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3.毒舌少女は捨てたいソレを手放せない

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「疑うつもりはないが……随分とあっさり許可が下りたな」

 一応前置きをしたレンブラントだったが、その目はしっかりと疑いを持っていた。

 しかしダミアンはそれすら想定内だったのだろう。レンブラントの視線を弾き返すような余裕の笑みを浮かべる。

「まあね。正直、内容が内容だけに、かなり手こずると思ったんだけど、ね」
「どうした?」
「事情を知った父上が、こぉーんな分厚い嘆願書と、許可してくれないなら副長官を辞めるって辞職届もくっつけたからね」
「……陛下を恐喝したのか?」
「まさか。本気でお願いしただけだよ。陛下は嫌な顔なんてしないで、すぐに王印をポンって押してくれたみたいだし」
「……そうか」
 
 にっこり笑って詳細を語るダミアンは片手を思いっきり広げている。

 その幅が、きっと嘆願書の厚みなのだろう。辞職届を嘆願書の上に置いたのか、下に忍ばせたのかは気になるところだが、とにかく気迫に負けた王の気持ちはよくわかる。

「ま、とにかく領印を再造できるならそれで問題ない。ベルの罪もこれでもみ消すことができる」
「うん!」

 今回もダミアンは食い気味に頷いた。けれど、すぐにその表情を苦笑に変える。

「……ベルさんはさぁ、頑張り屋さんだよね」
「ああ」
「行動力もあるし、思い切りも良いし。クラース卿にそっくりだ。容姿は母親似で良かったけれど」
「確かにそうだな」

 レンブラントもダミアンと同じ表情を浮かべて同意した。

 亡き辺境伯は、良く言えば軍人らしく勇ましい顔つきだった。レンブラントも顔が怖いと言われるが、あそこまでじゃないと言い切れる。

 そして人望も包容力も統率力も、全てにおいて叶わないと思っている。

「クラース卿がどれだけ多くの人間に慕われているのかベルさんが知らないっていうのが、面白いっていうか……不憫と言うか……」
「それも確かにな」

 レンブラントはしみじみと呟いた。

 ベルが雲を掴むような存在だと思っていたのは、ここにある。

 レンブラントが持つ辺境伯の娘のイメージと、今のベルのそれがあまりに食い違っていたから

 でも、再会したダミアンからベルの過去にまつわる報告書を読んでやっと理解した。

 今回、レンブラントは国王から直々にそして極秘に、ベルを無傷でレイカールトン侯爵の元に送り届ける任務を受けた。

 それは汚職によって腐敗しはじめたケルス領を近々一掃する予定だったから。

 そうなれば現辺境伯であるフロリーナは監督不行届で捕縛されるだろう。

 その後、彼女自身も汚職行為をしている身だ。即刻、処罰される。下手をしたら、一族郎党斬首になりかねない。いや、その可能性のほうが高い。 

 けれど、亡き辺境伯であるラドバウトは、かつての戦争で多くの武功をあげたメテオール国の英雄だ。現国王は、個人的に窮地を救ってもらった過去があり、今でも深い恩を感じている。

 だから国王はベルだけでも救いたかった。
 フロリーナが捕縛される前に、レイカールトン侯爵の妻になればベルはフロリーナとの縁が切れる。処罰の対象にならない。

 かなり強引な手ではある。だが、それ以外に方法は無い。

 もちろん国王はある意味公平だ。この移動中にベルが汚職の手伝いをしていたことが判明したなら、保護は捕獲に切り替え、投獄する予定だった。

 でも、ベルはどれだけ叩いても埃は出なかった。ラドバルト同様、ケルス領の為に心を砕き、ついでに領印を砕いた。

「───……ところでさぁ、レン。レイカールトン侯爵の……って、そんな睨まないでよっ」

 意識を余所に向けていたら鬱陶しい名前が突然耳に入ってきたせいで、レンブラントは思わずダミアンに黙れと目で訴えてしまった。

 けれどもダミアンの口は止まらない。

「ベルさんはレイカールトン侯爵のことってどれくらい知ってるの?」
「何も教えていない」
「へ?な、なんで?」
「……そんなことはどうだって良いだろう。ああ、変態ではないことだけは伝えておいた」

 言いにくそうに視線を横に向けて呟いたレンブラントに、ダミアンは豪快に吹き出した。

 なぜならダミアンはレイカールトン侯爵のことを大変良く知っているから。 
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