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みんな、あの人の前では恋する乙女
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突然の訪問者に温室の空気は一変した。
オフェールアの取り巻き達はカイロスに気圧されて、そそくさと温室を後にする。
そんな中、アンナはオフェールアの誘いが急だったため、カイロスに伝言を残すことをすっかり忘れていたことを思い出す。次いで良くここがわかったものだと驚き感心したりもする。
対してオフェールアは、意中の男であるワイトとの邂逅に心の準備ができていなかったのだろう。急にモジモジとし始めた。
けれどカイロスは挙動不審なオフェールアを無視してアンナに近付くと、くいっと眉を上げた。
「で、アンナ。逢引はまだ続きそうか?」
「そうですね。あと少し」
「なら、俺も同席させてもらおう」
言うが早いかカイロスは、空いている席にどっかりと腰を下ろす。
「あ……ワイトさんも、座ってください」
アンナ達がいるテーブルには椅子が4つある。しかもオフェールア側が空いている。
彼女の恋心を知ってしまった以上、アンナだって取り巻き達と気持ちは同じ。協力は惜しまない。
幸いワイトは怪しむことなくあっさりとオフェールアの隣に着席してくれた。
「ところで珍しい組み合わせだな」
ワイトが着席したのを機に、カイロスはごく自然に口を開く。しかしご機嫌は斜めのままで、むっつりとしたままだ。
「あら、そうですか?同じ学年ですし、お茶くらいは飲みますよ」
アンナとて、せっかく好きな人が自分の隣に座ってくれたのだ。ここで険悪な空気になってしまったら元も子もない。
だから自分の発言に訝しそうに眉間に皺を寄せるカイロスに、にこやかに接する。
「たまたま廊下を歩いていたら、オフェールアさんが温室に咲いている薔薇の話をされてて、つい興味を持って立ち止まったらお誘いしてくれたんです」
「ほう」
「……でも、とても急だったのでカイロスさんにお伝えするのを忘れてごめんなさい」
「いや。でも心配はしたぞ」
アンナの言い訳に、グリジットは一先ず納得してくれたようで眉間の皺は消えてくれた。
ただほっとしたのも束の間、今度は拗ねた顔になる。
「薔薇が見たいなら、俺に言えば良かったんじゃないのか?」
ごもっともな問いかけに、アンナはあたふたする。
「そ……そうでしたね。……ご、ごめんなさい」
もごもごと謝れば、グリジットはオフェールアに視線を移す。
「そういうことだ。オフェールア嬢、悪いがアンナと二人っきりにしてくれるか?門限まで残り少ない時間を恋人と楽しみたい」
お願いというより威圧的な命令に普段なら、オロオロとするところだが、今日は彼のそれを活用させてもらうことにする。
「カイロスさん、でも日が暮れてきたのにオフェールアさんを一人で帰らすんですか?女子寮までの帰り道は、私が不良の先輩に絡まれたところを通るのに……」
彼の上着の袖を摘まんで、不満げにそう言えば、「ワイト、オフェールア嬢を送ってこい」と、カイロスは狙い通りの言葉を紡いでくれた。
オフェールアの取り巻き達はカイロスに気圧されて、そそくさと温室を後にする。
そんな中、アンナはオフェールアの誘いが急だったため、カイロスに伝言を残すことをすっかり忘れていたことを思い出す。次いで良くここがわかったものだと驚き感心したりもする。
対してオフェールアは、意中の男であるワイトとの邂逅に心の準備ができていなかったのだろう。急にモジモジとし始めた。
けれどカイロスは挙動不審なオフェールアを無視してアンナに近付くと、くいっと眉を上げた。
「で、アンナ。逢引はまだ続きそうか?」
「そうですね。あと少し」
「なら、俺も同席させてもらおう」
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「あ……ワイトさんも、座ってください」
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彼女の恋心を知ってしまった以上、アンナだって取り巻き達と気持ちは同じ。協力は惜しまない。
幸いワイトは怪しむことなくあっさりとオフェールアの隣に着席してくれた。
「ところで珍しい組み合わせだな」
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「あら、そうですか?同じ学年ですし、お茶くらいは飲みますよ」
アンナとて、せっかく好きな人が自分の隣に座ってくれたのだ。ここで険悪な空気になってしまったら元も子もない。
だから自分の発言に訝しそうに眉間に皺を寄せるカイロスに、にこやかに接する。
「たまたま廊下を歩いていたら、オフェールアさんが温室に咲いている薔薇の話をされてて、つい興味を持って立ち止まったらお誘いしてくれたんです」
「ほう」
「……でも、とても急だったのでカイロスさんにお伝えするのを忘れてごめんなさい」
「いや。でも心配はしたぞ」
アンナの言い訳に、グリジットは一先ず納得してくれたようで眉間の皺は消えてくれた。
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