35 / 117
2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
16
しおりを挟む
部屋に戻ったベルは、一先ず着替えることにした。
コートを脱いでドレスも脱ぐ。もちろん、この部屋にはベルだけだ。レンブラントはベルを部屋に送り届けた後、早々に出て行った。
「……うっわぁー」
脱いだ衣類をハンガーにかけようとしたベルは、思いっきり顔を顰めた。
泥まみれになっていたのは、コートだけではかったから。
ドレスも靴下も、ドロドロ状態だった。まさかと思って視線をずらせば、脱いだブーツもがっつり汚れていた。
(───……くっそ。クルトめっ。覚えとけよ!)
ベルは舌打ちとともに、ここには居ない義理の姉の婚約者に向かって悪態を吐く。念の為、心の中で。
声に出さないのは、レンブラント達が聞き耳を立てているかもしれないから。今のベルは、義理の兄を慕っているという演技をしなければならない。
開始1時間も経っていないが、もうその演技に相当な苦痛を覚えているが、やり通すと決めている。
───コン、コン。
「入りますよー」
ベルが泥だらけの衣類をどう洗えば良いのか途方に暮れていれば、ノックの音と共に扉越に宿屋の女将声を掛けられた。
「はい、どうぞっ」
ベルは、あわてて返事をして、コートを椅子にかけて扉を開けれる。
そうすれば、水が張ったタライと薬箱を持った女将が心配そうな顔をして立っていた。
腕にはタオルなどが入った籠がぶら下がっていてとても重たそうだった。
女将は髪に白いものが混ざっている。こんな大荷物を持っていたら腰を痛めてしまうかもしれない。
「お嬢さん、ちょっと入ってもいいかい?」
「あ、はい。もちろんです」
身体をずらして女将が入室しやすいように場所を開けると共に、ベルは女将の荷物を持とうと手を伸ばす。
「そんなん結構だから、早くそこにお座りなっ」
軽く手をぺしりと叩かれ断られてしまったベルは、しょんぼりとしながら言われた通りにベッドに腰掛ける。。
「あらあら、あららら……それにしても、酷い顔だねぇ」
ぴしゃりとベルの手助けを断ったことなど忘れたかのように、女将はくしゃりと顔を歪めて籠からタオルを出す。
そしてタライにタオルを浸して緩く絞ると、それを持ってベルに近づいた。
「傷もあるから、ちょっと染みるかもしれないけど、まずは冷やすのが肝心だからね。ほら」
そう言って、ベルに顔にそっとタオルを当てた。
てっきり手渡されてると思ったベルは、びっくりして身体が小さく跳ねてしまう。
それを女将はどうやら痛いと勘違いしたようで、更に顔をくしゃりと顔を歪ませた。
「ああ、すまなかったね。痛かったよね。それにしても……せっかくの可愛らしい顔なのにねぇ、一体何があったのかい?……ああ、口の中が痛いのに、答えられないか。これも悪かったねぇ」
「……あ、あの」
「市場に行くって言ってたけど、あそこは色んな人がいるからねぇ。こんな目に合うなら、気性が荒い輩もいるってちゃんと言っとけば良かったよ」
「……えっと、わたし」
「それにしても軍人ってのは使えないねぇ。ご立派そうな男が3人も一緒に居たというのに、女の子一人守れないなんて、情けないったらありゃしない」
他人から手当を受けることがなかったベルは居心地の悪さから、せめて後は自分でやると強く訴えたい。
でも、一人で会話を進めていく女将にベルは口を挟む隙が無かった。
そして女将は、口と手を同時に動かすことができる特技を持っていた。
軍人が頼りないとい話からいつの間にか旦那の愚痴に変わり、そして「だいたい男っていうのは……」と独自の持論を展開し始めてしまった。
でもやっぱり手は止まらない。
タオルの面を変えて、ベルの腫れ上がった頬や額に押し当てていく。
まっ白なタオルに血が付着して、まだらに汚れていくことに、ベルは申し訳なさを覚えてしまう。
でも、それすら口に出すタイミングを見つけられないベルは、ただじっと女将にされるがままになっていた。
コートを脱いでドレスも脱ぐ。もちろん、この部屋にはベルだけだ。レンブラントはベルを部屋に送り届けた後、早々に出て行った。
「……うっわぁー」
脱いだ衣類をハンガーにかけようとしたベルは、思いっきり顔を顰めた。
泥まみれになっていたのは、コートだけではかったから。
ドレスも靴下も、ドロドロ状態だった。まさかと思って視線をずらせば、脱いだブーツもがっつり汚れていた。
(───……くっそ。クルトめっ。覚えとけよ!)
