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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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「早くしろ。それとも、また俺に抱き上げられたいのか?」
随分な内容の二者択一を付きつけられ、ベルは即座に首を横に振った。
そうすればレンブラントは軽く眉を上げて、もう一度ベッドを叩いた。今度はさっきより軽めに。
「なら、こっちに来い。安心しろ、なるべく痛くしないようにしてやるから」
「……」
(いやいや、気遣うところが違うんですけど……)
思ったままを口にできる空気ではないので、ベルは心の中でツッコミを入れてみる。
でも、結局言われるがままベッドに腰を下ろした。なんかもう面倒くさかったから。
「─── んじゃ、始めるとするか」
ベルが観念したのを確認すると、レンブラントは言うが早いがベッドの前に膝を付く。と、同時に素早くベルの手を掴んだ。
「ちょっと、何するんですか」
「は?傷の手当だって言っただろ。見てみろ」
そう言ってレンブラントは、ベルの手のひらをひっくり返して見せた。
それを目にした途端、ベルはつい口に出してしまった。
「……うわぁ、皮べろべろになってる」
「だから手当てをするんだろうが」
溜息まじりに返答したレンブラントの手には、もう薬瓶が握られていた。
***
レンブラントは、すぐに薬を塗ることはしなかった。
ベルの手のひらをじっくりと眺めた後、薬瓶を一旦床に置き、別のものを手に取った。
「泥も落ちているし、砂も入っていないようだが、念のためもう一度拭くぞ」
「あー……大丈夫で」
「痛かったら言え。止めはしないが、手加減はしてやる」
ベルの言葉を遮ったレンブラントは、濡れタオルでそっと手のひらを拭い始めた。
「……痛いか?」
「いいえ」
「痛くないのか?」
「はい」
「本当に痛くないのか?」
「はい」
淡々と答えるベルに対し、レンブラントは動揺を隠すことができない。
だが、痛かろうが痛くなかろうが手当てをするのは決定事項である。そしてダラダラ時間をかけるより、迅速にすべき案件でもある。
そんなわけで、レンブラントはガーゼにたっぷりと傷薬を染みこませ、ベルの傷口に押し当てた。
ちなみにこの薬は軍で使用されているもので、効き目は強いが良く染みる。痛みに強い軍人とて、情けない声を上げる者が多い。
でもベルの表情は全く変わることが無かった。
「……おい、これも痛くないのか?」
「しつこいですね。痛くないって言ったら痛くないですよ」
「……おい、ここでやせ我慢をしても、何の意味もないぞ」
「逆にお尋ねしますが、痛くないのに痛いと言わせたら、あなたに何のメリットがあるんですか?あなたの嗜虐心が満たされるって言ったら心底軽蔑しますけど」
「あるわけないだろっ」
手当てをしている相手から、なぜ毒を吐かれることになるのか、レンブラントは理解ができなかった。あまりの仕打ちに、ついムッとしてしまう。
だがその拍子に、ついガーゼを押し当てる力を強めてしまった。慌ててガーゼを傷から離すが、ベルの表情は相変わらず涼しいもの。
そこでふとレンブラントは、以前ベルの傷の手当をした時のことを思い出してしまった。
ベルは早く終われというオーラは全開に出してはいたが、痛いと声を上げることもなければ、薬が染みて顔を顰めることもなかった。
(───……これは、どう考えてもおかしい)
我知らずレンブラントの眉間に皺が寄る。
この少女が雲をつかむような存在だというのは十分わかっている。だが、これだけは言える。
ベルは先天性なのか後天性なのかはわからないが、痛覚が麻痺しているのだ。
それに気付いた途端レンブラントは、全身に言い表すことができない戦慄が駆けめぐるのを感じてしまった。
随分な内容の二者択一を付きつけられ、ベルは即座に首を横に振った。
そうすればレンブラントは軽く眉を上げて、もう一度ベッドを叩いた。今度はさっきより軽めに。
「なら、こっちに来い。安心しろ、なるべく痛くしないようにしてやるから」
「……」
(いやいや、気遣うところが違うんですけど……)
思ったままを口にできる空気ではないので、ベルは心の中でツッコミを入れてみる。
でも、結局言われるがままベッドに腰を下ろした。なんかもう面倒くさかったから。
「─── んじゃ、始めるとするか」
ベルが観念したのを確認すると、レンブラントは言うが早いがベッドの前に膝を付く。と、同時に素早くベルの手を掴んだ。
「ちょっと、何するんですか」
「は?傷の手当だって言っただろ。見てみろ」
そう言ってレンブラントは、ベルの手のひらをひっくり返して見せた。
それを目にした途端、ベルはつい口に出してしまった。
「……うわぁ、皮べろべろになってる」
「だから手当てをするんだろうが」
溜息まじりに返答したレンブラントの手には、もう薬瓶が握られていた。
***
レンブラントは、すぐに薬を塗ることはしなかった。
ベルの手のひらをじっくりと眺めた後、薬瓶を一旦床に置き、別のものを手に取った。
「泥も落ちているし、砂も入っていないようだが、念のためもう一度拭くぞ」
「あー……大丈夫で」
「痛かったら言え。止めはしないが、手加減はしてやる」
ベルの言葉を遮ったレンブラントは、濡れタオルでそっと手のひらを拭い始めた。
「……痛いか?」
「いいえ」
「痛くないのか?」
「はい」
「本当に痛くないのか?」
「はい」
淡々と答えるベルに対し、レンブラントは動揺を隠すことができない。
だが、痛かろうが痛くなかろうが手当てをするのは決定事項である。そしてダラダラ時間をかけるより、迅速にすべき案件でもある。
そんなわけで、レンブラントはガーゼにたっぷりと傷薬を染みこませ、ベルの傷口に押し当てた。
ちなみにこの薬は軍で使用されているもので、効き目は強いが良く染みる。痛みに強い軍人とて、情けない声を上げる者が多い。
でもベルの表情は全く変わることが無かった。
「……おい、これも痛くないのか?」
「しつこいですね。痛くないって言ったら痛くないですよ」
「……おい、ここでやせ我慢をしても、何の意味もないぞ」
「逆にお尋ねしますが、痛くないのに痛いと言わせたら、あなたに何のメリットがあるんですか?あなたの嗜虐心が満たされるって言ったら心底軽蔑しますけど」
「あるわけないだろっ」
手当てをしている相手から、なぜ毒を吐かれることになるのか、レンブラントは理解ができなかった。あまりの仕打ちに、ついムッとしてしまう。
だがその拍子に、ついガーゼを押し当てる力を強めてしまった。慌ててガーゼを傷から離すが、ベルの表情は相変わらず涼しいもの。
そこでふとレンブラントは、以前ベルの傷の手当をした時のことを思い出してしまった。
ベルは早く終われというオーラは全開に出してはいたが、痛いと声を上げることもなければ、薬が染みて顔を顰めることもなかった。
(───……これは、どう考えてもおかしい)
我知らずレンブラントの眉間に皺が寄る。
この少女が雲をつかむような存在だというのは十分わかっている。だが、これだけは言える。
ベルは先天性なのか後天性なのかはわからないが、痛覚が麻痺しているのだ。
それに気付いた途端レンブラントは、全身に言い表すことができない戦慄が駆けめぐるのを感じてしまった。
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