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3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない
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レンブラントは音を立てずに窓辺から離れると、執務机の引き出しを開けた。
ほとんど空のそこには、一つだけ厳重に封がされた小箱がある。それをレンブラントは手に取ると、乱暴に封を外し中身を取り出した。
箱の中身は銃弾だった。
レンブラントは常に上着の内側に携帯している拳銃を取り出し、充填している弾の数を確認する。足りない分は箱から補充する。残りは上着のポケットに詰め込んだ。
それを横目に見ながら、ダミアンはため息交じり呟いた。
「──……数えてざっと15、6かぁ。そしてこの砦には、ベルを含めて4人。いやこれピンチだね」
「いや、地下室に3人事情を聞かずに護衛を買って出てくれた助っ人がいる」
「お?抜かり無いね」
窓辺から動かず顔だけをレンブラントの方に向けたダミアンは、流石と言いたげに口笛を小さく鳴らした。
そういうチャラチャラした仕草が元々好みではないレンブラントだけれど、今に限ってはそれを咎めることはせず、今度は本棚に移動しながら補足する。
上官しか知らないことだが、大抵本棚にはからくりがあり、有事の際に使用できる予備の拳銃が保管されているはずだ。
「ちょうど同期がこの近くまで視察に来てたからな。クラーク卿の名を出したら二つ返事で働きの良い部下を差し出してくれた」
「さっすがだねぇー。じゃあ色々頑張ったご褒美に、ベルさんを連れて逃げる権利をレンに譲ってあげるよ」
「……は?」
さらりと言ったダミアンの言葉が理解できず、レンブラントは本棚に手を突っ込んだまま間の抜けた声を出してしまった。
けれどすぐに険しい表情で口を開いた。
ダミアンは剣に覚えはある。けれどそれは一般的な宮廷貴族より腕が立つというだけで、実践となれば軍人の足元にも及ばない。
ここはダミアンがベルを連れて安全な場所に逃げるのが一番だ。それにダミアンはベルにとって他人ではない。
「馬鹿を言うな。ここは俺が残る。お前が」
「いや。レンが行って」
レンブラントの言葉を遮ったダミアンは、にっこりと笑った。
「だってレンが一番強いから。ベルさんの傍にいるのが相応しいと思うよ」
口調は穏やかだが、目は強い意思を持っている。
ダミアンとはそこそこ長い付き合いだ。こうなったら、梃子でも動かないことをレンブラントは良く知っている。
(くそっ、こういう奴だから俺は縁を切ることができない)
口を開けばちゃらんぽらんなことしか言わないし、人を苛立たせることだけ長けていて、親の気苦労に気付いているのに好き勝手な行動ばかりする。
そんなダミアンだけれど、有事の際には笑って危険を顧みずもっとも良い手段を選ぶことができる。
そんな彼のことをレンブラントはどうしたって嫌いにはなれない。
「……ダミアン、死ぬなよ」
「やめてくれよ、縁起でもない。僕はベルちゃんからカードゲームで1勝するまで絶対に死なないから」
肩を竦ませてみせるダミアンは、心外だと言いたげだった。
(その自信は、どこからくるのやら)
レンブラントは、やれやれといった感じで溜息を吐いた。
「……そうか。お前、不老不死になりたいようだな」
「僕の目標をあっさり踏み潰すのやめてくれない?せめて今は頑張れって言ってほしかったな」
「じゃあ、がんばれ」
「雑っ」
軽口を叩きながらもダミアンは、部屋の壁側に移動する。そして立てかけてあった剣を取った。鞘は必要ないと判断して、剥き出しの状態で片手で握りしめる。
そして「じゃあね」と言い捨てて颯爽と部屋を飛び出そうとしたけれど、レンブラントに呼び止められた。
「持って行け。弾丸に限りがあるから、無駄使いはするなよ」
乱暴に投げつけられたのは拳銃だった。
弾倉を確認すれば、すでに満杯に銃弾が詰められている。
「え?でも……それじゃあ、レンは剣だけになっちゃうよ?」
「アホか俺の相棒を誰が貸すものか。これは予備だ。でも絶対に無くすなよ」
レンブラントが上着を少し開いて自身の拳銃を見せれば、ダミアンは強く頷いてそれを受け取った。
そして今度こそ部屋を出ようとした。けれど、何か大事なことを思い出したようで、小さく声を上げてレンブラントに振り返った。
「あっ、言い忘れていたけれど」
「なんだ?」
「君の従妹のフローチェさんなんだけど、実は今」
「くだらん。後にしてくれ」
忙しそうに部屋を立ち回るレンブラントは、ダミアンの顔を見ずに一蹴した。
と、同時に庭がにわかに騒がしくなった。地下で待機していた軍人達が動き出したのだ。
レンブラントとダミアンは弾かれたように窓に目を向ける。次いで、己のやるべきことをするため動き出した。