ベルは舌打ちとともに、ここには居ない義理の姉の婚約者に向かって悪態を吐く。念の為、心の中で。
声に出さないのは、レンブラント達が聞き耳を立てているかもしれないから。今のベルは、義理の兄を慕っているという演技をしなければならない。
開始1時間も経っていないが、もうその演技に相当な苦痛を覚えているが、やり通すと決めている。
───コン、コン。
「入りますよー」
ベルが泥だらけの衣類をどう洗えば良いのか途方に暮れていれば、ノックの音と共に扉越に宿屋の女将声を掛けられた。
「はい、どうぞっ」
ベルは、あわてて返事をして、コートを椅子にかけて扉を開けれる。
そうすれば、水が張ったタライと薬箱を持った女将が心配そうな顔をして立っていた。
腕にはタオルなどが入った籠がぶら下がっていてとても重たそうだった。
女将は髪に白いものが混ざっている。こんな大荷物を持っていたら腰を痛めてしまうかもしれない。
「お嬢さん、ちょっと入ってもいいかい?」
「あ、はい。もちろんです」
身体をずらして女将が入室しやすいように場所を開けると共に、ベルは女将の荷物を持とうと手を伸ばす。
「そんなん結構だから、早くそこにお座りなっ」
軽く手をぺしりと叩かれ断られてしまったベルは、しょんぼりとしながら言われた通りにベッドに腰掛ける。。
「あらあら、あららら……それにしても、酷い顔だねぇ」
ぴしゃりとベルの手助けを断ったことなど忘れたかのように、女将はくしゃりと顔を歪めて籠からタオルを出す。
そしてタライにタオルを浸して緩く絞ると、それを持ってベルに近づいた。
「傷もあるから、ちょっと染みるかもしれないけど、まずは冷やすのが肝心だからね。ほら」
そう言って、ベルに顔にそっとタオルを当てた。
てっきり手渡されてると思ったベルは、びっくりして身体が小さく跳ねてしまう。
それを女将はどうやら痛いと勘違いしたようで、更に顔をくしゃりと顔を歪ませた。
「ああ、すまなかったね。痛かったよね。それにしても……せっかくの可愛らしい顔なのにねぇ、一体何があったのかい?……ああ、口の中が痛いのに、答えられないか。これも悪かったねぇ」
「……あ、あの」
「市場に行くって言ってたけど、あそこは色んな人がいるからねぇ。こんな目に合うなら、気性が荒い輩もいるってちゃんと言っとけば良かったよ」
「……えっと、わたし」
「それにしても軍人ってのは使えないねぇ。ご立派そうな男が3人も一緒に居たというのに、女の子一人守れないなんて、情けないったらありゃしない」
他人から手当を受けることがなかったベルは居心地の悪さから、せめて後は自分でやると強く訴えたい。
でも、一人で会話を進めていく女将にベルは口を挟む隙が無かった。
そして女将は、口と手を同時に動かすことができる特技を持っていた。
軍人が頼りないとい話からいつの間にか旦那の愚痴に変わり、そして「だいたい男っていうのは……」と独自の持論を展開し始めてしまった。
でもやっぱり手は止まらない。
タオルの面を変えて、ベルの腫れ上がった頬や額に押し当てていく。
まっ白なタオルに血が付着して、まだらに汚れていくことに、ベルは申し訳なさを覚えてしまう。
でも、それすら口に出すタイミングを見つけられないベルは、ただじっと女将にされるがままになっていた。
1
お気に入りに追加
984
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

紡織師アネモネは、恋する騎士の心に留まれない
当麻月菜
恋愛
人が持つ記憶や、叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えることができる不思議な術を使うアネモネは、一人立ちしてまだ1年とちょっとの新米紡織師。
今回のお仕事は、とある事情でややこしい家庭で生まれ育った侯爵家当主であるアニスに、お祖父様の記憶を届けること。
けれどアニスはそれを拒み、遠路はるばるやって来たアネモネを屋敷から摘み出す始末。
途方に暮れるアネモネだけれど、ひょんなことからアニスの護衛騎士ソレールに拾われ、これまた成り行きで彼の家に居候させてもらうことに。
同じ時間を共有する二人は、ごく自然に惹かれていく。けれど互いに伝えることができない秘密を抱えているせいで、あと一歩が踏み出せなくて……。
これは新米紡織師のアネモネが、お仕事を通してちょっとだけ落ち込んだり、成長したりするお話。
あるいは期間限定の泡沫のような恋のおはなし。
※小説家になろう様にも、重複投稿しています。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

余命七日の治癒魔法師
鈴野あや(鈴野葉桜)
恋愛
王太子であるレオナルドと婚約をし、エマは順風満帆な人生を送っていた。
しかしそれは唐突に終わりを告げられる。
【魔力過多症】と呼ばれる余命一年を宣告された病気によって――。
※完結まで毎日更新予定です。(分量はおよそ文庫本一冊分)
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる