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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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ついさっきまで、手だろうが頭だろが腕だろうが足だろうが、とにかく傷の手当をされたくないと思っていた。
それは他人に身体を触れられるのが嫌だからというわけではく、この時期に手当を受けると都合が少々悪いから。
レイカールトン侯爵の元に到着して助力を乞う際に、自分の傷が多ければ多い程、同情を買いやすいのではという計算が働いているから。
侯爵様とは会ったこともなければ、どんな容姿でどんな性格なのかもわからない。とっても意地が悪くて、よぼよぼのお爺ちゃんで、究極にロリコンの変態なのかもしれない。
でも、傷だらけの少女が必死に助けを求めたなら、多少は感情が動いてくれるだろう。そう思っているし、そう願っている。
なぁーんていう思惑があったのは事実だけれど、今は違う。そんな小狡い計算の上で拒んでいるわけじゃない。妙齢の女性という立場から全力で阻止しようとしている。
しかし、すっーと背中に冷たい空気を感じて、ベルは最後の砦であるシュミーズすら開かれてしまったことを知る。
けれどレンブラントの拘束は解かれることがないから、ベルは芋虫のように身をくねらせることしかできない。
「ねぇ、手当てなんかいらないっ。もう本当に離してよっ」
「少しの辛抱だから、大人しくしろ。───……くそっ、殺しておけばよかった」
レンブラントの前半の言葉は、聞き分けの無い子供をあやすような呆れと慈愛が混ざったものだった。
けれど、後半の言葉は、ここには居ない誰かに向けてのもの。怒りというより、本気の殺気を背に感じてベルは情けなくも身を竦ませてしまう。
それをレンブラントはどう受けとめたのかわからない。でも、ベルの動きが止まったのを良いことに、背中と脇腹の傷の手当を始めてしまった。
頭上で、瓶の蓋を取る気配がしたと思ったら、背中にトロっとした冷たい感触を覚えて、ベルはうっと声を出してしまう。
すぐに「痛いか?」と気遣う声が降ってきて、反射的に首を横に振った。ついでに「痛くはないけど、止めて欲しい」と訴えたら、呆れた笑い声が返って来た。
(もう、これだから軍人は嫌いだっ。乱暴で横暴で、人の話なんか聞く耳を持っていなくて!)
と、ベルが心の中で悪態を付けたのはここまでだった。
「……っ!?」
背中にレンブラントの無骨な手を感じて、ベルは思わず息を呑んだ。
そして今更ながら、自分は素肌をさらけ出して、この男に触れられているという現実に気付く。
しかも、腕や足じゃない。背中だ。普段は服に隠れている部分で、おいそれと人に見せて良い場所ではない。
ベルは本当に本当に今頃になって、ものすごい羞恥を覚えた。
なのにレンブラントの指はベルの混乱などお構いなしに、薬を伸ばすように這っていく。触れるか触れないかという優しいタッチで、そっと円を描くように。
「……レンブラントさん」
「どうした?だいぶ手加減しているが……まだ痛いか?」
「痛くないですよっ。それより、もう」
「いい加減にしろ。手当は止めない。何度も言わせるな」
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせて下さいよ」
「なんなこと、できるか」
最大の譲歩を口にしたのに、一蹴されていまい、ベルは堪らない気持ちから枕をぎゅうっと抱きしめてしまう。
だけどそんなことをしても、何の気休めにもならない。
そして気が遠くなる時間が過ぎて、やっと背中からレンブラントの指が離れる気配がして、ベルはほっと安堵の息を漏らした。
これまで生きてきて、こんなにアップアップになることなんてなかった。
ベルは額に浮いた汗をそっと拭う。でも、これで終わりではなかった。
「……ひゃぁ……んっ、ちょ、ちょ、ちょっとっ……っ」
すっかり気を抜いていたベルの脇腹に、突然、レンブラントが薬にまみれた指を這わせたのだ。
変な声を出しながらベルは、身体を捻って不埒な手の持ち主を睨みつける。
けれど、レンブラントの表情はとても真剣で、痛みを堪えているようにとても苦しそうで……。
