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旅路と再会の章

ファルファラと使い魔の過去①

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「ーー嬢!、お嬢!!」

 強く肩を揺さぶられ、ファルファラは目を覚ました。

「……あ……ラバン。ここ……どこ?」

 ゆるゆると目を空けたファルファラは、ベッドから緩慢に身体を起こす。

 薄暗い部屋は、まったく見覚えが無い場所だった。

「宿屋です。お嬢は、馬車の中で気を失ってしまったので、そのまま私が運びました」
「………あ、そうんだ……ありがとう。ラバン………痛っ」

 ファルファラは、へにゃりと笑ってラバンに抱きつこうとする。

 だがしかし、突然左目に激痛が走り思いっきり顔をしかめる。

「古傷が痛みますか?」
「……へいきだよ、大丈夫」

 左目を手のひらで覆って、ファルファラは笑おうとする。でも失敗して、くしゃりと顔が歪んだ。

「痛むんですね」
「……大丈夫」
「お嬢、私は痛いのかと尋ねてるんです。大丈夫なのかとは聞いておりません」
「そうだね。ごめん……でも平気だから」

 これもまた正しい返答じゃないのはわかっている。でも、痛いだなんてどうして言えようか。 

 左目の痛みは自分への罰。自分の罪の証。一生忘れるなという十字架だ。

 それを拒むなんて、ファルファラにはできない。

「……ラバン」
「なんですか、お嬢」
「ラバン」
「はい、お嬢」
「ラバン……ラバン……あのね」
「はい」
「夢をね……あの日の夢を……また見たの」

 ファルファラはラバンのシャツをぎゅっと握って、小さな声で呟いた。

 すぐにラバンが背を優しく撫でてくれる。

「そうですか、でも夢です。それにもう終わったことです。どうか、お忘れください。何なら、子守歌でもお聞かせしましょうか?」
「……ううん、いい。でも……寝るまで、傍にいて」
「御意に」

 縋りつくファルファラを、ラバンは慈愛を込めた眼差しで返すと、そっとその細い身体を横たえた。

 それからラバンはベッドの端に座り、ファルファラの手を握った。

 大事な主が、規則正しい寝息を立てるまでずっと、ずっと。


***


 人間が人ならざるものーー精霊や聖獣を使い魔にしようとするなら、魔術師は召喚の儀を行い呼び出した人ならざるもの達と契約を交わさなければならない。

 ファルファラの使い魔であるラバンも、召喚により呼び出された過去を持つ。

「ーー……な、なんで……なんでぇ……なんで、で、で、で、出てきちゃったの!?」

 長い眠りから覚めたラバンが久方ぶり目にした人間は、枯れ枝のようにひょろっとした女性が無様に尻もちを付いている姿だった。

 ……まぁ、容姿云々は人間じゃないラバンからすれば、そこまで気になることではなかった。

 それより勝手に呼び出しておいて「何で出てきたの!?」とは酷い言い草だ。

「おい、ぬしは俺に喰わたいが為に呼び出したのか?」

 当時、ラバンという名前でもなければ人の姿でもなかった彼は、ファルファラなどカプッと一飲みできる大きさだった。

 きっと怯えて、逃げ出すだろう。もしくは気絶するか。

 ラバンは人を食べる魔獣ではない。ファルファラが仮に逃げたり気絶したりしても、そのまま放置して、再び眠りにつこうと思っていた。

 けれども、呼び出しておいて失礼極まりない台詞を吐いた人間はこう言った。

「もし……もし、そうだとしたら……貴方は……私を殺してくれる?」

 こちらを見上げる水色の瞳には恐怖の色はなかった。

 それどころか期待に満ちていた。
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