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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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レンブラントは、やましいことは何もしていない。怪我を負った少女に対して、ただただ医療行為をしているだけ。
例え、問答無用で少女の衣類を脱がし、その白い素肌に指を這わせていても、それは手当の一環でしかない。
ただ医療行為とはいえ、相手は異性だ。
しかも現在進行形で己の心の大部分を締めている相手となると、やはり意識せざるを得ない部分がある。
例えは、妙に艶めかしいうなじとか、脇の下からはみ出して見えてしまっている胸の一部とか。
暴れたせいで汗ばむベルから漂う彼女の甘い香りとか。
そういったものを意識しないようにすればするほど、そこに目が行きそうになる。
だからレンブラントはベルの背と脇腹に包帯を巻くのは諦め、理性の全てを総動員して乱れた衣類を大急ぎで整えた。
***
「……終わったぞ」
「……は……い」
息も絶え絶えになっていたベルは蚊の鳴くような声で応える。そして肘をついて身体を起こした。
「あの……えっと……どーも、ありがとうございました。では」
さすがに疲労困憊の状態の今は、扉まで歩くのはかなり辛い。
だから手のひらを扉へと向けて、さっさと出て行けとレンブラントに訴える。
でも、レンブラントは動く気配は無い。それどころかベルが中途半端に浮かしている手を両手で包んでしまった。
「ベル、聞きたいことがある」
「ですから、気安く呼ばな───」
「あんたは、いつから痛みを感じなくなったんだ。それとも、生まれつき痛みを感じないのか?」
「はぁ?」
真剣に問われたレンブラントの意図がわからず、ベルは間の抜けた声を出してしまった。
だがすぐに目を釣り上げた。
「そんな個人情報を、あなたに教えるわけないでしょう」
「いいから答えろ」
「嫌ですよ」
プイっと顔を背けてもレンブラントは手を離してはくれない。
「……頼む、教えてくれ」
ぎゅっと手を握る力が籠められたと同時に、聞いているこちらの胸が痛くなるような切ない声が聞こえてベルはびっくりして顔の位置を戻した。
レンブラントは今にも泣きそうな顔をしていた。
そしてベルと目が合うと、これまでの横柄な口調から一変して、落ち着いた低い声で先ほどと同じ問いを繰り返した。
「ベル……あんたは、生まれつき痛みを感じないのか?」
「……ううん、違う」
「なら、いつからと聞いても良いか?」
「……詳しくは覚えていない。でも、だんだん痛くなくなったの」
「そうか」
どんな顔をされても、どんな悲痛な声で問われてもベルは質問に答える義理は無い。だって他人だし軍人だから。
でも気付けば、レンブラントの問いに素直に答えてしまっていた。
それが何だが居心地悪くて、ベルはこんな強がりを口にしてしまった。
「痛みを感じない方が、色々と便利で楽なんです。ほっといてください」
「あんたはどうしようもない奴だな」
「なっ」
その返しはあまりに失礼なもので、ベルはカッとなってレンブラントの手を振り払った。
そしてベッドから降りようとする。こんな男とすぐ近くで同じ空気を吸うのすら不快で仕方がない。
けれど、ベルが片足をベッドから下ろした途端、強く肩を掴まれてしまう。予期せぬそれを咄嗟に振り払おうとすれば、身体が重心を失いずり落ちそうになる。
「あんたはなぁ」
げっと焦るベルとは対照的な声が頭上から降ってきたと同時に、太い腕がお腹に絡みついた。
そのおかげでなんとか地面に落下することは免れた。
だが、気付けばベルはレンブラントの膝に着席する羽目になっていた。
例え、問答無用で少女の衣類を脱がし、その白い素肌に指を這わせていても、それは手当の一環でしかない。
ただ医療行為とはいえ、相手は異性だ。
しかも現在進行形で己の心の大部分を締めている相手となると、やはり意識せざるを得ない部分がある。
例えは、妙に艶めかしいうなじとか、脇の下からはみ出して見えてしまっている胸の一部とか。
暴れたせいで汗ばむベルから漂う彼女の甘い香りとか。
そういったものを意識しないようにすればするほど、そこに目が行きそうになる。
だからレンブラントはベルの背と脇腹に包帯を巻くのは諦め、理性の全てを総動員して乱れた衣類を大急ぎで整えた。
***
「……終わったぞ」
「……は……い」
息も絶え絶えになっていたベルは蚊の鳴くような声で応える。そして肘をついて身体を起こした。
「あの……えっと……どーも、ありがとうございました。では」
さすがに疲労困憊の状態の今は、扉まで歩くのはかなり辛い。
だから手のひらを扉へと向けて、さっさと出て行けとレンブラントに訴える。
でも、レンブラントは動く気配は無い。それどころかベルが中途半端に浮かしている手を両手で包んでしまった。
「ベル、聞きたいことがある」
「ですから、気安く呼ばな───」
「あんたは、いつから痛みを感じなくなったんだ。それとも、生まれつき痛みを感じないのか?」
「はぁ?」
真剣に問われたレンブラントの意図がわからず、ベルは間の抜けた声を出してしまった。
だがすぐに目を釣り上げた。
「そんな個人情報を、あなたに教えるわけないでしょう」
「いいから答えろ」
「嫌ですよ」
プイっと顔を背けてもレンブラントは手を離してはくれない。
「……頼む、教えてくれ」
ぎゅっと手を握る力が籠められたと同時に、聞いているこちらの胸が痛くなるような切ない声が聞こえてベルはびっくりして顔の位置を戻した。
レンブラントは今にも泣きそうな顔をしていた。
そしてベルと目が合うと、これまでの横柄な口調から一変して、落ち着いた低い声で先ほどと同じ問いを繰り返した。
「ベル……あんたは、生まれつき痛みを感じないのか?」
「……ううん、違う」
「なら、いつからと聞いても良いか?」
「……詳しくは覚えていない。でも、だんだん痛くなくなったの」
「そうか」
どんな顔をされても、どんな悲痛な声で問われてもベルは質問に答える義理は無い。だって他人だし軍人だから。
でも気付けば、レンブラントの問いに素直に答えてしまっていた。
それが何だが居心地悪くて、ベルはこんな強がりを口にしてしまった。
「痛みを感じない方が、色々と便利で楽なんです。ほっといてください」
「あんたはどうしようもない奴だな」
「なっ」
その返しはあまりに失礼なもので、ベルはカッとなってレンブラントの手を振り払った。
そしてベッドから降りようとする。こんな男とすぐ近くで同じ空気を吸うのすら不快で仕方がない。
けれど、ベルが片足をベッドから下ろした途端、強く肩を掴まれてしまう。予期せぬそれを咄嗟に振り払おうとすれば、身体が重心を失いずり落ちそうになる。
「あんたはなぁ」
げっと焦るベルとは対照的な声が頭上から降ってきたと同時に、太い腕がお腹に絡みついた。
そのおかげでなんとか地面に落下することは免れた。
だが、気付けばベルはレンブラントの膝に着席する羽目になっていた。
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