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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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クルトは2番目の義理の姉であるレネーナの婚約者だった。
商家の3男として生まれたクルトは、兄弟の中では一番顔は良かったけれど、商才は一番無かった。
そして努力することを誰よりも嫌い、楽して生きていくことにだけ心血を注ぐどうしようもない男だった。
そんな彼はクラース邸ではベルの次に地位が低かった。
いつも現辺境伯であるフロリーナの顔色を常にうかがい、義理の姉夫婦にはおべっかを使いまくり、婚約者であるレネーナのご機嫌取りばかりしていた。
反面、ベルに対しては誰よりも辛くあたっていた。日頃の鬱憤を晴らすかのように。
「上手に逃げたつもりだったか?馬鹿め」
ひひっとクルトは歪んだ笑いを浮かべて、更にベルの背を押す。再びベルが喉から苦し気な息が漏れる。
クルトはベルの背を手加減なく踏んでいる。ベルの逃亡を阻止しているというよりは、そうすることが楽しくて仕方がないといった感じで。
対してベルは喘ぐような息を漏らしはするが、痛いと顔を顰めることも、やめてと懇願することだってしない。
こんな仕打ちなんて、いつものこと。
そして「やめて」と言えば、クルトは面白がって更に自分を痛めつける。嗜虐心が強いわけなんかじゃない。ただクソなだけだ。
この男がどれだけ最低な人間であるかは、ベルは出会った3日でわかった。
だからこれが彼なりの挨拶であるということも。
それにここは市場からだいぶ離れた林のようなところ。助けを求めるには、あまりに場が悪い。
「ベル、仕置きは帰ってからたっぷりくれてやる。覚悟しておけよ。───……それと、お前が持ち逃げしたアレを出せ。ここに無いなら場所を言え。俺が取って来てやる」
ベルを踏みつける最低な男が本題を切り出した途端、ベルは吹き出した。
堪らなく可笑しくて、かふっかふっと喘ぎながらも、それでもしっかり笑い声を上げる。
クルトは最初、そんなベルの態度に慄いた。まかり間違っても、ベルが笑いだす要素が無いからだ。気でも狂ったのかとすら思った。
けれど、次にベルが発した言葉で、その意味を知ることになる。
「はっ、あ……あんたが探しているアレは……ね、私がとうに壊したの。お、斧で割って、滅茶苦茶にして……暖炉で燃やしてやったわ。だ……だからどれだけ探したって見つからない」
「お前、ふざけるな!!」
クルトは途切れ途切れで語られたベルの言葉に激高した。
踏みつけていた足を持ち上げ、ベルの脇腹を蹴り上げる。次いで自分も膝を付き、ベルの髪を力任せに掴んだ。
「なんてことをするんだっ。お前馬鹿か!?……う……嘘だろ……オイ……困る」
唾を飛ばしながら叫んだと思えば、急に狼狽えるクルトを見て、ベルは痛みより小気味よさで再び笑いが漏れる。
クルトが探していた物は、通称『領印』と呼ばれるもの。
国王から譲り受けた唯一無二のもので、精巧な細工がしてあるそれは、どんな技巧者でも複製はできない。
そして代々領主から受け継がれるそれは、命より重いとされている。万が一紛失すれば、斬首は免れない。
普段なら領主は書類に自署することで決済することができる。けれど、大きな案件。とりわけ多額のお金を動かす際にはそれが必要となる。
その大切な領印をベルは壊して燃やした。レンブラントに連行される10日前に。
これ以上大切な領民から集めた血税を、フロリーナを始めとする面々に好き勝手に使われたくなかったから。
─── 無論、命をもって罪を償う覚悟はできている。
商家の3男として生まれたクルトは、兄弟の中では一番顔は良かったけれど、商才は一番無かった。
そして努力することを誰よりも嫌い、楽して生きていくことにだけ心血を注ぐどうしようもない男だった。
そんな彼はクラース邸ではベルの次に地位が低かった。
いつも現辺境伯であるフロリーナの顔色を常にうかがい、義理の姉夫婦にはおべっかを使いまくり、婚約者であるレネーナのご機嫌取りばかりしていた。
反面、ベルに対しては誰よりも辛くあたっていた。日頃の鬱憤を晴らすかのように。
「上手に逃げたつもりだったか?馬鹿め」
ひひっとクルトは歪んだ笑いを浮かべて、更にベルの背を押す。再びベルが喉から苦し気な息が漏れる。
クルトはベルの背を手加減なく踏んでいる。ベルの逃亡を阻止しているというよりは、そうすることが楽しくて仕方がないといった感じで。
対してベルは喘ぐような息を漏らしはするが、痛いと顔を顰めることも、やめてと懇願することだってしない。
こんな仕打ちなんて、いつものこと。
そして「やめて」と言えば、クルトは面白がって更に自分を痛めつける。嗜虐心が強いわけなんかじゃない。ただクソなだけだ。
この男がどれだけ最低な人間であるかは、ベルは出会った3日でわかった。
だからこれが彼なりの挨拶であるということも。
それにここは市場からだいぶ離れた林のようなところ。助けを求めるには、あまりに場が悪い。
「ベル、仕置きは帰ってからたっぷりくれてやる。覚悟しておけよ。───……それと、お前が持ち逃げしたアレを出せ。ここに無いなら場所を言え。俺が取って来てやる」
ベルを踏みつける最低な男が本題を切り出した途端、ベルは吹き出した。
堪らなく可笑しくて、かふっかふっと喘ぎながらも、それでもしっかり笑い声を上げる。
クルトは最初、そんなベルの態度に慄いた。まかり間違っても、ベルが笑いだす要素が無いからだ。気でも狂ったのかとすら思った。
けれど、次にベルが発した言葉で、その意味を知ることになる。
「はっ、あ……あんたが探しているアレは……ね、私がとうに壊したの。お、斧で割って、滅茶苦茶にして……暖炉で燃やしてやったわ。だ……だからどれだけ探したって見つからない」
「お前、ふざけるな!!」
クルトは途切れ途切れで語られたベルの言葉に激高した。
踏みつけていた足を持ち上げ、ベルの脇腹を蹴り上げる。次いで自分も膝を付き、ベルの髪を力任せに掴んだ。
「なんてことをするんだっ。お前馬鹿か!?……う……嘘だろ……オイ……困る」
唾を飛ばしながら叫んだと思えば、急に狼狽えるクルトを見て、ベルは痛みより小気味よさで再び笑いが漏れる。
クルトが探していた物は、通称『領印』と呼ばれるもの。
国王から譲り受けた唯一無二のもので、精巧な細工がしてあるそれは、どんな技巧者でも複製はできない。
そして代々領主から受け継がれるそれは、命より重いとされている。万が一紛失すれば、斬首は免れない。
普段なら領主は書類に自署することで決済することができる。けれど、大きな案件。とりわけ多額のお金を動かす際にはそれが必要となる。
その大切な領印をベルは壊して燃やした。レンブラントに連行される10日前に。
これ以上大切な領民から集めた血税を、フロリーナを始めとする面々に好き勝手に使われたくなかったから。
─── 無論、命をもって罪を償う覚悟はできている。
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