何も言えなくなったベルは、そっと視線を元に戻す。
そして枕に顔をうずめ、この時間が早く終わるのをひたすら神に祈り続けた。
それは他人に身体を触れられるのが嫌だからというわけではく、この時期に手当を受けると都合が少々悪いから。
レイカールトン侯爵の元に到着して助力を乞う際に、自分の傷が多ければ多い程、同情を買いやすいのではという計算が働いているから。
侯爵様とは会ったこともなければ、どんな容姿でどんな性格なのかもわからない。とっても意地が悪くて、よぼよぼのお爺ちゃんで、究極にロリコンの変態なのかもしれない。
でも、傷だらけの少女が必死に助けを求めたなら、多少は感情が動いてくれるだろう。そう思っているし、そう願っている。
なぁーんていう思惑があったのは事実だけれど、今は違う。そんな小狡い計算の上で拒んでいるわけじゃない。妙齢の女性という立場から全力で阻止しようとしている。
しかし、すっーと背中に冷たい空気を感じて、ベルは最後の砦であるシュミーズすら開かれてしまったことを知る。
けれどレンブラントの拘束は解かれることがないから、ベルは芋虫のように身をくねらせることしかできない。
「ねぇ、手当てなんかいらないっ。もう本当に離してよっ」
「少しの辛抱だから、大人しくしろ。───……くそっ、殺しておけばよかった」
レンブラントの前半の言葉は、聞き分けの無い子供をあやすような呆れと慈愛が混ざったものだった。
けれど、後半の言葉は、ここには居ない誰かに向けてのもの。怒りというより、本気の殺気を背に感じてベルは情けなくも身を竦ませてしまう。
それをレンブラントはどう受けとめたのかわからない。でも、ベルの動きが止まったのを良いことに、背中と脇腹の傷の手当を始めてしまった。
頭上で、瓶の蓋を取る気配がしたと思ったら、背中にトロっとした冷たい感触を覚えて、ベルはうっと声を出してしまう。
すぐに「痛いか?」と気遣う声が降ってきて、反射的に首を横に振った。ついでに「痛くはないけど、止めて欲しい」と訴えたら、呆れた笑い声が返って来た。
(もう、これだから軍人は嫌いだっ。乱暴で横暴で、人の話なんか聞く耳を持っていなくて!)
と、ベルが心の中で悪態を付けたのはここまでだった。
「……っ!?」
背中にレンブラントの無骨な手を感じて、ベルは思わず息を呑んだ。
そして今更ながら、自分は素肌をさらけ出して、この男に触れられているという現実に気付く。
しかも、腕や足じゃない。背中だ。普段は服に隠れている部分で、おいそれと人に見せて良い場所ではない。
ベルは本当に本当に今頃になって、ものすごい羞恥を覚えた。
なのにレンブラントの指はベルの混乱などお構いなしに、薬を伸ばすように這っていく。触れるか触れないかという優しいタッチで、そっと円を描くように。
「……レンブラントさん」
「どうした?だいぶ手加減しているが……まだ痛いか?」
「痛くないですよっ。それより、もう」
「いい加減にしろ。手当は止めない。何度も言わせるな」
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせて下さいよ」
「なんなこと、できるか」
最大の譲歩を口にしたのに、一蹴されていまい、ベルは堪らない気持ちから枕をぎゅうっと抱きしめてしまう。
だけどそんなことをしても、何の気休めにもならない。
そして気が遠くなる時間が過ぎて、やっと背中からレンブラントの指が離れる気配がして、ベルはほっと安堵の息を漏らした。
これまで生きてきて、こんなにアップアップになることなんてなかった。
ベルは額に浮いた汗をそっと拭う。でも、これで終わりではなかった。
「……ひゃぁ……んっ、ちょ、ちょ、ちょっとっ……っ」
すっかり気を抜いていたベルの脇腹に、突然、レンブラントが薬にまみれた指を這わせたのだ。
変な声を出しながらベルは、身体を捻って不埒な手の持ち主を睨みつける。
けれど、レンブラントの表情はとても真剣で、痛みを堪えているようにとても苦しそうで……。
何も言えなくなったベルは、そっと視線を元に戻す。
そして枕に顔をうずめ、この時間が早く終わるのをひたすら神に祈り続けた。
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