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3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない
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ダミアンはレイカールトン侯爵のことを、それはそれはよく知っている。
だが、レンブラントはレイカールトン侯爵のことを話題に出されるのは、本当に不愉快だった。
だから「お前本当に黙れ」と目で訴えるレンブラントだけれど、やっぱりダミアンは口を閉ざすことは無い。
それどころか、執務机に寄り掛かるレンブラントに近づき、膝を折って覗き込むように喋りだす。
その目は腐れ縁仲だからこそ、意地悪く輝いている。
「ははっ、敢えて侯爵様のことを伝えないのはレイらしくないけど、変態を否定するところはさすがだね」
「黙れ」
「っていうか、話しちゃえば良いじゃん。レイカールトン侯爵は実はベルの───」
「黙れと言っているのが聞こえないのか?ダミアン」
「……ごめんなさい」
2回目の”黙れ”は縮み上がるほどの殺気が籠められていたので、ダミアンは腰を直角に折って口を閉ざした。
ついでに、そそそっとレンブラントの拳が届かない安全距離まで後退する。
そんなダミアンの首根っこを掴んでやろうかとレンブラントは思った。でも、ダミアンの言うことはお節介ではあるが、もっともなのだ。
レンブラントはレイカールトン侯爵のことをベルに話さないのは、彼の事を良く知らないからではない。むしろ、良く知り過ぎている。
そして今なら、レイカールトン侯爵の説明は一言で済ますことができる。
でも、伝えるタイミングを逃したというのが正しいのかもしれない。もしくは子供じみた感情が邪魔しているでも正解だ。
とにかく今は、変な意地と矜持がが邪魔して言いたく無い。
「レイカールトン侯爵のことは近いうちに俺からベルに話す。少し気持ちを整理したい。それまでは待ってくれ」
「うん。余計なこと言って……ごめん」
「いや、気にするな」
「じゃあ、お酒飲んでも良い?僕、なんか変な汗かいちゃって喉カラカラなんだ」
「駄目だ。そこの水でも飲んでろ」
「えー」
不満げな声を上げるダミアンにレイブラントは、窓を見ろと顎をしゃくる。
それは声を出すなという意味でもあり、お喋りな性格を自覚しているダミアンは、口を手のひらで覆ってそっと窓辺に近付くと視線を下に落とした。
「あーあ……作戦失敗ですね。レイ隊長」
小声で詰られても、レンブラントの表情は変わらない。
「いや、そうでもない。予想より数が少ない。これは万が一に備えてって感じで適当な人数をこちらに回しただけだろう」
「なるほどねぇー。ラルク君の女装が無駄にはならなくって良かった良かった」
「良くはないだろう。アイツの女装スキルが足りなかった結果だ。及第点はあげられないな」
「レイ隊長は厳しいねー」
二人とも声量を最大限落として会話をする。
窓の外には十数人の男の人影が複数うごめいていた。捕らえて確認する必要は無い。これらは全てクルスが金で雇った手練れだ。
レンブラントがイマナの宿屋でラルク達に伝えた作戦は、至極単純なものだった。
女装したラルクをベルと思い込ませて、軍管轄の宿屋に誘い込んで迎え撃つ。そしてクルトを捕縛して、尋問と言う名の拷問にかけて全てを白状させる、以上。
もちろんベルに扮したラルク達がいる宿は軍管轄だが、それは一部の軍人しか知らないこと。でも、いつでも応戦できる状態にある。
それに伝令に特化した兵にも常駐しており、何かあればここに連絡が届く算段だった。だからレンブラントは伝令を待ちつつ、ダミアンとロヴィーと共にベルを護衛すればよかった。
でも、これはつい数分前の話。事態は急転してしまった。
だが、レンブラントはレイカールトン侯爵のことを話題に出されるのは、本当に不愉快だった。
だから「お前本当に黙れ」と目で訴えるレンブラントだけれど、やっぱりダミアンは口を閉ざすことは無い。
それどころか、執務机に寄り掛かるレンブラントに近づき、膝を折って覗き込むように喋りだす。
その目は腐れ縁仲だからこそ、意地悪く輝いている。
「ははっ、敢えて侯爵様のことを伝えないのはレイらしくないけど、変態を否定するところはさすがだね」
「黙れ」
「っていうか、話しちゃえば良いじゃん。レイカールトン侯爵は実はベルの───」
「黙れと言っているのが聞こえないのか?ダミアン」
「……ごめんなさい」
2回目の”黙れ”は縮み上がるほどの殺気が籠められていたので、ダミアンは腰を直角に折って口を閉ざした。
ついでに、そそそっとレンブラントの拳が届かない安全距離まで後退する。
そんなダミアンの首根っこを掴んでやろうかとレンブラントは思った。でも、ダミアンの言うことはお節介ではあるが、もっともなのだ。
レンブラントはレイカールトン侯爵のことをベルに話さないのは、彼の事を良く知らないからではない。むしろ、良く知り過ぎている。
そして今なら、レイカールトン侯爵の説明は一言で済ますことができる。
でも、伝えるタイミングを逃したというのが正しいのかもしれない。もしくは子供じみた感情が邪魔しているでも正解だ。
とにかく今は、変な意地と矜持がが邪魔して言いたく無い。
「レイカールトン侯爵のことは近いうちに俺からベルに話す。少し気持ちを整理したい。それまでは待ってくれ」
「うん。余計なこと言って……ごめん」
「いや、気にするな」
「じゃあ、お酒飲んでも良い?僕、なんか変な汗かいちゃって喉カラカラなんだ」
「駄目だ。そこの水でも飲んでろ」
「えー」
不満げな声を上げるダミアンにレイブラントは、窓を見ろと顎をしゃくる。
それは声を出すなという意味でもあり、お喋りな性格を自覚しているダミアンは、口を手のひらで覆ってそっと窓辺に近付くと視線を下に落とした。
「あーあ……作戦失敗ですね。レイ隊長」
小声で詰られても、レンブラントの表情は変わらない。
「いや、そうでもない。予想より数が少ない。これは万が一に備えてって感じで適当な人数をこちらに回しただけだろう」
「なるほどねぇー。ラルク君の女装が無駄にはならなくって良かった良かった」
「良くはないだろう。アイツの女装スキルが足りなかった結果だ。及第点はあげられないな」
「レイ隊長は厳しいねー」
二人とも声量を最大限落として会話をする。
窓の外には十数人の男の人影が複数うごめいていた。捕らえて確認する必要は無い。これらは全てクルスが金で雇った手練れだ。
レンブラントがイマナの宿屋でラルク達に伝えた作戦は、至極単純なものだった。
女装したラルクをベルと思い込ませて、軍管轄の宿屋に誘い込んで迎え撃つ。そしてクルトを捕縛して、尋問と言う名の拷問にかけて全てを白状させる、以上。
もちろんベルに扮したラルク達がいる宿は軍管轄だが、それは一部の軍人しか知らないこと。でも、いつでも応戦できる状態にある。
それに伝令に特化した兵にも常駐しており、何かあればここに連絡が届く算段だった。だからレンブラントは伝令を待ちつつ、ダミアンとロヴィーと共にベルを護衛すればよかった。
でも、これはつい数分前の話。事態は急転してしまった。
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