美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい

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 規則正しい寝息と共に、くにゃりと弛緩したベルの身体をレンブラントはそっと持ち上げベットに仰向けに寝かせようとした。

 けれど背中と脇腹に傷を負っていることを思い出し、慎重に横向きに変える。それから部屋に設えてあるソファからクッションを取り、楽な姿勢になるよう整える。

「……おやすみ、ベル」

 低く囁く声は、ベルの寝息と重なりすぐに壁に吸い込まれていった。





 それからレンブラントは部屋の明かりを落とすと、足音を忍ばせて静かに部屋を出る。廊下に出た彼の表情は、沢山の部下を持つ厳しい軍人のそれだった。

 廊下にはラルク、ロヴィー、マースの3人がきっちりと軍服に着替えて整列していた。

「報告しろ」

 感情の起伏を消した上官の命令に応えたのは、ロヴィーだった。

「はっ。逃亡したクルトは現在、このイマナより東に6キロ離れた訳有り人専門の宿屋に潜伏しております。宿屋の主人に確認しましたが、クルトはあと10日程あそこに滞在するとのことで、代金を先に払っています」
「なるほど。そこをアジトにでもしているようだな」
「はい。付け加えますと、ここ数日、頻繁にクルトの部屋には人の出入りがあるようです」
「そうか。で、ベルを攫った相手は?」

 次にレンブラントは、マースへと視線を向けた。

「はい、報告いたします。司法取引中の闇業者に確認したところ、クルトが雇った手練れであることは間違いありません。ただ、あの男の足取りは掴めませんでした……申し訳ありません」

 ベルが見たら驚愕するほど饒舌に語ったマースは、最後に深く頭を下げた。

「いや、優秀な手練れほど引き際を心得ているものだ。その男を捕らえるのは、かなりの人数と時間を割くことになる。ま、今は、躍らせておく方が良いな」
「……と、言いますと?」

 上官の言葉に口を挟むことは越権行為である。

 けれど出過ぎた真似をしたマースを咎めることなく、レンブラントはにやりと笑った。

あの男クルトは、どうせまたベルを取り戻そうとする。奴も死に物狂いにならないといけない状況だからな。しかも、こっちが協力要請の為の書類やなんだと面倒な手続きをするより、あの男クルトの方が身軽だ。だから、こちらが無能だということを演じれば、こちらが仕掛ける間もなく、あちらからやって来てくれるはずだ」 

 そこで一旦言葉を区切ると、レンブラントはラルクに視線を向けた。

「そういうわけだ、ラルク。が役立つ時が来た。詳しく説明する必要は無いな?」

 レンブラントは特技と言ったが、それは男性にしては華奢な体系のラルクでしかできないことであって、彼自身はそれを特技だなんて思ってはいない。むしろ男として不名誉なことで、できることなら辞退したいもの。

 そんなわけで上官からの命令とわかっていても心底嫌そうな顔をしたラルクに、レンブラントは「肉串は美味かったか?」と言って笑う。しかし、目は笑っていない。

「……明朝までに準備します」
「ああ、そうしてくれ」

 今にも泣きそうな顔でラルクがそう言えば、他の二人の部下は憐憫の目を向けた。
 
 だが、ロヴィーに代わって異議申し立てをする者はいない。代わりに自分がと名乗り上げるものも、もちろんいない。

 レンブラントとて、別の策があるならそうしてあげたいところ。しかし事態は急を要することで、これが一番効率的かつ護衛対象者を安全に守れるもの。

 上官は時として非情にならなければならないのだ。

 だからレンブラントは、表情を変えることなく淡々と部下に指示を出す。

「では、班を別ける。ラルクとマースはモーゼスの馬車で移動。ロヴィーは、引き続き俺と一緒にベルの護衛にあたれ─── 以上。解散」
「はっ」

 ベルに聞こえぬよう声量を落として軍人の礼を取ったレンブラントの部下達は、一斉に各自に与えられた任務を遂行するために動き出した。
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