ただダミアンは部屋を出る瞬間、「ま、いっか。どうせ、すぐにわかるだろうし」と呑気な声で呟いた。
それがレンブラントの元に届いたかどうかはわからないが、ダミアンの呟きは現実となる。
ほとんど空のそこには、一つだけ厳重に封がされた小箱がある。それをレンブラントは手に取ると、乱暴に封を外し中身を取り出した。
箱の中身は銃弾だった。
レンブラントは常に上着の内側に携帯している拳銃を取り出し、充填している弾の数を確認する。足りない分は箱から補充する。残りは上着のポケットに詰め込んだ。
それを横目に見ながら、ダミアンはため息交じり呟いた。
「──……数えてざっと15、6かぁ。そしてこの砦には、ベルを含めて4人。いやこれピンチだね」
「いや、地下室に3人事情を聞かずに護衛を買って出てくれた助っ人がいる」
「お?抜かり無いね」
窓辺から動かず顔だけをレンブラントの方に向けたダミアンは、流石と言いたげに口笛を小さく鳴らした。
そういうチャラチャラした仕草が元々好みではないレンブラントだけれど、今に限ってはそれを咎めることはせず、今度は本棚に移動しながら補足する。
上官しか知らないことだが、大抵本棚にはからくりがあり、有事の際に使用できる予備の拳銃が保管されているはずだ。
「ちょうど同期がこの近くまで視察に来てたからな。クラーク卿の名を出したら二つ返事で働きの良い部下を差し出してくれた」
「さっすがだねぇー。じゃあ色々頑張ったご褒美に、ベルさんを連れて逃げる権利をレンに譲ってあげるよ」
「……は?」
さらりと言ったダミアンの言葉が理解できず、レンブラントは本棚に手を突っ込んだまま間の抜けた声を出してしまった。
けれどすぐに険しい表情で口を開いた。
ダミアンは剣に覚えはある。けれどそれは一般的な宮廷貴族より腕が立つというだけで、実践となれば軍人の足元にも及ばない。
ここはダミアンがベルを連れて安全な場所に逃げるのが一番だ。それにダミアンはベルにとって他人ではない。
「馬鹿を言うな。ここは俺が残る。お前が」
「いや。レンが行って」
レンブラントの言葉を遮ったダミアンは、にっこりと笑った。
「だってレンが一番強いから。ベルさんの傍にいるのが相応しいと思うよ」
口調は穏やかだが、目は強い意思を持っている。
ダミアンとはそこそこ長い付き合いだ。こうなったら、梃子でも動かないことをレンブラントは良く知っている。
(くそっ、こういう奴だから俺は縁を切ることができない)
口を開けばちゃらんぽらんなことしか言わないし、人を苛立たせることだけ長けていて、親の気苦労に気付いているのに好き勝手な行動ばかりする。
そんなダミアンだけれど、有事の際には笑って危険を顧みずもっとも良い手段を選ぶことができる。
そんな彼のことをレンブラントはどうしたって嫌いにはなれない。
「……ダミアン、死ぬなよ」
「やめてくれよ、縁起でもない。僕はベルちゃんからカードゲームで1勝するまで絶対に死なないから」
肩を竦ませてみせるダミアンは、心外だと言いたげだった。
(その自信は、どこからくるのやら)
レンブラントは、やれやれといった感じで溜息を吐いた。
「……そうか。お前、不老不死になりたいようだな」
「僕の目標をあっさり踏み潰すのやめてくれない?せめて今は頑張れって言ってほしかったな」
「じゃあ、がんばれ」
「雑っ」
軽口を叩きながらもダミアンは、部屋の壁側に移動する。そして立てかけてあった剣を取った。鞘は必要ないと判断して、剥き出しの状態で片手で握りしめる。
そして「じゃあね」と言い捨てて颯爽と部屋を飛び出そうとしたけれど、レンブラントに呼び止められた。
「持って行け。弾丸に限りがあるから、無駄使いはするなよ」
乱暴に投げつけられたのは拳銃だった。
弾倉を確認すれば、すでに満杯に銃弾が詰められている。
「え?でも……それじゃあ、レンは剣だけになっちゃうよ?」
「アホか俺の相棒を誰が貸すものか。これは予備だ。でも絶対に無くすなよ」
レンブラントが上着を少し開いて自身の拳銃を見せれば、ダミアンは強く頷いてそれを受け取った。
そして今度こそ部屋を出ようとした。けれど、何か大事なことを思い出したようで、小さく声を上げてレンブラントに振り返った。
「あっ、言い忘れていたけれど」
「なんだ?」
「君の従妹のフローチェさんなんだけど、実は今」
「くだらん。後にしてくれ」
忙しそうに部屋を立ち回るレンブラントは、ダミアンの顔を見ずに一蹴した。
と、同時に庭がにわかに騒がしくなった。地下で待機していた軍人達が動き出したのだ。
レンブラントとダミアンは弾かれたように窓に目を向ける。次いで、己のやるべきことをするため動き出した。
ただダミアンは部屋を出る瞬間、「ま、いっか。どうせ、すぐにわかるだろうし」と呑気な声で呟いた。
それがレンブラントの元に届いたかどうかはわからないが、ダミアンの呟きは現実となる。
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