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仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ

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 こつんと額が触れたと同時に冷たい空気が全身を包む。アンナが口付け未遂についてアレコレう暇もなかった。

「ん?え?……これ」
「動くな」

 カイロスに両肩を掴まれ動きを封じられたアンナは、今度はぎょっとした。

 瞬きする間に、なんかほわほわとした金色の粒子が浮かんでいるのだ。しかも浮かぶ場所は、自分限定のようで。

「え?……ひ、ひかっ……光って」
「すぐ終わるから、頼むから黙っててくれ」

 更に肩を掴む手に力を入れるカイロスの声は、舌打ちが飛んできてもおかしくないほど不機嫌で。

 けれど浮かべている表情は違う。ひどく神妙で、それでいて試験問題を解いているような真剣な顔つきだった。

 口を挟める空気ではない。あと、息が触れ合うほど顔を近付けているから、万が一のことを考えると石化するのが安全だ。

 そのためアンナは、じっとした状態でこの状況を推測してみる。

 奇妙な光。カイロスが醸し出す緊張感。これらを総合した結果、彼は現在進行形で自分に魔法を使っているのだ。

 ……ただ、何の魔法なのだろうか?

 ランラード学園は授業以外での魔法は使用を禁じられているし、まして人に向けてそれをしたらな相当の懲罰を受けることになる。

 先ほど保健医と遣り合っていたのは、予めカイロスが自分に向けて魔法を使うことを宣言していたのだろう。

 ということも遅れて気付くが、一体何の魔法なのだろうかてんでわからない。

 痛くなはいし、かゆくもない。

 ドキドキはしているけれど、それま魔法云々の問題じゃない。

 などとアンナが無言で思考を巡らせていれば、カイロスがふぅっと息を吐き身体を元の姿勢に戻した。

「よし、熱は下がったな」
「ん……え?へ?ね、熱……ですか??」
「ああ。解熱だけしといた」
「解熱を……あ、はい。解熱を、はい」

 カイロスの言葉をオウム返しに繰り返すことしかできないアンナであったが、少し遅れてようやっと意味を理解する。

 ついさっきまで身体を蝕んでいた発熱の症状がきれいさっぱり消えていたのだ。

「……すごい。カイロスさん、ありがとうございます」

 自分の額に手を当ていつも通りの肌の温度を感じたアンナは、ぽつりと呟きカイロスに頭を下げた。

 あのしんどい状況をあっという間に救ってくれた彼には、感謝しても足りないくらいだが、解せない点がある。

 魔法とは何かを代価にして、人の手では成しえないことをする術。簡単に言うと、そこに無いモノを生み出す術のこと。

 もっと言うと、空を飛んだり炎や氷の塊を作ることが可能だが、傷を治療したり病を癒すことはできない。

 なぜならもともと魔法は遥か昔に絶滅した精霊のもので、今、人間達が魔法を使えるのは、自然界に残った精霊達の魂の欠片を利用しているからこそ。

 ただ精霊が生きていた時代には、人はいなかった。つまり人という概念を持たない精霊達には、人を癒す魔法を残すことはできなかったのだ。

 けれどアンナはカイロスの魔法で癒された。ということはーー

「カイロスさんって、神聖魔法まで使えるんですか?」

 長々と考えた結果、一つの結論に落ち着いたアンナは恐る恐るカイロスに尋ねる。

「そうだ。俺の母親が神殿に仕える巫女だったからな。ただ、これは他言無用だ。バレたら、お前消されるぞ」
「ひぃ」

 神聖魔法とは、絶滅した精霊の魂の欠片の恩恵を受けて使う魔法とは異なり、神の祝福を受けた聖職者が生み出した癒しに特化した比較的新しい魔法のこと。ちなみに神聖魔法は、才能云々の前に血筋で受け継がれる。

 カイロスの母親は小国の姫君だと世間には公表されている。ついでに言うとその姫は巫女の血筋ではない。

 とどのつまり、アンナは自分では何一つ望んでいなかったというのに、命に関わる王族の秘密を知ってしまったということで。

 ………結果アンナは、情けない声を上げてしまった。
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