美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
48 / 117
3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない

4★

しおりを挟む
 レンブラントは音を立てずに窓辺から離れると、執務机の引き出しを開けた。

 ほとんど空のそこには、一つだけ厳重に封がされた小箱がある。それをレンブラントは手に取ると、乱暴に封を外し中身を取り出した。

 箱の中身は銃弾だった。

 レンブラントは常に上着の内側に携帯している拳銃を取り出し、充填している弾の数を確認する。足りない分は箱から補充する。残りは上着のポケットに詰め込んだ。

 それを横目に見ながら、ダミアンはため息交じり呟いた。

「──……数えてざっと15、6かぁ。そしてこの砦には、ベルを含めて4人。いやこれピンチだね」
「いや、地下室に3人事情を聞かずに護衛を買って出てくれた助っ人がいる」
「お?抜かり無いね」

 窓辺から動かず顔だけをレンブラントの方に向けたダミアンは、流石と言いたげに口笛を小さく鳴らした。

 そういうチャラチャラした仕草が元々好みではないレンブラントだけれど、今に限ってはそれを咎めることはせず、今度は本棚に移動しながら補足する。

 上官しか知らないことだが、大抵本棚にはからくりがあり、有事の際に使用できる予備の拳銃が保管されているはずだ。

「ちょうど同期がこの近くまで視察に来てたからな。クラーク卿の名を出したら二つ返事で働きの良い部下を差し出してくれた」
「さっすがだねぇー。じゃあ色々頑張ったご褒美に、ベルさんを連れて逃げる権利をレンに譲ってあげるよ」
「……は?」
 
 さらりと言ったダミアンの言葉が理解できず、レンブラントは本棚に手を突っ込んだまま間の抜けた声を出してしまった。

 けれどすぐに険しい表情で口を開いた。

 ダミアンは剣に覚えはある。けれどそれは一般的な宮廷貴族より腕が立つというだけで、実践となれば軍人の足元にも及ばない。

 ここはダミアンがベルを連れて安全な場所に逃げるのが一番だ。それにダミアンはベルにとって他人ではない。

「馬鹿を言うな。ここは俺が残る。お前が」
「いや。レンが行って」

 レンブラントの言葉を遮ったダミアンは、にっこりと笑った。

「だってレンが一番強いから。ベルさんの傍にいるのが相応しいと思うよ」

 口調は穏やかだが、目は強い意思を持っている。

 ダミアンとはそこそこ長い付き合いだ。こうなったら、梃子てこでも動かないことをレンブラントは良く知っている。

(くそっ、こういう奴だから俺は縁を切ることができない)

 口を開けばちゃらんぽらんなことしか言わないし、人を苛立たせることだけ長けていて、親の気苦労に気付いているのに好き勝手な行動ばかりする。

 そんなダミアンだけれど、有事の際には笑って危険を顧みずもっとも良い手段を選ぶことができる。

 そんな彼のことをレンブラントはどうしたって嫌いにはなれない。

「……ダミアン、死ぬなよ」
「やめてくれよ、縁起でもない。僕はベルちゃんからカードゲームで1勝するまで絶対に死なないから」

 肩を竦ませてみせるダミアンは、心外だと言いたげだった。

(その自信は、どこからくるのやら)

 レンブラントは、やれやれといった感じで溜息を吐いた。

「……そうか。お前、不老不死になりたいようだな」
「僕の目標をあっさり踏み潰すのやめてくれない?せめて今は頑張れって言ってほしかったな」
「じゃあ、がんばれ」
「雑っ」

 軽口を叩きながらもダミアンは、部屋の壁側に移動する。そして立てかけてあった剣を取った。鞘は必要ないと判断して、剥き出しの状態で片手で握りしめる。

 そして「じゃあね」と言い捨てて颯爽と部屋を飛び出そうとしたけれど、レンブラントに呼び止められた。

「持って行け。弾丸に限りがあるから、無駄使いはするなよ」

 乱暴に投げつけられたのは拳銃だった。
 弾倉を確認すれば、すでに満杯に銃弾が詰められている。

「え?でも……それじゃあ、レンは剣だけになっちゃうよ?」
「アホか俺の相棒を誰が貸すものか。これは予備だ。でも絶対に無くすなよ」

 レンブラントが上着を少し開いて自身の拳銃を見せれば、ダミアンは強く頷いてそれを受け取った。

 そして今度こそ部屋を出ようとした。けれど、何か大事なことを思い出したようで、小さく声を上げてレンブラントに振り返った。

「あっ、言い忘れていたけれど」
「なんだ?」
「君の従妹のフローチェさんなんだけど、実は今」
「くだらん。後にしてくれ」

 忙しそうに部屋を立ち回るレンブラントは、ダミアンの顔を見ずに一蹴した。

 と、同時に庭がにわかに騒がしくなった。地下で待機していた軍人達が動き出したのだ。

 レンブラントとダミアンは弾かれたように窓に目を向ける。次いで、己のやるべきことをするため動き出した。

 ただダミアンは部屋を出る瞬間、「ま、いっか。どうせ、すぐにわかるだろうし」と呑気な声で呟いた。

 それがレンブラントの元に届いたかどうかはわからないが、ダミアンの呟きは現実となる。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...