6 / 7
6
しおりを挟む
今だから話せることだが、アネッサは、はなからライオットと結婚などしたくはなかった。
けれど、家同士の繋がりが重要といわれる貴族社会では、令嬢などただの駒。
どれだけ両親に嫌だと訴えても『仕方がない』『諦めろ』『これが貴族令嬢の務め』と3つの単語が返ってくるだけ。
無論、アネッサは貴族の家に生まれ、貴族としての教育を受けてきた。だから、その考えは骨の髄まで染み込んでいる。けれど、それはそれ。相手があまりに酷い相手なら、話は変わってくる。
ライオット=シネヴァは、その中でも最低の部類に属する男であった。
中の上レベルに位置する甘い容姿だけが唯一のとりえ。
その他は、なぜ生まれてきてしまったのか?と首を捻るほど、人間の悪い部分だけしか持ちあわせていない男であった。
下半身は猿以下。女性であれば、年齢問わず、また身分の上下も関係なく口説きまくる。
そして、火遊びがバレれは、見え透いた嘘を堂々と吐く。
挙句の果てには、あり得ない言い訳をこいて責任転嫁をする始末。
しかも家督を継いで早1年。シネヴァ家の財産は、維持するどこか右肩下がり。それは全て胡散臭い投資話にホイホイ乗っかるライオットのせいである。
ちなみに、手グセの悪いライオットだけれども、アネッサに対してだけは、健全に婚約者として接していた。肉体的な意味限定という前置きがつくけれど。
それは、なぜか。
理由はとても単純で、大変失礼なものだった。
アネッサのことを持参金としてしかみていなかったから。
アネッサの家は子爵家で、そこそこ繁栄している。そして一人娘であるアネッサが嫁ぐとなれば、持参金はかなりのものになる。
だから、ライオットはアネッサに対して、婚約者以上の触れ合いを避けたのだ。アネッサの父の心象を良くするために。
けれど、金づる扱いされたアネッサからしたら、それは大いにプライドを傷付けられること。
そんな男の元に誰が嫁ぎたいというのだろうか。
控えめに言って、誰もいないだろう。馬か鹿と結婚したほうが、まだマシである。
確かに、ライオットの父親である先代は堅実に生きてきた。その評価は貴族社会の中で高いもの。
余談であるが、アネッサの父であるモータリア卿がシネヴァ家との婚約を決めたのは、父親同士の友情からくるものであった。
そしてどれどけアネッサがライオットの素行の悪さを父親に訴えても、モータリア卿は男同士の友情を優先した。
そんなわけで、アネッサはキレた。ガチでブチ切れた。
父親が娘の悲痛な訴えよりも男の友情を選ぶなら、こっちは女同士の友情で不幸な未来を回避してやるっと決めたのだ。
アネッサには幸い、名門侯爵家の親友がいた。
それが、此度の婚約破棄の原因となったガーネットである。
ちなみに、一見たおやかな貴族令嬢にしか見えないガーネットだけれども、正義感が強く、血の気も多い。
そしてアネッサのことを本当の妹のように可愛がっているガーネットにとって、これは怒り心頭の案件であった。
……というわけで、二人はすぐさま円満に婚約を破棄するための緊急会議を開いた。そして、綿密な打ち合わせの末、今回のシナリオを作ったのだった。
ライオットは、アネッサを捨て置いて、単身、夜会に行き、人や限りのやんちゃを繰り返していることは周知の事実。
だからガーネットは侯爵家という身分を逆手にとって、わざとライオットが足を運びそうな夜会に出席し続けたのだ。
そしてあくまで偶然という体で、ガーネットはライオットと距離を縮めた。
脳にゴミカスしか詰まっていないライオットは、ガーネットから遠回しなアプローチを受け、瞬く間にのぼせあがり、あっという間にアネッサを捨てたのだ。
ただガーネットの名誉の為に言っておくが、彼女はライオットと手すら握っていない。口付けなんてもってのほか。
そんな肉体的接触がなくても、ガーネットはライオット程度の下等な生き物をオトす技くらいは身に付けている。
……それはどんなもの?などとは、聞かないで欲しい。単なる貴族の嗜みの一つである。
最後に、もう言う必要はないかもしれないけれど、アネッサがここに来たのは、いの一番にガーネットにこの作戦が成功したことを伝えるため。
あと、ライオットと会話をしている間アネッサが震えていたのは、悔しさではなく、嬉しさのあまり高笑いしてしまう衝動を抑えていた為であった。
けれど、家同士の繋がりが重要といわれる貴族社会では、令嬢などただの駒。
どれだけ両親に嫌だと訴えても『仕方がない』『諦めろ』『これが貴族令嬢の務め』と3つの単語が返ってくるだけ。
無論、アネッサは貴族の家に生まれ、貴族としての教育を受けてきた。だから、その考えは骨の髄まで染み込んでいる。けれど、それはそれ。相手があまりに酷い相手なら、話は変わってくる。
ライオット=シネヴァは、その中でも最低の部類に属する男であった。
中の上レベルに位置する甘い容姿だけが唯一のとりえ。
その他は、なぜ生まれてきてしまったのか?と首を捻るほど、人間の悪い部分だけしか持ちあわせていない男であった。
下半身は猿以下。女性であれば、年齢問わず、また身分の上下も関係なく口説きまくる。
そして、火遊びがバレれは、見え透いた嘘を堂々と吐く。
挙句の果てには、あり得ない言い訳をこいて責任転嫁をする始末。
しかも家督を継いで早1年。シネヴァ家の財産は、維持するどこか右肩下がり。それは全て胡散臭い投資話にホイホイ乗っかるライオットのせいである。
