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空は昨晩の雨が嘘のように、青色に澄み渡っている。
季節は、秋。
窓から木漏れ日の優しい光が、応接セットしかない狭い部屋に差し込んでいる。そして、ガラス越しに秋風が木の葉をさわさわ揺さぶっているのが見える。
そんな実りの季節に、アネッサは侍女のエリサと共に、婚約者であるライオット=シネヴァの屋敷に呼び出されていた。2ヶ月ぶりに。
シネヴァ邸には応接間がいくつかある。
ちなみにアネッサが通されたこの部屋は、玄関ホールのすぐ隣にある、格下を相手にする部屋だったりもする。茶の一つも出される気配は無い。
大事なことなので、2度言うけれど、アネッサはこの屋敷の主であるライオットの婚約者であるにもかかわらず、この狭っ苦しい応接間に通されたわけだ。
しつこいけれど、2ヶ月ぶりに婚約者を呼び出したというのに、だ。
どれを取っても、随分な仕打ちである。
けれどもこれは、軽いジャブに過ぎなかった。
そして、本題はここからで──。
乱暴なノックの音と共に、ライオット=シネヴァは、入室した。
その服装はジャケットも着ていなければ、タイすらしていない。部屋着と呼ぶにもどうよ?と言いたくなる恰好であった。
まかり間違っても、婚約者と会う恰好ではない。
そんな彼は2ヶ月も連絡不通だったことを詫びることもなく、あろうことか、こんなことをアネッサに向かって言い捨てた。
「アネッサ、君との婚約を破棄する」
途端に、部屋が冷気に包まれる。
まだ秋といっても木枯らしが吹くには早くて、少し動けば汗ばむ季節。だというのに、窓が凍り付かないのが不思議な程の冷気である。
そんな中、アネッサは長椅子に腰掛けたまま、微動だにしない。17歳という年齢に似つかわしくない程、凛と背筋を伸ばしている。
ただ気丈に振る舞おうとすればするほど、久しぶりに婚約者と過ごす時間の為に、ハーフアップにした流行りの髪型と、上品なブラウンピンクのドレスが痛々しく見えてしまう。
そして瞬きを忘れ、食い入るように婚約者を見つめるアネッサは、頭の中ではこんなことを思っていた。
破棄させて下さい。ではなく、破棄する───随分と一方的で、横柄な態度だけれど、お前何様?と。
そして、しばらくの間のあと、アネッサは口を開く。抑揚の無い声音で。
「理由を聞いても良いでしょうか?」
これはアネッサにとって、当然の権利。
なのだが、ライオットは心底面倒臭そうに鼻をならした。
「君より魅力的な女性が現れた。そして、その女性も私に気があるようだ。だから、俺はその女性を伴侶にすることにする。それだけだ。悪いがこの俺の隣に、君はふさわしくない」
ライオットは今、心臓を一突きで刺されて、20年という短い生涯に幕を降ろしても仕方がないことを口にしたのであった。
季節は、秋。
窓から木漏れ日の優しい光が、応接セットしかない狭い部屋に差し込んでいる。そして、ガラス越しに秋風が木の葉をさわさわ揺さぶっているのが見える。
そんな実りの季節に、アネッサは侍女のエリサと共に、婚約者であるライオット=シネヴァの屋敷に呼び出されていた。2ヶ月ぶりに。
シネヴァ邸には応接間がいくつかある。
ちなみにアネッサが通されたこの部屋は、玄関ホールのすぐ隣にある、格下を相手にする部屋だったりもする。茶の一つも出される気配は無い。
大事なことなので、2度言うけれど、アネッサはこの屋敷の主であるライオットの婚約者であるにもかかわらず、この狭っ苦しい応接間に通されたわけだ。
しつこいけれど、2ヶ月ぶりに婚約者を呼び出したというのに、だ。
どれを取っても、随分な仕打ちである。
けれどもこれは、軽いジャブに過ぎなかった。
そして、本題はここからで──。
乱暴なノックの音と共に、ライオット=シネヴァは、入室した。
その服装はジャケットも着ていなければ、タイすらしていない。部屋着と呼ぶにもどうよ?と言いたくなる恰好であった。
まかり間違っても、婚約者と会う恰好ではない。
そんな彼は2ヶ月も連絡不通だったことを詫びることもなく、あろうことか、こんなことをアネッサに向かって言い捨てた。
「アネッサ、君との婚約を破棄する」
途端に、部屋が冷気に包まれる。
まだ秋といっても木枯らしが吹くには早くて、少し動けば汗ばむ季節。だというのに、窓が凍り付かないのが不思議な程の冷気である。
そんな中、アネッサは長椅子に腰掛けたまま、微動だにしない。17歳という年齢に似つかわしくない程、凛と背筋を伸ばしている。
ただ気丈に振る舞おうとすればするほど、久しぶりに婚約者と過ごす時間の為に、ハーフアップにした流行りの髪型と、上品なブラウンピンクのドレスが痛々しく見えてしまう。
そして瞬きを忘れ、食い入るように婚約者を見つめるアネッサは、頭の中ではこんなことを思っていた。
破棄させて下さい。ではなく、破棄する───随分と一方的で、横柄な態度だけれど、お前何様?と。
そして、しばらくの間のあと、アネッサは口を開く。抑揚の無い声音で。
「理由を聞いても良いでしょうか?」
これはアネッサにとって、当然の権利。
なのだが、ライオットは心底面倒臭そうに鼻をならした。
「君より魅力的な女性が現れた。そして、その女性も私に気があるようだ。だから、俺はその女性を伴侶にすることにする。それだけだ。悪いがこの俺の隣に、君はふさわしくない」
ライオットは今、心臓を一突きで刺されて、20年という短い生涯に幕を降ろしても仕方がないことを口にしたのであった。
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