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3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない
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レンブラントは的確に覆面男達の急所を狙って剣をふるっていく。
暗闇で地面は見えないが、きっとざあざあと雨が降り注ぐ今、この辺りは血の海になっているだろう。
ベルは真っ赤に染まった森を想像して、思わずえずいてしまった。
「ベル、目を閉じていろ。俺だって、あんたにこんなもん見せたくない」
こんなもんというのが、死体なのか、人を斬り殺す彼の姿なのか。
(ああ、もしかして自分の肩付近が汚れるかもしれないと危機を感じて見るなと言っているのか)
この期に及んでベルはそんな悪態を心の中で吐く。
ただ本気ではない。いつもの調子を取り戻したかっただけ。
「平気ですよ。変態ロリコン軍人に、人殺しという要素が加わっても、さして怖いことはありません」
「そりゃあ、上等だ」
軽口を叩いても、レンブラントはずっと覆面達と対峙している。
けれど、どう考えてもこれは多勢に無勢だ。しかも彼の片手は自分を抱いているせいで塞がっている。
レンブラントが底なしの体力があり、とても強いとしても、圧倒的に不利な状況だった。
「降ろして下さい。邪魔しませんから」
「一度逃亡したあんたを俺が離すと思ってんのか? あー……そっか、そっか、そんなに俺との口づけが気に入ったのか。俺も罪な男だな。こんなガキんちょに、大人の味を覚えさせるとはな」
「……前を見て、真面目に戦ってください。死にますよ?」
「ご心配、どうも」
ははっと笑うレンブラントだったけれど、息が上がっている。
そして、あれだけ覆面達を倒したというのに、一向に数が減らない。まるで春先の虫のように湧いて出てくる。
「このままじゃ埒が明かないな」
吐き捨てるようにそう言ったレンブラントは、ベルを抱く腕にぐっと力を込めた。
「ちょっと揺れるが、振り落とされるなよ」
「は──── ……い!?」
何をするのか全く理解できていなかったベルは、レンブラントが地面を蹴ったと同時に、不覚にも仰け反ってしまった。
己の力量を冷静に判断したレンブラントは、覆面達と距離を取ることを選んだのだ。
とはいえ、覆面達はこうなることも予測していたのだろう。動揺する素振りも無く、後を追ってくる。
覆面達は皆、手練れだ。
足場が悪い森の中とはいえ、レンブラント達を見逃してくれるほど身体能力は低くない。
「さすがだな。あいつらを無理矢理改心させて俺の部下に欲しいくらいだ」
「冗談なら笑えないですし、本気なら、あなたの神経を疑います」
「そうか? 一昔の騎士じゃあるまいし、出自より率先力になる奴を俺は評価するぞ」
「…… そんな基準で良くお偉い軍人になれましたね?呆れてものが言えません」
「ははっ。そう言うな。言っておくがラルクは元貧民街のスリで、ロヴィーは元敵国の残党兵、マースに至っては俺を殺そうとした暗殺者だ」
「嘘?!」
「どうだろうな。嘘かどうかは、後で本人達に聞いてみろ」
走りながら、部下の黒歴史を暴露するレンブラントは、性格が良いとは言えない。
しかし、こんな時なのにベルは彼の懐の大きさを知ってしまい、ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚を覚えてしまう。
しかし、ここで事態が急変した。
突然、レンブラントはベルを抱いたまま転倒したのだ。
強い衝撃はあったにせよ、レンブラントが下敷きになったおかげで、地面に叩きつけられることは無かった。
けれど、ベルはホッとするどころか、絶望で目の前が真っ暗になった。
レンブラントの脇腹に、短剣が突き刺さっていたのだ。
暗闇で地面は見えないが、きっとざあざあと雨が降り注ぐ今、この辺りは血の海になっているだろう。
ベルは真っ赤に染まった森を想像して、思わずえずいてしまった。
「ベル、目を閉じていろ。俺だって、あんたにこんなもん見せたくない」
こんなもんというのが、死体なのか、人を斬り殺す彼の姿なのか。
(ああ、もしかして自分の肩付近が汚れるかもしれないと危機を感じて見るなと言っているのか)
この期に及んでベルはそんな悪態を心の中で吐く。
ただ本気ではない。いつもの調子を取り戻したかっただけ。
「平気ですよ。変態ロリコン軍人に、人殺しという要素が加わっても、さして怖いことはありません」
「そりゃあ、上等だ」
軽口を叩いても、レンブラントはずっと覆面達と対峙している。
けれど、どう考えてもこれは多勢に無勢だ。しかも彼の片手は自分を抱いているせいで塞がっている。
レンブラントが底なしの体力があり、とても強いとしても、圧倒的に不利な状況だった。
「降ろして下さい。邪魔しませんから」
「一度逃亡したあんたを俺が離すと思ってんのか? あー……そっか、そっか、そんなに俺との口づけが気に入ったのか。俺も罪な男だな。こんなガキんちょに、大人の味を覚えさせるとはな」
「……前を見て、真面目に戦ってください。死にますよ?」
「ご心配、どうも」
ははっと笑うレンブラントだったけれど、息が上がっている。
そして、あれだけ覆面達を倒したというのに、一向に数が減らない。まるで春先の虫のように湧いて出てくる。
「このままじゃ埒が明かないな」
吐き捨てるようにそう言ったレンブラントは、ベルを抱く腕にぐっと力を込めた。
「ちょっと揺れるが、振り落とされるなよ」
「は──── ……い!?」
何をするのか全く理解できていなかったベルは、レンブラントが地面を蹴ったと同時に、不覚にも仰け反ってしまった。
己の力量を冷静に判断したレンブラントは、覆面達と距離を取ることを選んだのだ。
とはいえ、覆面達はこうなることも予測していたのだろう。動揺する素振りも無く、後を追ってくる。
覆面達は皆、手練れだ。
足場が悪い森の中とはいえ、レンブラント達を見逃してくれるほど身体能力は低くない。
「さすがだな。あいつらを無理矢理改心させて俺の部下に欲しいくらいだ」
「冗談なら笑えないですし、本気なら、あなたの神経を疑います」
「そうか? 一昔の騎士じゃあるまいし、出自より率先力になる奴を俺は評価するぞ」
「…… そんな基準で良くお偉い軍人になれましたね?呆れてものが言えません」
「ははっ。そう言うな。言っておくがラルクは元貧民街のスリで、ロヴィーは元敵国の残党兵、マースに至っては俺を殺そうとした暗殺者だ」
「嘘?!」
「どうだろうな。嘘かどうかは、後で本人達に聞いてみろ」
走りながら、部下の黒歴史を暴露するレンブラントは、性格が良いとは言えない。
しかし、こんな時なのにベルは彼の懐の大きさを知ってしまい、ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚を覚えてしまう。
しかし、ここで事態が急変した。
突然、レンブラントはベルを抱いたまま転倒したのだ。
強い衝撃はあったにせよ、レンブラントが下敷きになったおかげで、地面に叩きつけられることは無かった。
けれど、ベルはホッとするどころか、絶望で目の前が真っ暗になった。
レンブラントの脇腹に、短剣が突き刺さっていたのだ。
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