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仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ

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 ぎゅっと目をつぶってアンナが寝たふりをしたと同時に、カイロスが何の断りも無く衝立の向こうからやって来た。

「……起こすのは可哀相だな」

 いえ、もう起きてます。

 そんなことをカイロスに言えるわけもなく、アンナはただひたすら目を閉じてじっとする。どうかこのドキドキに気付かないでと祈りながら。

 その祈りが届いたのかどうかわからないが、ふうっと溜息と共に大きな手が額に置かれた。

「やっぱりこのままじゃ、死ぬな。間違いなく」

 とんでもなく不穏な発言をしてくれたカイロスだけれど、その口調はとても苦しそうだった。

 こっそりと薄目を開けて見れば、悲痛な表情でこちらを見下ろす彼が視界に入り、アンナは思わず目を開けた。

「……なんだ起きてたのか?」
「いえ。今……なんか視線を感じて」
「ああ、見てたからな」

 生真面目に言い返したカイロスは、傍にあるチェストに用意されていた水をグラスに注いでアンナに手渡した。

「とりあえず、飲め」
「あ、はい」

 寝たままの体勢でコップを受け取ったと同時に、カイロスはアンナの背に腕を回して起き上がる手助けをする。

 それからアンナの背後に周り、後ろから支えるような姿勢を取る。控え目に言って死ぬほど恥ずかしい。

 けれど僅かに身動ぎしただけで「口移しをご所望か?」と問われ、アンナは答える代わりに一気にグラスの水を飲み干した。すぐに背後からコップを奪われる。

「とことんお前は俺と触れ合う気が無いんだな」

 拗ねた口調でそう言うカイロスの顔を見なくて済んだことに、アンナはほっとする。

 熱で自制心が緩んでいる今、ちょっとでも期待を持たせるような言動をされると自分でも何をしでかすかわからない。

 だから目を閉じる。また寝たのだと思ってもらうために。

 しかし、そうは問屋が卸さなかった。

「寝る前にちょっとやることがあるから。こっち向け」

 言うが早いかカイロスはアンナの脇に手を入れると、ひょいと持ち上げて己の膝の上に座らせる。

「な、な……なにを」
「手当するって言っただろ?すぐ終わるから黙ってろ」
「……」

 言われた通りに口を閉じるアンナであったが、何をされるのかわからず大変怖い。だから防御本能で、きゅっと身を縮こませてしまうのは仕方がない。

 対してそれを見たカイロスは、くいっと器用に眉を片方だけ上げる。

「お前、もしかして注射系は苦手か?」
「つまり痛いことをするんですか?」

 質問を質問で返してみれば、カイロスは鼻で笑う。

「痛くは無い。だが、お前があからさまに怯えるからちょっとからかってみた。存外面白い。癖になりそうだ」

 なんともまあ、底意地が悪い王子である。

 でもアンナは何も言わない。いや、言えないのだ。カイロスの顔が間近に迫ってきて。

「……っ……ん……んん?」

 キスをされると思った。いや、そうに違いないと思い込んでいた。

 でも、触れ合ったのは唇ではなく額だった。 
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