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”待て”を強いられる王子と、換気をお願いする従者
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距離を保ちながら見守るカイロスの目には、アンナは大きなトラブルに巻き込まれることも無く、穏やかな学園生活を過ごし始めたように見えた。
友達は多くないが少ないながらも大切にされ、成績も優秀とはいえないが、それでも補修を受けるような落ちこぼれではなかった。
ただ一つ懸念があるとすれば、アンナに想いを寄せる男子生徒が意外に多いということ。
向日葵色の髪にコバルトブルーの瞳。小柄でしなやかな身体つきの容姿は、お世辞を抜きにして可愛らしい。
加えて気取らない性格に、困った人を見過ごせない親切心まで持ち合わせていたら、誰だって彼女のことを好きになるだろう。
カイロスは気か気じゃなかった。とうに婚約の話など白紙になってしまったけれど、それでも他人事だと割り切ることができなかった。
要は、アンナのことをいつの間にか好きになっていた。
学園内には自分の婚約者候補が何人かいるのは当然知っている。学び舎の中では、誰もが平等だ。だからこそここで親交を深めようと、婚約者候補達はカイロスに積極的な態度を取る。
そのどれもが鬱陶しかった。
大人げないとわかりつつ、アンナに近付こうとする男子生徒をカイロスは徹底的に排除した。
いつだってカイロスは、アンナのことしか眼中に無かった。彼女の視界に入る勇気は無いけれど、入ってはいけないと己を戒めていたけれど……
そんな鬱々とする気持ちを抱えた中、学園生活も残り一年を切った始業式前のあの日、彼女の身に危機がせまり、咄嗟に彼女の前に姿を現してしまった。
不良生徒に絡まれたアンナは痛々しいほど震えていて、思わず触れてしまった身体は折れてしまいそうなほど細く柔らかかった。
もう、無理だ。我慢なんてできない。
カイロスはアンナに触れて、自分がどれだけ彼女を求めていたのか気付いた。
堰を切ったように溢れ出す感情はとても暴力的で抑え切るのは難しかった。だから、カイロスはアンナに取引を持ち掛けた。
助けてあげたお礼に卒業まで、仮初の恋人になるようにと。
本当はあのまま「好きだ」と伝えたかった。
でも、それを言ったところで返事は目に見えている。自ら聞きたくない言葉で胸を抉るような愚かな真似はしたくなかった。
伝えたい言葉を全部飲み込んで極悪人を装えば、アンナは半泣きの状態で頷いた。
結果としてカイロスは、卒業までという期間限定ではあるし、仮初の恋人でもあるがアンナを手に入れた。
これから堂々と彼女を守れる権利を得たことに喜ぶ反面、胸が痛んだ。何が悲しくて惚れた女を脅さないといけないのかと、呆れる自分がいた。
それでも今一番、アンナにとって近い存在は自分なのだ。それだけで良いとカイロスは思っている。……否、言い聞かせている。自分に。
「ーーあ、殿下。ここにいましたか」
だらだらと校舎に向かっていたカイロスは、後ろから声を掛けられ振り向いた。
そこには見知った顔の男子生徒が二人、こちらに駆け足で向かって来る。
カイロスは辺りを確認して、木の陰に身体を隠した。
「ったく、サボるならもっと早く言ってくださいよっ。殿下の身代わりを作るのは簡単じゃないんですよ!」
駆け寄ってきた茶褐色の短髪男子生徒ーーワイト・シエルドは、灰色の目を怒りに染めて叫んだ。ただし小声で。
なぜならワイトは、幻影魔法で作ったカイロスを引き連れていたから。
友達は多くないが少ないながらも大切にされ、成績も優秀とはいえないが、それでも補修を受けるような落ちこぼれではなかった。
ただ一つ懸念があるとすれば、アンナに想いを寄せる男子生徒が意外に多いということ。
向日葵色の髪にコバルトブルーの瞳。小柄でしなやかな身体つきの容姿は、お世辞を抜きにして可愛らしい。
加えて気取らない性格に、困った人を見過ごせない親切心まで持ち合わせていたら、誰だって彼女のことを好きになるだろう。
カイロスは気か気じゃなかった。とうに婚約の話など白紙になってしまったけれど、それでも他人事だと割り切ることができなかった。
要は、アンナのことをいつの間にか好きになっていた。
学園内には自分の婚約者候補が何人かいるのは当然知っている。学び舎の中では、誰もが平等だ。だからこそここで親交を深めようと、婚約者候補達はカイロスに積極的な態度を取る。
そのどれもが鬱陶しかった。
大人げないとわかりつつ、アンナに近付こうとする男子生徒をカイロスは徹底的に排除した。
いつだってカイロスは、アンナのことしか眼中に無かった。彼女の視界に入る勇気は無いけれど、入ってはいけないと己を戒めていたけれど……
そんな鬱々とする気持ちを抱えた中、学園生活も残り一年を切った始業式前のあの日、彼女の身に危機がせまり、咄嗟に彼女の前に姿を現してしまった。
不良生徒に絡まれたアンナは痛々しいほど震えていて、思わず触れてしまった身体は折れてしまいそうなほど細く柔らかかった。
もう、無理だ。我慢なんてできない。
カイロスはアンナに触れて、自分がどれだけ彼女を求めていたのか気付いた。
堰を切ったように溢れ出す感情はとても暴力的で抑え切るのは難しかった。だから、カイロスはアンナに取引を持ち掛けた。
助けてあげたお礼に卒業まで、仮初の恋人になるようにと。
本当はあのまま「好きだ」と伝えたかった。
でも、それを言ったところで返事は目に見えている。自ら聞きたくない言葉で胸を抉るような愚かな真似はしたくなかった。
伝えたい言葉を全部飲み込んで極悪人を装えば、アンナは半泣きの状態で頷いた。
結果としてカイロスは、卒業までという期間限定ではあるし、仮初の恋人でもあるがアンナを手に入れた。
これから堂々と彼女を守れる権利を得たことに喜ぶ反面、胸が痛んだ。何が悲しくて惚れた女を脅さないといけないのかと、呆れる自分がいた。
それでも今一番、アンナにとって近い存在は自分なのだ。それだけで良いとカイロスは思っている。……否、言い聞かせている。自分に。
「ーーあ、殿下。ここにいましたか」
だらだらと校舎に向かっていたカイロスは、後ろから声を掛けられ振り向いた。
そこには見知った顔の男子生徒が二人、こちらに駆け足で向かって来る。
カイロスは辺りを確認して、木の陰に身体を隠した。
「ったく、サボるならもっと早く言ってくださいよっ。殿下の身代わりを作るのは簡単じゃないんですよ!」
駆け寄ってきた茶褐色の短髪男子生徒ーーワイト・シエルドは、灰色の目を怒りに染めて叫んだ。ただし小声で。
なぜならワイトは、幻影魔法で作ったカイロスを引き連れていたから。
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