ちなみに、手グセの悪いライオットだけれども、アネッサに対してだけは、健全に婚約者として接していた。肉体的な意味限定という前置きがつくけれど。
それは、なぜか。
理由はとても単純で、大変失礼なものだった。
アネッサのことを持参金としてしかみていなかったから。
アネッサの家は子爵家で、そこそこ繁栄している。そして一人娘であるアネッサが嫁ぐとなれば、持参金はかなりのものになる。
だから、ライオットはアネッサに対して、婚約者以上の触れ合いを避けたのだ。アネッサの父の心象を良くするために。
けれど、金づる扱いされたアネッサからしたら、それは大いにプライドを傷付けられること。
そんな男の元に誰が嫁ぎたいというのだろうか。
控えめに言って、誰もいないだろう。馬か鹿と結婚したほうが、まだマシである。
確かに、ライオットの父親である先代は堅実に生きてきた。その評価は貴族社会の中で高いもの。
余談であるが、アネッサの父であるモータリア卿がシネヴァ家との婚約を決めたのは、父親同士の友情からくるものであった。
そしてどれどけアネッサがライオットの素行の悪さを父親に訴えても、モータリア卿は男同士の友情を優先した。
そんなわけで、アネッサはキレた。ガチでブチ切れた。
父親が娘の悲痛な訴えよりも男の友情を選ぶなら、こっちは女同士の友情で不幸な未来を回避してやるっと決めたのだ。
アネッサには幸い、名門侯爵家の親友がいた。
それが、此度の婚約破棄の原因となったガーネットである。
ちなみに、一見たおやかな貴族令嬢にしか見えないガーネットだけれども、正義感が強く、血の気も多い。
そしてアネッサのことを本当の妹のように可愛がっているガーネットにとって、これは怒り心頭の案件であった。
……というわけで、二人はすぐさま円満に婚約を破棄するための緊急会議を開いた。そして、綿密な打ち合わせの末、今回のシナリオを作ったのだった。
ライオットは、アネッサを捨て置いて、単身、夜会に行き、人や限りのやんちゃを繰り返していることは周知の事実。
だからガーネットは侯爵家という身分を逆手にとって、わざとライオットが足を運びそうな夜会に出席し続けたのだ。
そしてあくまで偶然という体で、ガーネットはライオットと距離を縮めた。
脳にゴミカスしか詰まっていないライオットは、ガーネットから遠回しなアプローチを受け、瞬く間にのぼせあがり、あっという間にアネッサを捨てたのだ。
ただガーネットの名誉の為に言っておくが、彼女はライオットと手すら握っていない。口付けなんてもってのほか。
そんな肉体的接触がなくても、ガーネットはライオット程度の下等な生き物をオトす技くらいは身に付けている。
……それはどんなもの?などとは、聞かないで欲しい。単なる貴族の嗜みの一つである。
最後に、もう言う必要はないかもしれないけれど、アネッサがここに来たのは、いの一番にガーネットにこの作戦が成功したことを伝えるため。
あと、ライオットと会話をしている間アネッサが震えていたのは、悔しさではなく、嬉しさのあまり高笑いしてしまう衝動を抑えていた為であった。
48
お気に入りに追加
1,525
あなたにおすすめの小説

【短編】義妹に婚約者を奪われた姉は「計画通り」とほくそ笑む
みねバイヤーン
恋愛
「フィオーナ。すまないが、私との婚約を解消してくれないだろうか」
デーヴィッド子爵令息は思い詰めた様子で切り出した。
「私はエラを愛してしまった。エラと結婚したい」
そう告げるデーヴィッドに、フィオーナは婚約解消の書類を差し出した。それに署名すれば、デーヴィッドは自由の身。晴れてフィオーナの義妹エラと結婚できる。署名をし、エラに思いを伝えに向かうデーヴィッドを見送り、フィオーナは「計画通り」とほくそ笑んだ。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」
みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」
ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。
「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」
王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

死に戻るなら一時間前に
みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」
階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。
「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」
ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。
ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。
「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」
一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる