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仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ
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叩きつける雨の中、二人そろって転がるように旧図書館に入る。
カーテンを閉め切っているせいで室内は暗く、湿気のせいで独特の紙の匂いがいつもより強い。
なにより秋の始まりでも、雨が降ると一気に肌寒くなる。濡れてしまったから尚更に。
アンナは頭から被っていたカイロスの上着を両手に持つと、軽く振って水気を取る。自分はさほど濡れていないが、こっちはびちゃびちゃだ。
流石に絞って水気を取るなんていう豪快なことはできないから、ポケットからハンカチを取り出して、そっと彼の上着に押し当ててみる。
あっという間にハンカチもびちゃびちゃになるが、上着には何の変化もない。
「流石に寒いな」
濡れた上着をどう乾かそうか頭を悩ましていたら、少し離れた場所にいるカイロスがぼそっと呟いた。
「そうですね……くちっ」
小さくくしゃみをした途端、カイロスがちょっと待ってろと慌てた様子で暖炉に足を向ける。
深く考えずにカイロスを追って見ていれば、彼は濡れた前髪を鬱陶し気に払いながら、長い間使われることがなかった暖炉に火を入れていた。魔法で。
ランラード学園の魔法科は、授業以外で魔法を使うのを禁じられている。見つかれば間違いなく生徒指導室に呼び出しだ。
当然カイロスはそれを知っているだろう。
でも彼は成績優秀だけれども、優等生でも模範生でも無いのはとっくに調査済みなので、アンナは見て見ぬふりをする。
「アンナ、こっちに来い」
「あ、はい」
目に付いた椅子をズルズルと引っ張って暖炉の前に置く。
それから椅子の背にカイロスの上着をかけて、アンナは満足げに頷いた。でもカイロスは怪訝そうにしている。
「何やってるんだ?」
「上着を乾かそうと」
「はぁ?お前、馬鹿なのか?」
「……っ」
学年首位の人間から馬鹿と言われたら返す言葉なんて見つからない。
でも仮初とはいえ恋人に向けて馬鹿はないだろう。
そんな気持ちでアンナはついムッとしてしまえば、カイロスは溜息を付きながら上着を椅子の背からひったくった。次いで濡れ具合を確かめると指をパチンと鳴らす。
すぐにカイロスの辺りだけ柔らかい風が吹き、上着がふわりと靡く。カイロスが魔法によって乾かしてくれたのだ。ついでに彼も濡れ鼠だったけれど、もうさらっさらに乾いている。
さすが魔法科の生徒様。教養科の自分には無い発想だった。
「ほら座れ。風邪ひくぞ」
椅子を軽く叩いて着席を促すカイロスにアンナは素直に従う。なぜなら自分は魔法が使えないから。
「私、間近で魔法を見たの始めてです。なんか感動しましたっ」
ちょこんと椅子に座ったと同時に、アンナは無駄に元気にカイロスに語りかける。
雨の旧図書館は、いつもと違う雰囲気で沈黙が怖いのだ。
対してカイロスは、切ないほどにいつも通りで。
「ん?見たこと無いって……お前、去年の創立記念日は寮に引きこもってたのか?」
「いいえ、一応庭園パーティーは参加したんですが、ご馳走目当てだったもので……」
「はん。魔法科の努力の結晶なんて、食い物の前では勝ち目はないか」
拗ねた表情になったカイロスはアンナの背後に回る。それから突然、何の断りも無くアンナのおさげを解いた。
カーテンを閉め切っているせいで室内は暗く、湿気のせいで独特の紙の匂いがいつもより強い。
なにより秋の始まりでも、雨が降ると一気に肌寒くなる。濡れてしまったから尚更に。
アンナは頭から被っていたカイロスの上着を両手に持つと、軽く振って水気を取る。自分はさほど濡れていないが、こっちはびちゃびちゃだ。
流石に絞って水気を取るなんていう豪快なことはできないから、ポケットからハンカチを取り出して、そっと彼の上着に押し当ててみる。
あっという間にハンカチもびちゃびちゃになるが、上着には何の変化もない。
「流石に寒いな」
濡れた上着をどう乾かそうか頭を悩ましていたら、少し離れた場所にいるカイロスがぼそっと呟いた。
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深く考えずにカイロスを追って見ていれば、彼は濡れた前髪を鬱陶し気に払いながら、長い間使われることがなかった暖炉に火を入れていた。魔法で。
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当然カイロスはそれを知っているだろう。
でも彼は成績優秀だけれども、優等生でも模範生でも無いのはとっくに調査済みなので、アンナは見て見ぬふりをする。
「アンナ、こっちに来い」
「あ、はい」
目に付いた椅子をズルズルと引っ張って暖炉の前に置く。
それから椅子の背にカイロスの上着をかけて、アンナは満足げに頷いた。でもカイロスは怪訝そうにしている。
「何やってるんだ?」
「上着を乾かそうと」
「はぁ?お前、馬鹿なのか?」
「……っ」
学年首位の人間から馬鹿と言われたら返す言葉なんて見つからない。
でも仮初とはいえ恋人に向けて馬鹿はないだろう。
そんな気持ちでアンナはついムッとしてしまえば、カイロスは溜息を付きながら上着を椅子の背からひったくった。次いで濡れ具合を確かめると指をパチンと鳴らす。
すぐにカイロスの辺りだけ柔らかい風が吹き、上着がふわりと靡く。カイロスが魔法によって乾かしてくれたのだ。ついでに彼も濡れ鼠だったけれど、もうさらっさらに乾いている。
さすが魔法科の生徒様。教養科の自分には無い発想だった。
「ほら座れ。風邪ひくぞ」
椅子を軽く叩いて着席を促すカイロスにアンナは素直に従う。なぜなら自分は魔法が使えないから。
「私、間近で魔法を見たの始めてです。なんか感動しましたっ」
ちょこんと椅子に座ったと同時に、アンナは無駄に元気にカイロスに語りかける。
雨の旧図書館は、いつもと違う雰囲気で沈黙が怖いのだ。
対してカイロスは、切ないほどにいつも通りで。
「ん?見たこと無いって……お前、去年の創立記念日は寮に引きこもってたのか?」
「いいえ、一応庭園パーティーは参加したんですが、ご馳走目当てだったもので……」
「はん。魔法科の努力の結晶なんて、食い物の前では勝ち目はないか」
拗ねた表情になったカイロスはアンナの背後に回る。それから突然、何の断りも無くアンナのおさげを解いた。
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