなみにレンブラントは、ベルからぐうの音も出ないことを言われ、ベッドの端に座って項垂れている。






「はぁーい、ベルちゃん。ちょっとうなじを拭いてあげたいから、頭、持ち上げられるかしら? うん、そうそう上手ね、良い子」

 汗でベタベタした首筋に濡れたタオルが触れて、ベルは心地よさに目を細めた。

 けれど、すぐにほっそりとした指が耳をくすぐり「ひゃん」と変な声を出してしまった。

「ふふっ、ここ弱いの?」
「……わかりません」

 耳たぶを弄ばれながら、ベルはそっとフローチェから視線を逸らして答えた。

 手厚い看護を受けているはずなのに、どうしてだかフローチェのことを”優しい人”というより”いやらしい人”と思ってしまう自分は、相当性格がねじ曲がっているからなのだろうか。

 そんなことを考えながら、ベルはフローチェから距離を取ろうとする。

「あの、フローチェさま、もう……大丈夫です」
「あらあら、そんなこと言っては駄目よ。寝汗を沢山かいたのだから、お着換えをしないといけませんわ」

 慈愛の籠った言葉のはずなのに、フローチェの息ははぁはぁと荒い。

 ゾクリと、ベルは熱の悪寒ではない寒さを覚えて、ぶるっと身を震わせてしまう。

 しかしフローチェはそんなベルを無視して、一旦ベッドから離れると、チェストから新しい寝間着を取り出して、再び戻って来てしまう。

「さぁベルちゃん、わたくしがお着換えさせてあげますからね」

 うっとりと目を細めて横たわるベルの毛布を剥ごうとした瞬間、鋭い声が飛んできた。

「いい加減にしろ、フローチェ。ベルが怖がっているだろう」

 ついさっきまでベッドの隅で打ちひしがれていたレンブラントは、そんなことなどなかったかのように怖い顔でフローチェを睨んでいる。

「後は俺がやっておく。部屋を出ていろ」

(いや、あなたも出て行ってくださいよ)

 ベルはそう言いたかったけれど、声が出なかった。有無を言わさないレンブラントの視線を受けてしまったから。

「…… ダミアンの言っていたことは本当だったのね」

 てっきりレンブラントに向けフローチェは罵声を浴びせると思っていたが、予想に反して、あっさりとベルから離れた。

 ただフローチェはすぐには部屋を出て行くことはせず、ベッドから3歩離れた場所で腕を組む。

「独占欲を丸出しにしているけれど、レン、あなたベルちゃんに、ちゃんと言ったの? レイカールトン侯爵は実は──……んぐぅ」

 俊敏な動きでフローチェの元まで移動したレンブラントは、荒々しくお喋りな彼女の口を片手で塞いだ。

「いらんことを喋らないように、その口を縫い付けるぞ」

 極限まで怒りを抑えた低いレンブラントの声音は、聞いてるだけで狼狽してしまうほどだった。

 しかし、フローチェは口を塞がれたまま、にこっと目を細めただけ。次いでレンブラントの脇腹を殴った。

「……痛っ」

 なんのてらいも無く傷口を殴られたレンブラントは、思わずフローチェの口元から手を離してしまった。

「レディに対して失礼極まりない態度を取ったのですから、自業自得ですわ。でも、怪我人に免じてこれくらいで許してあげますわよ。感謝なさいレン。あと、お喋りが過ぎたのは認めてあげるから、わたくしは部屋を出てあげますわ。床に額を擦り付けて感謝なさい─── じゃあね、ベルちゃん。また後で」

 ひらりとドレスの裾を靡かせ、廊下に出るフローチェはまるで妖精のように軽やかな動きだった。
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