美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
22 / 117
2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい

3★

しおりを挟む
 ─── 事の起こりは、今を去ること10日前のことだった。

 嵐の前触れのような横殴りの雨の中、レンブラント一行はログディーダ砦へと向かっていた。

 そして馬車の中では、レンブラントが安定のしかめっ面でいた。


「おい、いい加減それを返してくれ」
「はぁー……”貰ったものは、返せないもの”っていう言葉、知らないんですか?」

 まるで出来損ないの生徒に補修授業をする教師のような口調でそう言ったベルに対して、レンブラントは青筋を立てる。

「俺はそれをやった覚えは無い。危ないから、とっとと返せ」
「はっ、嫌ですよ。ロリコン軍人と同乗しているんですよ?護身用の武器は必要じゃないですか」
「誰がロリコン軍人だっ。いいか俺はまだ20代だ」
「誰しも過ぎ去った時間を取り戻したいと思うときはあります。でも、現実を受け入れてください」

 ゆるぎない信念をもってベルが年齢否定すれば、当の本人はついに激高してしまった。

「ふざけるな!いつ俺が年齢詐称したんだ!?言っておくが俺はあんたには、一度だって嘘はついていないぞっ。なのに、なんだんだっ。まったく……じゃないっ。とにかく危ないから返せ。あんたが刃物を持っているっていうだけで、こっちは冷や冷やしているんだ」
「あー……いつ刺されるかわからないからですか?とうとう本性を現しましたね。このド変態軍人」
「馬鹿か。あんたがうっかり怪我をするかもしれないから、だっ!」

 このやり取りで察してしまう者もいるかもしれないが、レンブラントのロリコン疑惑事件から数日経ってもベルはずっと軍の紋章が入った短剣を持ち続けている。

 そしてレンブラントは、日に何度も返せと訴えている。が、今のやり取りを繰り返すだけで、ベルは一向に返さない。

 レンブラントの名誉の名誉の為に言っておくが、彼はくれてやるのが惜しいから言っているわけではない。華奢な少女が殺傷能力を持つコレを手にしているのが、危なっかしくて見ていられないのだ。

 だからかなりキツイ口調でベルに訴えているのだが、けんもほろろに流されてしまっている。

 レンブラントは、なんだかんだいってベルの毒舌を受け入れるほど器が大きい。でも、そんな人間にだって限度がある。

 そんなわけでレンブラントは、二度目の奥の手を使うことにした。

「……悪いが、強硬手段を使わせてもらうぞ」
「は?───……なっ」
 
 レンブラントはいきなり立ち上がると、ぐいっとベルの方に身体を押し出した。

 ベルが大柄な男が不意に近づけば、びくりと身体を竦ませてしまうことを知っていて、敢えてそうしたのだ。そしてその隙に、短剣を取り戻そうと思った。

 これは大変卑怯な手ではあるが、効率的で不毛な言い争いをしなくて済む方法である。

 しかしレンブラントは、ベルに覆いかぶさった途端、チェスの終局で逆転負けをしたような表情になった。

「───……降参だ。その短剣はあんたにやる」

 レンブラントは態勢を変えないままそう言った。

 なぜならレンブラントの脇腹には、鞘の抜かれた短剣が付きつけられていたから。もちろん短剣を持っているのはベルである。

 ベルは信じられないことに、あの短い時間に短剣から鞘を抜き、レンブラントの脇腹ギリギリに刃を当てたのだ。

 これは簡単そうで、なかなか難しい。
 刃物に慣れていなければ鞘を抜くのに躊躇してしまうし、抜いたところで加減がわからず服を切ってしまう。

 でもレンブラントの軍服は、ほつれ一つない。
 それはベルが日ごろから、鍛錬を積み重ねてきた証拠でもある。

 というわけで、レンブラントはもう冷や冷やする必要はなくなり、名実ともに短剣はベルの私物となった。
 





 
「───……なぁーるほどねぇ」

 事細かに詳細を語り終えた途端、ダミアンは深く頷いた。

「ああ。そういうわけなんだ……っと」

 レンブラントは喉の渇きを覚えて、グラスを持つ。けれど、いつの間にか飲み干したようで、空になっていた。仕方がないので立ち上がりチェストに向かう。それから酒瓶を手にして戻ろうとした。

 だが途中で、神妙な顔になったダミアンから、こんなことを言われてしまった。

「あのさぁ、10個近く歳の差のある女の子を好きになったら、20代でもやっぱロリコンになるんじゃないの?」
「……言うに事を欠いてそれか」

 あまりに的外れな発言に、レンブラントは手にした酒をダミアンにぶっかけてやろうかと思ってしまった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。

当麻月菜
恋愛
平民だけれど裕福な家庭で育ったシャンディアナ・フォルト(通称シャンティ)は、あり得ないことに結婚式当日に花婿に逃げられてしまった。 それだけでも青天の霹靂なのだが、今度はイケメン軍人(ギルフォード・ディラス)に連れ去られ……偽装夫婦を演じる羽目になってしまったのだ。 信じられないことに、彼もまた結婚式当日に花嫁に逃げられてしまったということで。 少しの同情と、かなりの脅迫から始まったこの偽装結婚の日々は、思っていたような淡々とした日々ではなく、ドタバタとドキドキの連続。 そしてシャンティの心の中にはある想いが芽生えて……。 ※★があるお話は主人公以外の視点でのお話となります。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...