美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

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3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない

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(─── どうしよう……どうしたらいい??)

 ベルは短剣が刺さったままのレンブラントの脇腹を見つめながら、頭の中で最善の方法を考える。

 今すぐに彼を傷つけた短剣を抜いてしまいたい。しかし抜いてしまえば、出血がひどくなる。

 そうじゃなくても軍服には血がにじんでいるのだ、一刻も早く応急処置をしないと手遅れになる。

 ─── けれど、今、目の前に覆面達がいる。

 彼らは威嚇の為にレンブラントに向け、短剣を投げたわけでは無い。殺すために投げたのだ。

「……短剣には、毒が塗ってありますか?」
「どうだろうな。ある程度の毒には耐性があるからわからん」

 片腕でベルを抱いたまま、レンブラントは空いている方の手で己の脇腹に刺さっている短剣を抜いた。

 傷はかなり深いのだろう。すぐに歯を食いしばっていながらも、彼の口から僅かな呻き声が聞こえてくる。

 痛覚が戻ったベルにとって、それはあまりに辛い光景だった。
 そしてこれ以上、彼を危険な目に合わせたくないと、最悪な選択をしようとしてしまう。

 けれど、レンブラントは素早くベルの思考を読んで抱く腕に力を込める。

「自己犠牲なんていうつまらん選択をするなよ、ベル」

 嫌と言えば、何をされるか予測ができないほど、レンブラントの声は苛立っていた。

「…… 時間を稼ぐだけですよ。その間にこの状況を打破する策を考えてください。身体は動けなくても、頭は動きますよね?」
「あいにく俺は、絶好調な状態だから、あんたの手を借りる必要は無い」

 誰がどう聞いても嘘だとしか思えない発言をしたレンブラントは、ベルを抱き抱えて立ち上がろうとする。

 けれど立ち上がる寸前、よろけて地面に片膝をついてしまった。その一瞬の隙を付いて、ベルはレンブラントの腕からするりと抜け出した。

 すぐに太い腕が己の身体を捕らえようとするが、容易にベルは避けることができた。それほどまでにレンブラントの動きは傷のせいで鈍かった。

 ベルはレンブラントを背後に庇うと、彼だけに聞こえる声量で囁いた。

「逃げる体力だけは温存しといてくださいよ。あなたを抱いて逃げれるほど、私は力持ちじゃないんですから」
「俺だって女に抱かれて逃げるなんて無様な真似はしたくない」
「こんなザマで、よくもまあそんなことが言えるとは……軍人さんは意外に冗談がお好きなようで」

 渋面を作るレンブラントに向け、ベルは鼻で笑った。

 次いでポケットから、軍の紋章が刻まれた短剣を取り出し鞘を抜く。

「この人を殺せと言われたの?それとも、私を連れてこいって言われた?」

 覆面の一人が、ベルを指さした。

 つまり質問の返答は後者ということなのだろう。

 いや、最悪の事態はいつでも考えておかなければならない。

 レンブラントを殺してから、自分を依頼主の元に連れて行くという意味かもしれない。……きっと、そうなのだろう。

(よりにもよってお偉い軍人を殺害しようなんて、身の程知らずにもほどがある。さすがクズト)

 しかし、今ここで覆面達に説教しても、無意味なことだ。彼らとて、ある程度の覚悟はあるはずだ。

 だからベルは、今、自分ができる最善の方法を選ぶことにする。

「じゃあ、この人が居なくなるまでここで待ってて。そうしたら、大人しくあなた達と一緒に付いて行くから」

 ここで、素直に覆面達が後退してくれるのを期待したけれど、それは少々図々しいお願いだったようだ。動く気配は無い。

(仕方が無い奥の手を使うか)

 心の中でそう言い捨てると、ベルは手にしていた短剣の切っ先を己の喉に当てた。

「離れて。そうしなかったら、これで自分の喉を斬るからね」

 威嚇するようにそう言い放った途端、微かに小馬鹿にするような笑いが聞こえて来た。

(へぇ、上等じゃん)

 非力な小娘に何ができると言いたげな笑いにカチンときたベルは、なんの躊躇もなく自分の首筋に斬り込みを入れる。

 すぐさま背後から、ぞっとするような怒りのオーラが伝わってきたが一先ず無視する。

 幸いにも、前方の覆面達にはそこそこの効果があったようで、じり……じり、と僅かに距離が開く。

 ベルは固唾をのんで、覆面達が更に距離を取るのを待つ。

(あと、少し。もうちょっとだけ離れて)

 そうベルが強く願った瞬間、神様がそれに応えるかのように、馬の嘶きと共に地を揺るがすような蹄の音が、この緊迫した空気を引き裂いた。
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