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旅路と再会の章
望まぬ再会①
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殺伐とした空気に耐え切れず、ファルファラはとうとう胃の辺りを抑えてうずくまってしまった。
「お嬢、一度外の空気に当たりに行きましょう」
このままではコミュ障主が、粗相をしてしまうと思ったのだろう。
人間のことなどどうでもいいが、主に対しては気遣いができるラバンは強引にファルファラの腕を掴んで立ち上がらせた。
そして無言で大事な大事な主を抱えて廊下に出ようとした。しかしその瞬間、
「お待ち」
ローズベリーが鋭い声で二人を制した。
「うちのギルドは交渉中は何人たりとも部屋の出入りを禁じているのさ。今あんた達が出て行ったら、交渉決裂。もちろん金は返さない。それで良いのかい?お嬢ちゃん」
「もちろん構いません」
即答したのはラバンだった。
しかしファルファラは、ざっと青ざめる。
「も、戻りますっ」
慌てて席に戻るファルファラだが、一応、彼女は王の番犬<慧眼の魔術師>である。
つまり稼ぎはあるし、個人名義の貯蓄もかなりある。加えて本人は贅沢する気も無いし、そもそも引きこもり志望だから金の使い道も無い。
だからムダ金になってしまったお金は、自分の懐からグロッソに返せばいいだけのこと。
でも、入手したかったルゲン帝国の情報は弁償することができない。
いやもう一度手順を踏んで自分がギルドに足を運べば良いだけなのだが、それはファルファラにとって恐怖でしかない。
「す、すみません……あの……ど、どうぞ続けてください」
気遣うグロッソと、不服そうなラバンの視線には気付かないフリをして、ファルファラはペコペコ頭を下げてローズベリーに続きを促す。
そうすればローズベリーは4杯目の水を飲み干してから口を開いた。
「ルゲン帝国の次期皇帝候補の二人……直系バルヌと庶子のエガ、相当揉めてるようだね。しかも、城の中だけで揉めてくれるならまだ可愛いけれど、どうもエガを支持する部族が武力行使に出ようとしてるみたいだねぇ」
「あそこの国らしいな。で、もう紛争は始まったのか?」
「いんや、ひとまず武装した部族を帝都近辺に集めて威嚇中だね。でも、バルヌはそれを見て、帝国騎士で迎え撃つ準備を整えている」
「つまり、内部抗争が始まるのも時間の問題と言うことか」
「そうさね。それに加えて、もう一つ厄介なことがあるんだよ、あそこは」
ここでローズベリーは、ふぅと溜息を吐いて腕を組んだ。
その仕草は勿体ぶっているというより、言葉にしたく無いと言った感じだ。
「……クーデターが起こるかもしれないねぇ」
「クーデター?」
思わず聞き返したグロッソに、ローズベリーは詳細を語る。
「ああ、ルゲン帝国は独裁政権だからね。特に侵略されて強制的に帝国民になった連中は今でも皇帝を憎んでいる。そんな中、一人の救世主が現れたってわけさ」
「……胡散臭いな」
「同感だね。私もそう思った。だが、確かなのはその救世主は【呪いを断ち切る槍】と【反呪勾玉】を持っている」
「【呪いを断ち切る槍】に、【反呪勾玉】か。槍についてはその名の如くだと思うが、反呪勾玉については初めて聞くな。ローズベリー、それはどんな……っ」
質問をしかけたグロッソだが、途中でしまったという顔をした。
なぜならローズベリーがしめしめと腹黒い笑みを浮かべていたから。
しつこいが、ここはギルド。知りたいのなら、どんな些細なことでも情報料が必要になる。
「……あと幾らだ」
低い声でグロッソが言う。その声はまるで魔獣の唸り声だ。
そして彼から醸し出すオーラがあまりに殺伐しすぎて、ファルファラは自分が何かしでかしたわけではないのに「……ひぃぃっ」と情けない声を出してしまった。
