49 / 117
3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない
5
しおりを挟む
痛覚を取り戻してから、ベルはますますレンブラントのことが嫌いになった。
口に何かを含めば、染みるし痛いし、料理がしっかり味わえない。
それにちょっと動く度に、背中と脇腹が悲鳴を上げる。だから馬車の揺れがこたえる。
夜は夜でベッドに入ってうっかり寝返りをうったら、痛みで飛び起きる。
そんなわけで、ただ馬車に乗ってえっちらおっちら王都に向かっているだけなのに、ベルは披露困憊だった。
(───......これも全部、全部、ぜぇーんぶ、レンブラントのせいだっ)
痛みなんてやっぱり無くて良い。邪魔なだけだ。
そんなふうに面と向かってレンブラントに悪態を吐いてみても、彼は『そうか』と言って笑うだけ。
人が痛みでのたうち回っているのに、何が楽しいのだろうか。このド変態。……という言葉もしっかり声に出して言ってみた。
さすがにムッとした顔をしたけれど、やっぱりレンブラントは嬉しそうだった。
もしかしたら彼は隠れマゾヒストなのかもしれない。……気持ち悪い、引く。さすがにこれは声には出さなかった。
でも、あの大きな手で触れられるのは嫌じゃない。呆れた顔も憎くらしいとは思えない。
ただじっと見つめられるのは居心地悪くて困る。だからといって見られていないと、つい毒を吐きたくなる。
そんな矛盾する気持ちが何なのかはわからない。ただ、ちょっとでもその理由を考えるときゅっと心臓がいたくなるし、もやもやとした気持ちになる。
だから考えないのが一番だ。
そもそもレンブラントに向かう気持ちがわかったところでどうなる?こう言ってはアレだけれど、何の特にもならない。
そりゃあスッキリはするだろうけれど。でも、その後なんだかかとてつもなく面倒臭いことになりそうな予感がする。
とどのつまり、やっぱり考えないのが正解だ。
(でも、でも、でも......これは、考えるべきだろう)
どうして自分は寝巻き姿にコートを羽織った状態で、レンブラントと仲良く森の中に隠れなければならないのだろうかということは。
しかも、現在進行形で。
ベルは長々とした思考を一旦中断して、すぐ側......というが、がっしり自分を抱き抱えている銀髪軍人に向かって口を開く。
「あのう」
「黙れ」
「いや、説明をしてくれたら黙りますけ」
「良いから黙れ、気絶させられたいのか?」
「......」
途中で被せられた言葉は、なんとも物騒なものだった。
そんなことをされる理由など何一つ思い当たらないベルは、ムッとしてレンブラントを睨み付ける。でも、彼は余所を向いているので、その視線に気付いてもくれない。
無視をされているわけではない。レンブラントはとても忙しいのだ。
でもベルは彼が多忙を極めている理由がわからない。
***
───つい1時間ほど前のこと。
痛む背中と脇腹を庇いつつようやっと寝入ったベルだったけれど、突然レンブラントに叩き起こされたのだ。
いや、起こされるというより、物理的に持ち上げられ強制的に目が覚めたのだ。
そして寝ぼけ眼で「えっ?ちょっ?は?なになに?」と混乱を極めるベルを無視して、レンブラントはこんな森の中に移動したのだ。
全くもって意味がわからない。あと、寒い。
コートに包んでくれたのは、彼なりの優しさなのだろうが、どちらかと言えば状況説明をしてくれた方がよっぽど有り難い。
でも、レンブラントは黙れと言った。
これまで見たことも無いほど怖い顔で。その顔を見れば、不測の事態が起こってしまったというのだけは把握できる。
だから、ベルは聞きたいのだ。
こんな状況になったのは、多分自分に関わることのはずだから。
なのに、レンブラントは何も答えてはくれない。その代わりに、空からポタリと滴が降ってきた。
口に何かを含めば、染みるし痛いし、料理がしっかり味わえない。
それにちょっと動く度に、背中と脇腹が悲鳴を上げる。だから馬車の揺れがこたえる。
夜は夜でベッドに入ってうっかり寝返りをうったら、痛みで飛び起きる。
そんなわけで、ただ馬車に乗ってえっちらおっちら王都に向かっているだけなのに、ベルは披露困憊だった。
