美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい

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 レンブラントの姿を認めた途端、部下であるラルク達は一斉に背筋を伸ばし胸に手を当て礼を取る。対してベルは彼をさらりと無視をして馬車に乗り込もうとした。

 でも、あっと小さな声を上げて、レンブラント─── ではなく、もう一人の青年に駆け寄った。

「あのっ、ダミアンさん。砦にいる間、色々とありがとうございました」

 駆け寄った勢いのままぺこりと頭を下げたベルに、ダミアンはからからと笑う。

「そんなそんな、お礼なんていらないよ。受け取ってもらえて良かった。っていうか、お礼を言われるようなことはしてないよね、実は僕。でも、良く似合っているよ、うん。やっぱり女の子は桃色が一番似合うねー。このコート実はさぁ濃い緑と悩んで悩んで───」
「いえ、違います」
「え?」

 てっきり贈ったドレスやコートのお礼だと思っていたダミアンは、きょとんと目を丸くする。

 今日のベルは、これまでの服装とは一変している。

 自身の髪色と同じ撫子色のウール地のドレスに、淡い桃色のフード付きのコート。くるみボタンにはバラの刺繍がしてある一級品だった。
 足元のブーツも丈夫な革製でありながら、唐草模様の押し型がしてある品の良いもの。

 それらを合計すると、目が飛び出る金額になる。

 ちなみにダミアンは家督はまだ継いでいないが、一応宮廷貴族であるので高給取りだ。

 だからベルにそれらを一式送ったところで懐は痛むことはない。それに、この品は本当はレンブラントから依頼されたもので、彼は建て替えただけ。

 ただ贈り主のたっての希望でその事実は伏せられているため、ベルはダミアンから贈られたものだと思い込んでいる。

 ─── という事情があるにせよ、ダミアンは贈り物以外ではベルからお礼を言われるよ覚えはない。

 そんな気持ちが思いっきり顔に出ていたのだろう。察したベルは、小さく咳ばらいをしてからより詳細に語りだす。

「滞在中、良いカモになってくれたことです。その節は本当にありがとうございました。おかげで楽しいひと時を過ごすことができました」
「……あ、そっちかぁ。うん、僕もある意味楽しませてもらったから、うん、礼を言われるほどのことじゃないよ。あと、できればそういうことは有り難いと思っても口に出さないでね。僕が落ち込むから。……は、ははっ」

 乾いた笑い声を上げるダミアンの眼は死んでいた。次いで深々と頭を下げた。

「本当に……君のパン、食べちゃってごめんね」
「いえ、食べたことより、パンをディスったことを謝ってください」
「うん、ごめんね」

 実はダミアンは、カードゲームの際に場を和まそうと、ベルを連行した初日に食べたパンの話をしたのだ。

 形が悪く、味も悪かったと面白おかしく。

 話術にたけているダミアンのそれに、ラルクたちは笑っていた。だが、ベルは半目になった。
 当たり前だ。うっかり馬車に忘れたとはいえ、パンの持ち主はベルなのだから。

 食べられたことは別段気にしていない。むしろ悪くなる前に食べてもらって助かった。今更弁償しろと詰め寄る気もない。

 だた満足に食事を取ることができない環境にあったベルとしたら、ダミアンの発言は聞き流すことができないもの。その結果「大切な食べ物をディスるとは何事だ!」と大いに憤慨したのだった。

 ベルの主張は間違っていない。カードを叩きつけて怒り狂ったベルに、その場にいた全員はすぐさまスミマセン!と頭を下げた。

 ......という経緯があり、半笑いで謝ったダミアンに未だにしこりが残っていたベルはちょっとだけ鉄槌を下してみただけのこと。

「今後は、どんな食べ物であってもあなたの栄養になるものだんです。だから感謝の気持ちを忘れずに食べてください」
「うん、誓う」
「では、この件はもう終わりということで。改めて、たくさんの贈り物ありがとうございました。大切にしますね」
「う、うん」

 しっかり反省したダミアンに対して、お礼の言葉を伝えたベルは「それでは」と言い残して今度こそ馬車へと向かう。 

「───……女性っていうのは服装で変わるっていうが、本当に見違えたな。良く似合っている」

 ダミアンに背を向け馬車の元まで戻ったベルに、レンブラントは目を細めてそう言った。

 それは嘘偽り無い本音で、周囲に居た軍人達は生ぬるい笑みを浮かべている。けれどベルは、すぐに微妙な顔つきになった。

 レンブラントはどうしたんだと、目で問いただす。

「......あのう、どうしてでしょう」
「ん?どうした」
「……あなたが言うと、ただのロリコン発言にしか聞こえないんです」
「なっ」

 心底不思議そうに首を捻るベルに対し、レンブラントの額には綺麗な青筋が立った。周りにいた部下とダミアンは口元に手を当て、肩を震わせている。

 でも、レンブラントは怒鳴りつけることはしなかった。

 理性を総動員してそれを押し込め、「いくぞ」とベルに声を掛け馬車へと乗り込んだ。
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