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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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レンブラントはとても静かに怒っていた。
声を荒げることもしなければ、殴りかかることもしない。興奮して顔を真っ赤にしてもいないし、感情の高ぶりで身体を震わすこともしてなんかいない。
でも、ちゃんと怒っている。それはそれは激しく、冷徹に。
これまで激高した彼を何度も見てきたはずだけれど、そんなものただのじゃれ合いにしか過ぎないと断言できるほどに。
けれどクルトは、身の程を知らない馬鹿だった。
「なんだよ、お前はっ。邪魔すんじゃねえ───……痛っ」
軍人という存在を知らなかったのか、それともただ単に怖いもの知らずなのか、頭が悪かっただけなのかわからないが、クルトは勢いよく凄んだ。と、同時にレンブラントに髪を掴まれた。
レンブラントはとても背が高い。ベルと頭2個分の差がある。
標準身長しかないクルトは、長身の彼に力任せに髪を掴まれたら顎がぐんっと上になる。つまり頭皮がはがれる程、引っ張られてしまうのだ。
「……ちょ……マジかよ……マジで痛ぇ」
クルトの顔が苦痛に歪む。
でも、レンブラントは手加減はしない。更に髪を掴んでいる手を持ち上げる。そうすればクルトは自分の頭皮を庇うために、ベルの髪を掴んでいた手をパッと離した。
もちろんその期を逃さず、ベルはすかさず距離を取る。
でも、クルトは自分の事に精一杯で、全く気付くことができなかった。
「……痛っ、おい……やめろっ、はっ、離せ……離せよっ、この野郎!!」
「無理だな。あんたは、この娘に同じことをしたんだ。なら、同じ痛みを受けるのがフェアってもんだろ?」
「フェア?……はぁ?なんだよそれっ。……ふ、ふざけんなよっ」
「あいにく、ふざけていない。ものすごく真剣だ。それと俺はこう見えて軍人だ。口の利き方に気を付けろ、坊や」
「……ちっ、軍人はいつから家庭の揉め事に首を突っ込むようなお節介になったんだよっ。俺は躾をしているだけなんだ。構わないでくれっ」
「家庭の揉め事?はっ、あんたがやったことは、一方的な暴力だ。都合の良い言葉にすり変えるなよ」
売り言葉に買い言葉にしては、この二人あまりに温度差がある。
クルトは子供のように喚き散らかし、レンブラントはどこまでも冷静だった。
ただこの言い争いは、いつまでも続くことはなかった。
レンブラントは掴んでいたクルトの髪の毛から、おもむろに手を離した。
クルトは身体が自由になった途端に、四つん這いになって逃げだそうとする。
けれど、既にそれを予期していたのだろう。レンブラントは長い足を延ばして、クリスの背を踏みつけた。
「まぁこんなところでギャンギャンあんたのくだらない話を聞くのは時間の無駄だ。一先ずゆっくり話せる場所に移動しようか。軍人に対する暴言、そしてこの娘をさらってくれたが、これは公務執行妨害だ。─── あんたには、色々と話してもらうぞ」
この言葉を聞いて、げっと思ったのはベルの方だった。
レンブラントは軍人だ。
軍人は時として警護団と同じ権利を有する。つまり内容次第によっては、諸々の手続きをしなくても簡単に容疑者を逮捕できるのだ。
そして痛めつけられたクルトは、もうレンブラントに歯向かうことはしないと断言できる。だが、わが身可愛さからベルが領印を盗んで破壊して燃やしたたことをペロッと喋ってしまうだろう。
(……それはマズい。めっちゃマズい事になったぞ)
領印の件は絶対にレンブラント達に知られてはいけない。彼らは親切で優しい。
けれど、軍人なのだ。
絶対に逃げないし罰も受けるからレイカールトン侯爵に会うまで待って、とお願いしたところで聞き入れてもらえるはずはない。
ベルはここへ来て、最大のピンチを迎えてしまった。
声を荒げることもしなければ、殴りかかることもしない。興奮して顔を真っ赤にしてもいないし、感情の高ぶりで身体を震わすこともしてなんかいない。
でも、ちゃんと怒っている。それはそれは激しく、冷徹に。
これまで激高した彼を何度も見てきたはずだけれど、そんなものただのじゃれ合いにしか過ぎないと断言できるほどに。
けれどクルトは、身の程を知らない馬鹿だった。
「なんだよ、お前はっ。邪魔すんじゃねえ───……痛っ」
軍人という存在を知らなかったのか、それともただ単に怖いもの知らずなのか、頭が悪かっただけなのかわからないが、クルトは勢いよく凄んだ。と、同時にレンブラントに髪を掴まれた。
レンブラントはとても背が高い。ベルと頭2個分の差がある。
標準身長しかないクルトは、長身の彼に力任せに髪を掴まれたら顎がぐんっと上になる。つまり頭皮がはがれる程、引っ張られてしまうのだ。
「……ちょ……マジかよ……マジで痛ぇ」
クルトの顔が苦痛に歪む。
でも、レンブラントは手加減はしない。更に髪を掴んでいる手を持ち上げる。そうすればクルトは自分の頭皮を庇うために、ベルの髪を掴んでいた手をパッと離した。
もちろんその期を逃さず、ベルはすかさず距離を取る。
でも、クルトは自分の事に精一杯で、全く気付くことができなかった。
「……痛っ、おい……やめろっ、はっ、離せ……離せよっ、この野郎!!」
「無理だな。あんたは、この娘に同じことをしたんだ。なら、同じ痛みを受けるのがフェアってもんだろ?」
「フェア?……はぁ?なんだよそれっ。……ふ、ふざけんなよっ」
「あいにく、ふざけていない。ものすごく真剣だ。それと俺はこう見えて軍人だ。口の利き方に気を付けろ、坊や」
「……ちっ、軍人はいつから家庭の揉め事に首を突っ込むようなお節介になったんだよっ。俺は躾をしているだけなんだ。構わないでくれっ」
「家庭の揉め事?はっ、あんたがやったことは、一方的な暴力だ。都合の良い言葉にすり変えるなよ」
売り言葉に買い言葉にしては、この二人あまりに温度差がある。
クルトは子供のように喚き散らかし、レンブラントはどこまでも冷静だった。
ただこの言い争いは、いつまでも続くことはなかった。
レンブラントは掴んでいたクルトの髪の毛から、おもむろに手を離した。
クルトは身体が自由になった途端に、四つん這いになって逃げだそうとする。
けれど、既にそれを予期していたのだろう。レンブラントは長い足を延ばして、クリスの背を踏みつけた。
「まぁこんなところでギャンギャンあんたのくだらない話を聞くのは時間の無駄だ。一先ずゆっくり話せる場所に移動しようか。軍人に対する暴言、そしてこの娘をさらってくれたが、これは公務執行妨害だ。─── あんたには、色々と話してもらうぞ」
この言葉を聞いて、げっと思ったのはベルの方だった。
レンブラントは軍人だ。
軍人は時として警護団と同じ権利を有する。つまり内容次第によっては、諸々の手続きをしなくても簡単に容疑者を逮捕できるのだ。
そして痛めつけられたクルトは、もうレンブラントに歯向かうことはしないと断言できる。だが、わが身可愛さからベルが領印を盗んで破壊して燃やしたたことをペロッと喋ってしまうだろう。
(……それはマズい。めっちゃマズい事になったぞ)
領印の件は絶対にレンブラント達に知られてはいけない。彼らは親切で優しい。
けれど、軍人なのだ。
絶対に逃げないし罰も受けるからレイカールトン侯爵に会うまで待って、とお願いしたところで聞き入れてもらえるはずはない。
ベルはここへ来て、最大のピンチを迎えてしまった。
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