美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

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3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない

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 何を思ってそうしているのかわからないけれど、無言で自分の両手をすっぽりと包み込んだレンブランドの手は、温かくてとても大きい。

 けれど、この手はもう既に他の誰かのものだと思っているベルは、そうされることが無性に腹が立つ。

「止血の邪魔ですから、手を離して下さい」
「このままで良い」
「……死ぬ気ですか?」
「この程度では死なんよ」

 雨でぐっしょりと濡れたベルのコートの袖口は、しっかりとレンブランドの生温い血を感じている。

 医学に通じていないベルとて、かなりの出血量で危険な状態であることはわかる。

 だから気休め程度にしかならないこんな止血だって、やるのとやらないとでは生死を分けるほど違うことは軍人である彼なら、言われなくてもわかっているはずだ。

(なのに、なぜ邪魔をするの?)

 どう考えてもレンブラントがベルに触れていたいだけなのだが、色気が無いことに当の本人は眉間に皺を寄せるだけだった。

「……あんたが俺の事を嫌うのは、気持ちの裏返しだったらどんなに良かったか」

 雨音と馬の蹄の音に交じって、そんな言葉が頭上から降ってきて、ベルは思わず顔を上げてしまった。

 レンブラントは自分の呟きが、聞こえていないと思っているのだろう。もしくは、己が呟いたことすら気付いていない様子で「ん?」と問いかけてくる。

 すぐさまベルはぶんっと音がする勢いで、視線を前に向けた。

 まかり間違っても「なんでそんなことを思ったの?」なんて聞けないから。そして違うのかと問われたら、ベルは否定できないから。

 バクバクと心臓が忙しいベルのことなどお構いなしで、馬はどんどん進んでいく。気付けば森を抜けようとしていた。

 ロヴィーが一層したのか、ラルク達が無事加勢してくれたのかわからないが、幸い覆面達は追ってはこない。

 そして前方を走る女性は器用に手綱を操り、再びレンブランドと並走した。 

「レン、あそこ見える?私の馬車があるの」
「ああ」
「で、一先ず私の別邸に向かうわ。すぐ近くだし。それで良いわよね?」
「致し方ないな」
「はんっ。何よその言い方。あと、言っておくけれど、あなたは御者席に乗ってちょうだいよね」
「……わかった」

 苦い顔をしながらも名も知らない女性の鬼畜な提案を受け入れたレンブラントに、ベルは思わず口を出してしまった。

「ちょっと、待ってくださいっ」

 さすがの物言いに、それはないだろうという思いでベルは女性を睨んでしまう。

 そうされた側の見知らぬ女性はムッとした表情はしていないが、小娘が意見をするなど思っていなかったのだろう。あからさまにぎょっとしている。

 それがなんだが無性に腹が立って、ベルは更に食って掛かる。 

「初対面でこんなことを言うのは失礼だとは存じておりますが、この軍人さんは怪我人です。しかも雨でこんなに寒いのに……御者席に座れなんてあんまりですっ」

 レンブランドの脇腹を押さえつつベルが噛みつけば、女性は「……まぁ」と言って、目を丸くした。

 だが、すぐにベルに向かって手を伸ばした。

「……可愛い……好き」
「は?」

 てっきりビンタの一つでもお見舞いされると思い歯を食いしばったベルだが、口から洩れたのは痛みを堪える呻き声ではなく、間の抜けた声だった。

「レン、この子、健気で良い子ね。わたくし、この子が欲しいわ」
「……やらんぞ」
「あら?いけませんこと?」

 こてんと首を倒しながら、女性はベルの頬を撫でる。

 その手つきが妙に艶めかしくて、ベルはもじもじとしてしまう。

「ふふっ……いじらしくて、いじりたくなるわ」
「フローチェ、やめろ。ベルが怖がっている」

 苛立つレンブランドの口調をものともせず、白魚の手はベルの頬から顎へと移動していく。

 最終的に、まるで猫のように喉をくすぐられてしまったベルだったが、思いもよらない展開に「……あ、この人、フローチェさんて言うんだ。名前も綺麗だなぁー」と、少しズレたことを考えてしまった。
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