すぐさまラバンが「ですからお嬢、外に行きましょう」と言う。その声は若干、呆れていた。
「お嬢、一度外の空気に当たりに行きましょう」
このままではコミュ障主が、粗相をしてしまうと思ったのだろう。
人間のことなどどうでもいいが、主に対しては気遣いができるラバンは強引にファルファラの腕を掴んで立ち上がらせた。
そして無言で大事な大事な主を抱えて廊下に出ようとした。しかしその瞬間、
「お待ち」
ローズベリーが鋭い声で二人を制した。
「うちのギルドは交渉中は何人たりとも部屋の出入りを禁じているのさ。今あんた達が出て行ったら、交渉決裂。もちろん金は返さない。それで良いのかい?お嬢ちゃん」
「もちろん構いません」
即答したのはラバンだった。
しかしファルファラは、ざっと青ざめる。
「も、戻りますっ」
慌てて席に戻るファルファラだが、一応、彼女は王の番犬<慧眼の魔術師>である。
つまり稼ぎはあるし、個人名義の貯蓄もかなりある。加えて本人は贅沢する気も無いし、そもそも引きこもり志望だから金の使い道も無い。
だからムダ金になってしまったお金は、自分の懐からグロッソに返せばいいだけのこと。
でも、入手したかったルゲン帝国の情報は弁償することができない。
いやもう一度手順を踏んで自分がギルドに足を運べば良いだけなのだが、それはファルファラにとって恐怖でしかない。
「す、すみません……あの……ど、どうぞ続けてください」
気遣うグロッソと、不服そうなラバンの視線には気付かないフリをして、ファルファラはペコペコ頭を下げてローズベリーに続きを促す。
そうすればローズベリーは4杯目の水を飲み干してから口を開いた。
「ルゲン帝国の次期皇帝候補の二人……直系バルヌと庶子のエガ、相当揉めてるようだね。しかも、城の中だけで揉めてくれるならまだ可愛いけれど、どうもエガを支持する部族が武力行使に出ようとしてるみたいだねぇ」
「あそこの国らしいな。で、もう紛争は始まったのか?」
「いんや、ひとまず武装した部族を帝都近辺に集めて威嚇中だね。でも、バルヌはそれを見て、帝国騎士で迎え撃つ準備を整えている」
「つまり、内部抗争が始まるのも時間の問題と言うことか」
「そうさね。それに加えて、もう一つ厄介なことがあるんだよ、あそこは」
ここでローズベリーは、ふぅと溜息を吐いて腕を組んだ。
その仕草は勿体ぶっているというより、言葉にしたく無いと言った感じだ。
「……クーデターが起こるかもしれないねぇ」
「クーデター?」
思わず聞き返したグロッソに、ローズベリーは詳細を語る。
「ああ、ルゲン帝国は独裁政権だからね。特に侵略されて強制的に帝国民になった連中は今でも皇帝を憎んでいる。そんな中、一人の救世主が現れたってわけさ」
「……胡散臭いな」
「同感だね。私もそう思った。だが、確かなのはその救世主は【呪いを断ち切る槍】と【反呪勾玉】を持っている」
「【呪いを断ち切る槍】に、【反呪勾玉】か。槍についてはその名の如くだと思うが、反呪勾玉については初めて聞くな。ローズベリー、それはどんな……っ」
質問をしかけたグロッソだが、途中でしまったという顔をした。
なぜならローズベリーがしめしめと腹黒い笑みを浮かべていたから。
しつこいが、ここはギルド。知りたいのなら、どんな些細なことでも情報料が必要になる。
「……あと幾らだ」
低い声でグロッソが言う。その声はまるで魔獣の唸り声だ。
そして彼から醸し出すオーラがあまりに殺伐しすぎて、ファルファラは自分が何かしでかしたわけではないのに「……ひぃぃっ」と情けない声を出してしまった。
すぐさまラバンが「ですからお嬢、外に行きましょう」と言う。その声は若干、呆れていた。
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