美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜

文字の大きさ
上 下
19 / 117
1.毒舌少女は他称ロリコン軍人を手玉に取る

17

しおりを挟む
 レンブラントは性格においては色々と問題はあるが、顔だけはかなり良い。ひいき目無しに、渋めのイケメンだ。

 すっと通った鼻筋。意思が強そうな凛々しい眉。黄色とオレンジ色の間のような瞳は、不思議な色合いで獣のように鋭い。
 でも、しっかり見ればきちんと奥に温かさを湛えている。

 本人も目つきが悪いことを自覚しているのか、前髪は軍人にしたら少々長い。
 自分の顔の出来が良いことを自覚した者だけができる片側の前髪だけを下した髪型は、大変気障ったらしいが、彼らしいとも言えば彼らしい。

 そして背が高くしっかりとした体格で、軍服が憎らしい程良く似合っている。

 まぁつまり彼は、初対面の人間でも、この人女性に苦労したことが無いだろうなぁ思わせる容姿だ。

 ただレンブラントは、イケメンではあるがお世辞にも青年とは呼べない。

 良く言えば、物腰が落ち着いている。言葉を選ばなければ、貫禄がありすぎる。

 そして小言と説教がお好きなところが、おっさんくさい。

 それらを総合すると、レンブラントの年齢は三十代半ばだとベルは判断した。

 胸を張って妥当な線だと思っている。いや、ドンピシャだと断言できる。


 ……と思っているのだが、どうやら間違いのようだった。




「おい」
「……んぁ?なんですか、ロリコン軍人さん」

 凄みのある声で呼びかけられたが、ベルは雑な返事をする。

 なぜなら性懲りも無く包帯取りを再開し始めて忙しいからだ。

「手を止めて、話を聞け」
「大丈夫、聞こえてますから。あなたの話なんて、ながら作業で十分です」

 ついさっき涙目で謝罪をしたことなど嘘だったかのように、ベルはだだくさな態度を変えようとはしない。

 その態度に、レンブラントの眉がピクリと跳ねた。

「おい、手を止めてちゃんとこっちを見ろ。

 急に口調が変わった彼に異変を感じて、ベルは格闘する手を止めて前方を見る。

 目の前の銀髪軍人は半目になっていた。

「君に確認したいことがある。黙秘は許さない。いいか?」
「……はい」 

 ついさっきの出来事を思い出して、ベルは大人しく両手を膝の上に乗せて頷いた。

「では質問するが、君は先ほど何と言った?」
「……えっと”なんですか”……と」
「違う、もっと前だ」
「え゛、何言いましたっけ?」
「とぼけるな。目が泳いでいるぞ。答えろ」
「”上司の下で働くラルクさん達が、気の毒でなりません”……と言いました」
「上手いこと誤魔化したつもりか?重要な部分を端折るな。もう一度、言え」
「ロリコン上司の下で働くラルクさん達が、気の毒でなりません……と、言ったような……言わなかったような……」

 最後は、ごにょごにょと不明瞭な言葉を紡いで、ベルはそぉっとレンブラントから目を逸らした。

 しかし顔には「あ、やべえ」としっかり書いてある。

 そして、至近距離にいるレンブラントがそれを見逃すはずはなかった。

「アルベルティナ嬢、もう一つ質問だ」
「ぅあ……はい」
「俺は幾つに見える?忖度なしに言ってみろ」
「え、さん……いや、にじゅう」
「人の顔色をうかがうな。思った通りの年齢を言え」

(言えるもんなら、もう言っているさっ)

 そんなことをベルは心の中で叫んだ。息するように毒を吐くベルだけれど、そこそこ空気は読める。ちなみに今は、吐いてはいけない時である。

 ベルはちらっちらっとレンブラントを見る。どう見たって三十代だ。

 窓から見える羊飼い少年を呼び止めて聞いたとしても、間違いなく自分と同じ年齢を口にするだろう。でも、言いかけた瞬間、レンブラントの眼光がギラリと光ったから違うのだ。

 じゃあ、彼は幾つなんだ!? と、逆にベルは聞きたくなった。だが、真っ正直に聞けば更にこの馬車の空気は悪くなるだろう。

 だからベルは質問を変えた。

「……素直に言うけど……」
「ああ」
「絶対に怒らない?」
「ああ。約束する」
「殴ったりもしない?」
「アホか。そんなことするわけないだろう。……ああそうだ。もしそうなら、これで刺していい─── ほらっ」

 レンブラントが投げてよこしたのは、軍の紋章が入った短剣だった。そしてそれが膝に落ちた瞬間、ベルはもう逃げられないことを悟った。

 だから短剣をぎゅっと握りしめて、見たままの年齢を口にした。

「───……そうか」
 
 息すら苦痛に覚える沈黙が数分続いた後、レンブラントは静かな声でそう言った。

 ちなみに彼の本当の年齢は25。ベルよりが予想していたそれより7つも下だった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

【完結】好きになったら命懸けです。どうか私をお嫁さんにして下さいませ〜!

金峯蓮華
恋愛
 公爵令嬢のシャーロットはデビュタントの日に一目惚れをしてしまった。  あの方は誰なんだろう? 私、あの方と結婚したい!   理想ドンピシャのあの方と結婚したい。    無鉄砲な天然美少女シャーロットの恋のお話。

処理中です...