(───......これも全部、全部、ぜぇーんぶ、レンブラントのせいだっ)
痛みなんてやっぱり無くて良い。邪魔なだけだ。
そんなふうに面と向かってレンブラントに悪態を吐いてみても、彼は『そうか』と言って笑うだけ。
人が痛みでのたうち回っているのに、何が楽しいのだろうか。このド変態。……という言葉もしっかり声に出して言ってみた。
さすがにムッとした顔をしたけれど、やっぱりレンブラントは嬉しそうだった。
もしかしたら彼は隠れマゾヒストなのかもしれない。……気持ち悪い、引く。さすがにこれは声には出さなかった。
でも、あの大きな手で触れられるのは嫌じゃない。呆れた顔も憎くらしいとは思えない。
ただじっと見つめられるのは居心地悪くて困る。だからといって見られていないと、つい毒を吐きたくなる。
そんな矛盾する気持ちが何なのかはわからない。ただ、ちょっとでもその理由を考えるときゅっと心臓がいたくなるし、もやもやとした気持ちになる。
だから考えないのが一番だ。
そもそもレンブラントに向かう気持ちがわかったところでどうなる?こう言ってはアレだけれど、何の特にもならない。
そりゃあスッキリはするだろうけれど。でも、その後なんだかかとてつもなく面倒臭いことになりそうな予感がする。
とどのつまり、やっぱり考えないのが正解だ。
(でも、でも、でも......これは、考えるべきだろう)
どうして自分は寝巻き姿にコートを羽織った状態で、レンブラントと仲良く森の中に隠れなければならないのだろうかということは。
しかも、現在進行形で。
ベルは長々とした思考を一旦中断して、すぐ側......というが、がっしり自分を抱き抱えている銀髪軍人に向かって口を開く。
「あのう」
「黙れ」
「いや、説明をしてくれたら黙りますけ」
「良いから黙れ、気絶させられたいのか?」
「......」
途中で被せられた言葉は、なんとも物騒なものだった。
そんなことをされる理由など何一つ思い当たらないベルは、ムッとしてレンブラントを睨み付ける。でも、彼は余所を向いているので、その視線に気付いてもくれない。
無視をされているわけではない。レンブラントはとても忙しいのだ。
でもベルは彼が多忙を極めている理由がわからない。
***
───つい1時間ほど前のこと。
痛む背中と脇腹を庇いつつようやっと寝入ったベルだったけれど、突然レンブラントに叩き起こされたのだ。
いや、起こされるというより、物理的に持ち上げられ強制的に目が覚めたのだ。
そして寝ぼけ眼で「えっ?ちょっ?は?なになに?」と混乱を極めるベルを無視して、レンブラントはこんな森の中に移動したのだ。
全くもって意味がわからない。あと、寒い。
コートに包んでくれたのは、彼なりの優しさなのだろうが、どちらかと言えば状況説明をしてくれた方がよっぽど有り難い。
でも、レンブラントは黙れと言った。
これまで見たことも無いほど怖い顔で。その顔を見れば、不測の事態が起こってしまったというのだけは把握できる。
だから、ベルは聞きたいのだ。
こんな状況になったのは、多分自分に関わることのはずだから。
なのに、レンブラントは何も答えてはくれない。その代わりに、空からポタリと滴が降ってきた。
1
お気に入りに追加
985
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。
当麻月菜
恋愛
平民だけれど裕福な家庭で育ったシャンディアナ・フォルト(通称シャンティ)は、あり得ないことに結婚式当日に花婿に逃げられてしまった。
それだけでも青天の霹靂なのだが、今度はイケメン軍人(ギルフォード・ディラス)に連れ去られ……偽装夫婦を演じる羽目になってしまったのだ。
信じられないことに、彼もまた結婚式当日に花嫁に逃げられてしまったということで。
少しの同情と、かなりの脅迫から始まったこの偽装結婚の日々は、思っていたような淡々とした日々ではなく、ドタバタとドキドキの連続。
そしてシャンティの心の中にはある想いが芽生えて……。
※★があるお話は主人公以外の視点でのお話となります。
※他のサイトにも重複投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる