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セルードの企み

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 アンジェラの言葉を借りるなら、セルードは見映えが悪かった。

 だらしなく伸びた灰色の髪。ひょろりとした身長。分厚いレンズの丸眼鏡はダサイの権化。加えて服装は、清潔感こそあるが、恐ろしいまでに趣味が悪い。

 ……というのをセルードだって自覚している。

 だが好き好んで、こんな格好をしているわけではない。

 人並の美的感覚を持っているセルードは、こんな奇天烈な格好をすることにずっと苦痛を覚えていた。

 でもセルードは、社交界で知られてはならない。家門を守る為に自ら出来の悪い長男を演じなければならない理由があった。

 とはいえ婚約者となったアンジェラには、そのことを伝えるべきだろうと判断していた。

 協力までは求めない。でもこの姿は一時だけのこと。近い将来、連れて歩くのに支障が無い姿に戻るのでそれまでどうか待っていてほしいと願い出るつもりだった。

 だがしかし、初対面でアンジェラは、自分の姿を見るなりこう言い放った。

「ダッヒ家は、鏡がないんですの?」

 出会い頭に随分な挨拶を受けたセルードは、唖然とした。

 それをどう受け止めたかわからないが、アンジェラは扇で口元を隠しつつこんな言葉を重ねた。

「……それとも家督を継げない貴方には、鏡すら支給されないのかしら………お可哀そうに」

 憐憫の目を向けるアンジェラに、セルードの頬は引きつった。

 ーーへぇ。言ってくれるじゃないか。

 婚約者に向けてこんな無礼な態度を取ってくれるということは、はなからアンジェラは自分のことを見下している証拠だった。

 セルードはカチンときた。

 せめて直球で「どうしてこんなダサい恰好をしているんですか?」と聞かれた方がまだマシだった。

 もしくは「わたくしの隣に立ちたいなら、もう少し身なりを人並みにしてくださいませ!」と怒鳴られても良かった。  


 ……とはいえ、自分でもダサい恰好をしていると自覚があるセルードは、怒りをぐっと抑えて口を開く。
 
「同情していただけて嬉しいです、婚約者殿。ではこの哀れな男に、弁明の余地を与えていただけないでしょうか?」

 半ば嫌味返しでそう問いかければ、あろうことかアンジェラは「は?」とすっとぼけた態度を取る。

 そして意地の悪い笑みを浮かべて、テラテラと輝く唇を動かした。

「……あら?今、何か仰いました?ふふっ……わたくし、長男のくせに家督を継げなかった男の声は生まれながらに聞こえませんの。ごめんあそばせ」

 一欠けらも悪いと思っていない口ぶりに、さすがのセルードも完全にキレた。
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