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けれど、アネッサはそうしなかった。
ライオットを殺害したところで、何一つ利点がないと判断して諦めたのか。それとも、一寸の虫にも五分の魂という精神で、殺害を見送ったのか。
そのどちらでもなかったのかは、わからないけれど、とにかく実行に移すことはしなかった。
代わりに、別の質問をすることを選んだ。
「どなた………と、聞いても?」
婚約者の浮気相手の名前を問いただすアネッサは、なかなか勇気のある女性であった。
反対にドヤ顔を決めていたライオットは、ややたじろいだ。
「……き、君の良く知っている女性だ。それでも知りたいか?」
「はい」
「ガーネット=フォレット」
その名が出た途端、ずっと感情を殺していたアネッサだけれども、ここで表情が動いた。
薄茶色の瞳は信じられないといった感じで、忙しなく揺れ動き、細い肩は震え、艷やかな亜麻色の髪を小刻みに揺らしている。
サクラ色の唇もわなないて、あまりの衝撃に言葉を紡げないでいる。
ガーネット=フォレット
貴族社会において、その名を知らないものはモグリと言われても致し方無いほど、彼女は有名人であった。
御年18のガーネットは、名門侯爵家の令嬢であり、しかも容姿端麗。
眩いばかりの金色の髪に、アメジスト色の瞳。唇はサンゴのように艶めいており、まるで大輪の花のようであった。
ちなみにガーネットは、貴族男性からの求婚が後を絶たず、それを全て断り続けている。
その理由は、実は妃候補であるとか。既に異国の国王に見初められている。などという噂が、まことしやかに囁かれている、今、貴族社会で最も注目を集めている令嬢である。
そして、アネッサの親友でもあった。
二人の出会いは、アネッサが7歳の時。母親に連れられて、ちょっとした貴族のお茶会に参加したときに知り合ったのだ。
それから10年。二人は姉妹のように仲が良く、互いの親よりも信頼を置いている。
そんな姉のような存在であるガーネットが、ライオットと……。
アネッサの肩が更に震える。両手は膝の上に置いているけれど、きゅっとスカートを握りしめ、必死に何かに耐えているようだった。
もちろんアネッサとて、人並み以上の容姿ではある。
オフホワイトや桃色などの淡い色のドレスが似合う甘く可憐な雰囲気を持っている。
ただ、原色のドレスが似合うガーネットと比べれば、どうしたって霞んで見えてしまうのも事実であった。
一方その頃、ライオットといえば、やれやれといったご様子だった。
少し長い茶褐色の前髪をかき上げるその態度は『言わんこっちゃない』といわんばかりのそれ。
今、この男が生きているのは、このノールバリスク国の七不思議に加えるべきである。
ライオットを殺害したところで、何一つ利点がないと判断して諦めたのか。それとも、一寸の虫にも五分の魂という精神で、殺害を見送ったのか。
そのどちらでもなかったのかは、わからないけれど、とにかく実行に移すことはしなかった。
代わりに、別の質問をすることを選んだ。
「どなた………と、聞いても?」
婚約者の浮気相手の名前を問いただすアネッサは、なかなか勇気のある女性であった。
反対にドヤ顔を決めていたライオットは、ややたじろいだ。
「……き、君の良く知っている女性だ。それでも知りたいか?」
「はい」
「ガーネット=フォレット」
その名が出た途端、ずっと感情を殺していたアネッサだけれども、ここで表情が動いた。
薄茶色の瞳は信じられないといった感じで、忙しなく揺れ動き、細い肩は震え、艷やかな亜麻色の髪を小刻みに揺らしている。
サクラ色の唇もわなないて、あまりの衝撃に言葉を紡げないでいる。
ガーネット=フォレット
貴族社会において、その名を知らないものはモグリと言われても致し方無いほど、彼女は有名人であった。
御年18のガーネットは、名門侯爵家の令嬢であり、しかも容姿端麗。
眩いばかりの金色の髪に、アメジスト色の瞳。唇はサンゴのように艶めいており、まるで大輪の花のようであった。
ちなみにガーネットは、貴族男性からの求婚が後を絶たず、それを全て断り続けている。
その理由は、実は妃候補であるとか。既に異国の国王に見初められている。などという噂が、まことしやかに囁かれている、今、貴族社会で最も注目を集めている令嬢である。
そして、アネッサの親友でもあった。
二人の出会いは、アネッサが7歳の時。母親に連れられて、ちょっとした貴族のお茶会に参加したときに知り合ったのだ。
それから10年。二人は姉妹のように仲が良く、互いの親よりも信頼を置いている。
そんな姉のような存在であるガーネットが、ライオットと……。
アネッサの肩が更に震える。両手は膝の上に置いているけれど、きゅっとスカートを握りしめ、必死に何かに耐えているようだった。
もちろんアネッサとて、人並み以上の容姿ではある。
オフホワイトや桃色などの淡い色のドレスが似合う甘く可憐な雰囲気を持っている。
ただ、原色のドレスが似合うガーネットと比べれば、どうしたって霞んで見えてしまうのも事実であった。
一方その頃、ライオットといえば、やれやれといったご様子だった。
少し長い茶褐色の前髪をかき上げるその態度は『言わんこっちゃない』といわんばかりのそれ。
今、この男が生きているのは、このノールバリスク国の七不思議に加えるべきである。
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