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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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「───…… っていうかさぁ、気付くのが随分遅いじゃない。あなた達一体、何日放置してたの?」
「うるさいっ。黙れっ!」
─── バシンッ。
オロオロするクルトがあまりに滑稽で、ベルは思わず本音を漏らしてしまった。
すぐさま怒声と右頬に衝撃が走る。
次いで、じんじんと不快な熱と口の中に広がる鉄錆の味。ああ、本気で殴られたとベルは至極冷静に思った。
でも、一度動き始めた口は止まることは無かった。
「はっ、図星を指されたからって殴ることしかできないなんて、やっぱ能無しだね、あなた」
「なんだと!?お前、黙れって言ってんのが、わかんねぇのかよっ」
─── バシンッ。
図星を刺されたクルトは、更にベルを殴る。
でも、ベルの口は止まらない。
「殴るのはけっこうだけどさぁ、だいたいそんな大事なものを取ってくださいって言わんばかりに、あんなところに置いておく方が悪いんじゃない?」
「……なっ、お前いつ盗んだんだよっ。どうやって盗ったんだよっ」
「さあ?どうやってなんだろうねぇー。ねえ、教えて欲しければ、ちゃんと”お願いします”って言って。そうしたら教えてあげなくも」
「ふざけんなよっ。くそっ、どうしたら良いんだよっ……ああっ、俺、戻れねじゃねえか……全部、お前のせいだからな」
─── バシッ、ガッ、ガッ、バシンッ。
感情に任せて、クルトは力任せにベルを殴り続ける。
けれどベルは抵抗しない。
口から血が流れようが頬が腫れようが、おかまいなしに居直る態度を取り続ける。そうだ、もっとやれと言わんばかりに。
ベルはわざと煽る言葉を紡いだのだ。
自分が領印を盗んだと思い込んで欲しいから。
実のところ、盗み出したのはクラース邸の執事でありベルの剣の師匠でもあるパウェルスだった。
彼は後のことは心配するなと微笑みながら領印と金をベルに渡し、レイカールトン侯爵の元へ行けと言った。
それを受け取ったベルは、万が一、領印を取り戻されることを恐れて斧で粉砕して念には念を入れて暖炉で燃やしたのだ。
領印を破壊し燃やすのは死罪確定だ。
だが、盗むだけでも大罪だ。もし見つかれば、一族郎党打ち首となる。
長年クラース邸に仕えてきた彼が、もちろんそのことを知らないわけがない。でも、危険を承知の上で領印を盗み出してくれた。
パウェルスは家族との縁が薄い。今、親族と呼べるのはたった一人の幼い孫娘だけ。そして彼は孫娘を心から愛している。
ベルだってパウェルスのことを大切に思っている。それに彼の孫娘だって妹のように愛おしいと思っている。二人には穏やかに暮らして欲しいと思っているし、こと孫娘には危険な目に遭って欲しくない。
だから疑いの目が全部自分に向くように、ベルは必要以上にクルトを煽る。
クルトは汚職の手助けができる程度の知能は持っているが、乱暴で単純で思い込みが激しい。
怒りと共に悔しい思いを強く持てば、自分が領印を盗んだと心に刻んでくれるだろう。そしてクラース邸に戻ってそう報告してくれるはず。
残念ながら志半ばで連れ戻されてしまうが、途中で逃げれば万事問題ない。
ベルは暴力に耐えながら、一人ほくそ笑む。頭の中で前回の失敗を教訓にして、逃げ出す算段を立てながら。
それからしばらくクルトはベルを殴り続けていたけれど、奇声を発して手を止めた。
「くそっ、もういいっ。とにかくお前は、俺と来い!あと、お前から領印のことを説明しろよ。俺は言わないからな」
大の大人とは思えない程の弱虫発言に、ベルは再び笑い声を上げる。
けれど、すぐにうっとうめき声を上げた。
クルトがベルの髪を掴んだまま引きずり始めたのだ。
頭皮が悲鳴を上げる。ずるずると引きずられる感覚と同時に、地面が歪な形で削られていく。
(あーあ……ダミアンさんから贈られたコートが台無しだ……)
ベルは自分の頭皮を庇いつつ、そんなことを考える。
あと、クルトは片手で自分を引きずっているが、ひょろい彼にそんな力があったことに地味に驚いている。
ただ、すぐにベルはもっともっと、もぉーと驚くことになる。
「困るなぁ、坊や。その娘は、こっちの大事なお客さんなんだ。手を放してもらおうか」
呑気な口調とは裏腹に、冬の冷気よりもっとも凍てつく声が頭上から降ってきた。と同時に、クルトの足が止まり必然的にベルも身体も停止した。
馴染みのある声にベルは何とか首を捻って、声の主を見る。
そこにはこれ以上ない程、恐ろしい顔をしたレンブラントがいた。
「うるさいっ。黙れっ!」
─── バシンッ。
オロオロするクルトがあまりに滑稽で、ベルは思わず本音を漏らしてしまった。
すぐさま怒声と右頬に衝撃が走る。
次いで、じんじんと不快な熱と口の中に広がる鉄錆の味。ああ、本気で殴られたとベルは至極冷静に思った。
でも、一度動き始めた口は止まることは無かった。
「はっ、図星を指されたからって殴ることしかできないなんて、やっぱ能無しだね、あなた」
「なんだと!?お前、黙れって言ってんのが、わかんねぇのかよっ」
─── バシンッ。
図星を刺されたクルトは、更にベルを殴る。
でも、ベルの口は止まらない。
「殴るのはけっこうだけどさぁ、だいたいそんな大事なものを取ってくださいって言わんばかりに、あんなところに置いておく方が悪いんじゃない?」
「……なっ、お前いつ盗んだんだよっ。どうやって盗ったんだよっ」
「さあ?どうやってなんだろうねぇー。ねえ、教えて欲しければ、ちゃんと”お願いします”って言って。そうしたら教えてあげなくも」
「ふざけんなよっ。くそっ、どうしたら良いんだよっ……ああっ、俺、戻れねじゃねえか……全部、お前のせいだからな」
─── バシッ、ガッ、ガッ、バシンッ。
感情に任せて、クルトは力任せにベルを殴り続ける。
けれどベルは抵抗しない。
口から血が流れようが頬が腫れようが、おかまいなしに居直る態度を取り続ける。そうだ、もっとやれと言わんばかりに。
ベルはわざと煽る言葉を紡いだのだ。
自分が領印を盗んだと思い込んで欲しいから。
実のところ、盗み出したのはクラース邸の執事でありベルの剣の師匠でもあるパウェルスだった。
彼は後のことは心配するなと微笑みながら領印と金をベルに渡し、レイカールトン侯爵の元へ行けと言った。
それを受け取ったベルは、万が一、領印を取り戻されることを恐れて斧で粉砕して念には念を入れて暖炉で燃やしたのだ。
領印を破壊し燃やすのは死罪確定だ。
だが、盗むだけでも大罪だ。もし見つかれば、一族郎党打ち首となる。
長年クラース邸に仕えてきた彼が、もちろんそのことを知らないわけがない。でも、危険を承知の上で領印を盗み出してくれた。
パウェルスは家族との縁が薄い。今、親族と呼べるのはたった一人の幼い孫娘だけ。そして彼は孫娘を心から愛している。
ベルだってパウェルスのことを大切に思っている。それに彼の孫娘だって妹のように愛おしいと思っている。二人には穏やかに暮らして欲しいと思っているし、こと孫娘には危険な目に遭って欲しくない。
だから疑いの目が全部自分に向くように、ベルは必要以上にクルトを煽る。
クルトは汚職の手助けができる程度の知能は持っているが、乱暴で単純で思い込みが激しい。
怒りと共に悔しい思いを強く持てば、自分が領印を盗んだと心に刻んでくれるだろう。そしてクラース邸に戻ってそう報告してくれるはず。
残念ながら志半ばで連れ戻されてしまうが、途中で逃げれば万事問題ない。
ベルは暴力に耐えながら、一人ほくそ笑む。頭の中で前回の失敗を教訓にして、逃げ出す算段を立てながら。
それからしばらくクルトはベルを殴り続けていたけれど、奇声を発して手を止めた。
「くそっ、もういいっ。とにかくお前は、俺と来い!あと、お前から領印のことを説明しろよ。俺は言わないからな」
大の大人とは思えない程の弱虫発言に、ベルは再び笑い声を上げる。
けれど、すぐにうっとうめき声を上げた。
クルトがベルの髪を掴んだまま引きずり始めたのだ。
頭皮が悲鳴を上げる。ずるずると引きずられる感覚と同時に、地面が歪な形で削られていく。
(あーあ……ダミアンさんから贈られたコートが台無しだ……)
ベルは自分の頭皮を庇いつつ、そんなことを考える。
あと、クルトは片手で自分を引きずっているが、ひょろい彼にそんな力があったことに地味に驚いている。
ただ、すぐにベルはもっともっと、もぉーと驚くことになる。
「困るなぁ、坊や。その娘は、こっちの大事なお客さんなんだ。手を放してもらおうか」
呑気な口調とは裏腹に、冬の冷気よりもっとも凍てつく声が頭上から降ってきた。と同時に、クルトの足が止まり必然的にベルも身体も停止した。
馴染みのある声にベルは何とか首を捻って、声の主を見る。
そこにはこれ以上ない程、恐ろしい顔をしたレンブラントがいた。
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