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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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部屋に戻ったベルは、一先ず着替えることにした。
コートを脱いでドレスも脱ぐ。もちろん、この部屋にはベルだけだ。レンブラントはベルを部屋に送り届けた後、早々に出て行った。
「……うっわぁー」
脱いだ衣類をハンガーにかけようとしたベルは、思いっきり顔を顰めた。
泥まみれになっていたのは、コートだけではかったから。
ドレスも靴下も、ドロドロ状態だった。まさかと思って視線をずらせば、脱いだブーツもがっつり汚れていた。
(───……くっそ。クルトめっ。覚えとけよ!)
ベルは舌打ちとともに、ここには居ない義理の姉の婚約者に向かって悪態を吐く。念の為、心の中で。
声に出さないのは、レンブラント達が聞き耳を立てているかもしれないから。今のベルは、義理の兄を慕っているという演技をしなければならない。
開始1時間も経っていないが、もうその演技に相当な苦痛を覚えているが、やり通すと決めている。
───コン、コン。
「入りますよー」
ベルが泥だらけの衣類をどう洗えば良いのか途方に暮れていれば、ノックの音と共に扉越に宿屋の女将声を掛けられた。
「はい、どうぞっ」
ベルは、あわてて返事をして、コートを椅子にかけて扉を開けれる。
そうすれば、水が張ったタライと薬箱を持った女将が心配そうな顔をして立っていた。
腕にはタオルなどが入った籠がぶら下がっていてとても重たそうだった。
女将は髪に白いものが混ざっている。こんな大荷物を持っていたら腰を痛めてしまうかもしれない。
「お嬢さん、ちょっと入ってもいいかい?」
「あ、はい。もちろんです」
身体をずらして女将が入室しやすいように場所を開けると共に、ベルは女将の荷物を持とうと手を伸ばす。
「そんなん結構だから、早くそこにお座りなっ」
軽く手をぺしりと叩かれ断られてしまったベルは、しょんぼりとしながら言われた通りにベッドに腰掛ける。。
「あらあら、あららら……それにしても、酷い顔だねぇ」
ぴしゃりとベルの手助けを断ったことなど忘れたかのように、女将はくしゃりと顔を歪めて籠からタオルを出す。
そしてタライにタオルを浸して緩く絞ると、それを持ってベルに近づいた。
「傷もあるから、ちょっと染みるかもしれないけど、まずは冷やすのが肝心だからね。ほら」
そう言って、ベルに顔にそっとタオルを当てた。
てっきり手渡されてると思ったベルは、びっくりして身体が小さく跳ねてしまう。
それを女将はどうやら痛いと勘違いしたようで、更に顔をくしゃりと顔を歪ませた。
「ああ、すまなかったね。痛かったよね。それにしても……せっかくの可愛らしい顔なのにねぇ、一体何があったのかい?……ああ、口の中が痛いのに、答えられないか。これも悪かったねぇ」
「……あ、あの」
「市場に行くって言ってたけど、あそこは色んな人がいるからねぇ。こんな目に合うなら、気性が荒い輩もいるってちゃんと言っとけば良かったよ」
「……えっと、わたし」
「それにしても軍人ってのは使えないねぇ。ご立派そうな男が3人も一緒に居たというのに、女の子一人守れないなんて、情けないったらありゃしない」
他人から手当を受けることがなかったベルは居心地の悪さから、せめて後は自分でやると強く訴えたい。
でも、一人で会話を進めていく女将にベルは口を挟む隙が無かった。
そして女将は、口と手を同時に動かすことができる特技を持っていた。
軍人が頼りないとい話からいつの間にか旦那の愚痴に変わり、そして「だいたい男っていうのは……」と独自の持論を展開し始めてしまった。
でもやっぱり手は止まらない。
タオルの面を変えて、ベルの腫れ上がった頬や額に押し当てていく。
まっ白なタオルに血が付着して、まだらに汚れていくことに、ベルは申し訳なさを覚えてしまう。
でも、それすら口に出すタイミングを見つけられないベルは、ただじっと女将にされるがままになっていた。
コートを脱いでドレスも脱ぐ。もちろん、この部屋にはベルだけだ。レンブラントはベルを部屋に送り届けた後、早々に出て行った。
「……うっわぁー」
脱いだ衣類をハンガーにかけようとしたベルは、思いっきり顔を顰めた。
泥まみれになっていたのは、コートだけではかったから。
ドレスも靴下も、ドロドロ状態だった。まさかと思って視線をずらせば、脱いだブーツもがっつり汚れていた。
(───……くっそ。クルトめっ。覚えとけよ!)
