「何でも欲しがる妹に、嫌いな婚約者を押し付けてやりましたわ。ざまぁみなさい」という姉の会話を耳にした婚約者と妹の選択

当麻月菜

文字の大きさ
1 / 17
姉アンジェラの仕返し

1

しおりを挟む
 名門貴族の嫡女として生まれたアンジェラには、3つ違いの妹リリーナがいる。

 リリーナは、かつて社交界の華だった母親譲りの波打つ金色の髪に空色の瞳。その姿は天使のように愛らしいが、中身は悪魔だった。

「お姉さまのコレ、とっても素敵ね」

 その一言で、リリーナは自分の物を片っ端から奪って行った。

 小さな宝石が付いた髪留め。
 絹の刺繍が美しいリボン。
 異国の人形。
 特注で仕立ててもらったドレス。

 どれもこれも、アンジェラが大切にしていたものだった。

 ーー ねえ、どうしてそんなに私の物が欲しいの?お父様やお母様に言って新しい物を買ってもらいなさい。

 たまりかねてリリーナにそう言ったこともあった。

 けれどもリリーナは悲し気に俯きこう言い返す。

「だって……私、上手に選べないから」

 しゅんと肩を落として、涙を浮かべてそう言われるとアンジェラは自分がとても意地悪をしているような気持ちになってしまう。

 意地悪をされているのは、自分だというのに。 

 アンジェラことアンジェラ・ネリムは、名門貴族の長女として生まれ何不自由なく育った。……リリーナが生まれるまでは。

 物心付いた時からアンジェラには、リリーナという厄介な妹がいた。

 愛らしい容姿の妹は、無条件に両親に愛された。たとえ勉強ができなくても、ピアノが上手に弾けなくても。

 貴族令嬢として最低限身につけなければならない行儀作法だって、「リリーナは可愛いからそれでいい」と両親は失敗すら長所として受け止めた。

 ……でも、自分に対しては違った。

 アンジェラはリリーナのように輝く金髪ではない。

 父親譲りのくすんだ金茶色の髪に濁った緑色の瞳。目鼻立ちは母親譲りであり美人の部類に入るかもしれないが、それでも妹と並べばどうしたって劣っていることを認めなければならない。

 だからこそ、見た目で愛されないのなら、それ以外のところで愛されるために努力した。

 沢山の書物を読んで、語学も身に着けて。でも女性らしくピアノや刺繍の腕も磨いて。

 人前で両親が恥をかかぬよう、礼儀作法も完璧にして話術だって控え目でありながら知的と言われるよう努力した。

 その結果、アンジェラは社交界では、かつての母と同じような地位を得た。

 そうして長女の義務として19歳の誕生日を迎えてすぐ、婿に相応しい4つ年上の男と婚約した。

 けれどもリリーナは、婚約者したばかりの彼ーーセルード・ダッヒを見た瞬間こう言った。

「お姉さまの婚約者、とっても素敵な方ね」

 リボンや人形と同じように、とうとうアンジェラの婚約者も欲しがったのだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。  しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

王女は追放されません。されるのは裏切り者の方です

といとい
恋愛
民を思い、真摯に生きる第一王女エリシア。しかしその誠実さは、貴族たちの反感と嫉妬を買い、婚約者レオンと庶民令嬢ローザの陰謀によって“冷酷な王女”の濡れ衣を着せられてしまう。 公開尋問の場に引きずり出され、すべてを失う寸前──王女は静かに微笑んだ。「では今から、真実をお見せしましょう」 逆転の証拠と共に、叩きつけられる“逆婚約破棄”! 誇り高き王女が、偽りの忠誠を裁き、玉座への道を切り開く痛快ざまぁ劇!

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

処理中です...