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3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない
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レンブラントがベルを抱えたまま馬をわき腹を蹴ったと同時に、見知らぬ女性も馬を走らせぴったりと横に張り付く。
「レン、こっちよ。ちょっと離れた場所に馬車があるから。そこまで付いて来なさいっ」
「ああ、わかった」
馬の速度を緩めることなく、そんなやり取りをしている二人は、既に親しい間柄のようだった。
(…… 一体この女の人は誰なのだろう)
唯一、わかることと言えば、絶体絶命のピンチを救ってくれた恩人だ。
しかも、傷を負ったレンブラントが馬を走らせやすいように、なるべく足場が良い場所を選んで誘導してくれている。
美人で頭が切れて─── レンブラントは彼女に対して信頼を置いている。
それらの要素を合わせた結果、ベルは、とても面白くない結論に至ってしまった。
それと共に、とても困惑してしまった。
これまでずっとレンブラント対して憎まれ口を叩けるのは、自分だけに許された特権だと思い込んでいた。
でも、それは違った。
颯爽と馬に跨り前方を駆ける女性は、とっくにレンブラントからその権利を得ていたのだ。
レンブラントは顔は良い。地位の高い軍人で、自分より年上だ。
だから、そういう関係の女性がいたって、おかしくはない。いやむしろ、いない方が不思議だ。
なのにベルは、チクッと細い針で刺されたような痛みを感じて、左胸を手で押さえた。
馬鹿馬鹿しい話だけれど、その特権を、自分はとても大切にしていたようだった。
(─── 私だけが勝手にそう思い込んでいた)
笑ってしまう程、そのことに気付いてショックを受けてしまっている自分がいる。
レンブランドと自分は、ただの護衛をする人と受ける人という関係だけだというのに。
「…… やっぱり私、あなたのことが嫌いです」
ベルは憎々し気にレンブランドを睨みつけながら、自分のコートの袖を引っ張って彼の傷口に押し当てた。
力任せに止血をしながら憎まれ口を叩くベルに、レンブランドはちょっとだけ困った顔をする。
「なぁベル……あんたは今、俺を心配しているのか? それとも何か怒っているのか?」
「知りませんよ。そんなこと自分で考えてください」
「…… 怒っているんだな。……すまない」
レンブランドは具体的に謝罪をすることはなかったけれど、その声音は心からのものだった。
それがまたベルの癪にさわる。
「謝らなくて良いですよ、別に」
「俺の経験上、怒っていないという態度を取りつつ、”別に”と口にする奴は、総じて怒っているんだけどな」
「勝手な固定観念を押し付けないでください。変態ロリコン軍人さん、ご自身がロクな経験してないという発想は持っていないんですか?」
傷口に塩を塗り込むようなベルの毒に、レンブランドはほとほと困った顔をして肩を竦めた。
***
(……てんでわからん)
ついさっきまで勇ましく自分を守ろうとしてくれていた少女が、急に不機嫌になった。
その現実だけがレンブラントの目の前に突き付けられているが、その原因が色々ありすぎて、どれだか特定することができなかった。
ただ憎まれ口を叩きながらも、揺れる馬上で一生懸命に止血をしてくれる小さな手が愛おしくて─── 気付けばレンブラントは、その手をぎゅっと握ってしまっていた。
「レン、こっちよ。ちょっと離れた場所に馬車があるから。そこまで付いて来なさいっ」
「ああ、わかった」
馬の速度を緩めることなく、そんなやり取りをしている二人は、既に親しい間柄のようだった。
(…… 一体この女の人は誰なのだろう)
唯一、わかることと言えば、絶体絶命のピンチを救ってくれた恩人だ。
しかも、傷を負ったレンブラントが馬を走らせやすいように、なるべく足場が良い場所を選んで誘導してくれている。
美人で頭が切れて─── レンブラントは彼女に対して信頼を置いている。
それらの要素を合わせた結果、ベルは、とても面白くない結論に至ってしまった。
それと共に、とても困惑してしまった。
これまでずっとレンブラント対して憎まれ口を叩けるのは、自分だけに許された特権だと思い込んでいた。
でも、それは違った。
颯爽と馬に跨り前方を駆ける女性は、とっくにレンブラントからその権利を得ていたのだ。
レンブラントは顔は良い。地位の高い軍人で、自分より年上だ。
だから、そういう関係の女性がいたって、おかしくはない。いやむしろ、いない方が不思議だ。
なのにベルは、チクッと細い針で刺されたような痛みを感じて、左胸を手で押さえた。
馬鹿馬鹿しい話だけれど、その特権を、自分はとても大切にしていたようだった。
(─── 私だけが勝手にそう思い込んでいた)
笑ってしまう程、そのことに気付いてショックを受けてしまっている自分がいる。
レンブランドと自分は、ただの護衛をする人と受ける人という関係だけだというのに。
「…… やっぱり私、あなたのことが嫌いです」
ベルは憎々し気にレンブランドを睨みつけながら、自分のコートの袖を引っ張って彼の傷口に押し当てた。
力任せに止血をしながら憎まれ口を叩くベルに、レンブランドはちょっとだけ困った顔をする。
「なぁベル……あんたは今、俺を心配しているのか? それとも何か怒っているのか?」
「知りませんよ。そんなこと自分で考えてください」
「…… 怒っているんだな。……すまない」
レンブランドは具体的に謝罪をすることはなかったけれど、その声音は心からのものだった。
それがまたベルの癪にさわる。
「謝らなくて良いですよ、別に」
「俺の経験上、怒っていないという態度を取りつつ、”別に”と口にする奴は、総じて怒っているんだけどな」
「勝手な固定観念を押し付けないでください。変態ロリコン軍人さん、ご自身がロクな経験してないという発想は持っていないんですか?」
傷口に塩を塗り込むようなベルの毒に、レンブランドはほとほと困った顔をして肩を竦めた。
***
(……てんでわからん)
ついさっきまで勇ましく自分を守ろうとしてくれていた少女が、急に不機嫌になった。
その現実だけがレンブラントの目の前に突き付けられているが、その原因が色々ありすぎて、どれだか特定することができなかった。
ただ憎まれ口を叩きながらも、揺れる馬上で一生懸命に止血をしてくれる小さな手が愛おしくて─── 気付けばレンブラントは、その手をぎゅっと握ってしまっていた。
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