ベルは舌打ちとともに、ここには居ない義理の姉の婚約者に向かって悪態を吐く。念の為、心の中で。
声に出さないのは、レンブラント達が聞き耳を立てているかもしれないから。今のベルは、義理の兄を慕っているという演技をしなければならない。
開始1時間も経っていないが、もうその演技に相当な苦痛を覚えているが、やり通すと決めている。
───コン、コン。
「入りますよー」
ベルが泥だらけの衣類をどう洗えば良いのか途方に暮れていれば、ノックの音と共に扉越に宿屋の女将声を掛けられた。
「はい、どうぞっ」
ベルは、あわてて返事をして、コートを椅子にかけて扉を開けれる。
そうすれば、水が張ったタライと薬箱を持った女将が心配そうな顔をして立っていた。
腕にはタオルなどが入った籠がぶら下がっていてとても重たそうだった。
女将は髪に白いものが混ざっている。こんな大荷物を持っていたら腰を痛めてしまうかもしれない。
「お嬢さん、ちょっと入ってもいいかい?」
「あ、はい。もちろんです」
身体をずらして女将が入室しやすいように場所を開けると共に、ベルは女将の荷物を持とうと手を伸ばす。
「そんなん結構だから、早くそこにお座りなっ」
軽く手をぺしりと叩かれ断られてしまったベルは、しょんぼりとしながら言われた通りにベッドに腰掛ける。。
「あらあら、あららら……それにしても、酷い顔だねぇ」
ぴしゃりとベルの手助けを断ったことなど忘れたかのように、女将はくしゃりと顔を歪めて籠からタオルを出す。
そしてタライにタオルを浸して緩く絞ると、それを持ってベルに近づいた。
「傷もあるから、ちょっと染みるかもしれないけど、まずは冷やすのが肝心だからね。ほら」
そう言って、ベルに顔にそっとタオルを当てた。
てっきり手渡されてると思ったベルは、びっくりして身体が小さく跳ねてしまう。
それを女将はどうやら痛いと勘違いしたようで、更に顔をくしゃりと顔を歪ませた。
「ああ、すまなかったね。痛かったよね。それにしても……せっかくの可愛らしい顔なのにねぇ、一体何があったのかい?……ああ、口の中が痛いのに、答えられないか。これも悪かったねぇ」
「……あ、あの」
「市場に行くって言ってたけど、あそこは色んな人がいるからねぇ。こんな目に合うなら、気性が荒い輩もいるってちゃんと言っとけば良かったよ」
「……えっと、わたし」
「それにしても軍人ってのは使えないねぇ。ご立派そうな男が3人も一緒に居たというのに、女の子一人守れないなんて、情けないったらありゃしない」
他人から手当を受けることがなかったベルは居心地の悪さから、せめて後は自分でやると強く訴えたい。
でも、一人で会話を進めていく女将にベルは口を挟む隙が無かった。
そして女将は、口と手を同時に動かすことができる特技を持っていた。
軍人が頼りないとい話からいつの間にか旦那の愚痴に変わり、そして「だいたい男っていうのは……」と独自の持論を展開し始めてしまった。
でもやっぱり手は止まらない。
タオルの面を変えて、ベルの腫れ上がった頬や額に押し当てていく。
まっ白なタオルに血が付着して、まだらに汚れていくことに、ベルは申し訳なさを覚えてしまう。
でも、それすら口に出すタイミングを見つけられないベルは、ただじっと女将にされるがままになっていた。
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