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 魔女から買った惚れ薬は、ニセモノだった。

 その事実をどう受け止めれば良いのだろうか。

 一番最初にホッとした。次に生まれた感情は……嬉しい?がっかり?

 そのどちらなのかフェイルはわからない。

 ただ惚れ薬を買うために空っぽになってしまったブタの貯金箱が、残念な子を見る目でこちらを見ているのは気のせいだろうか。

 そんなことをフェイルがつらつらと考えていれば、ポンッと頭にルナーダの手が乗った。

「そんなもん俺に飲ませなくっても、素直に”ずっと傍にいて”って言えば良かったんだ」
「……」

 呆れ口調でそう言うルナーダに、フェイルは色々思うことがある。

 けれど、真っ先に言いたいことは、これだった。

「ルナーダさん?あの……なんか言葉遣いが……変ですよ?」

 普段のルナーダは、貴族の次男坊らしく【ですます調】を使う。

 けれど、今、ルナーダが使っているのは、平民の男の子のような言葉遣い。

 驚きのあまり、思わず他人行儀に敬語を使ってしまうフェイルに、ルナーダはちょっとだけ眉を上げて答えた。

「いや?これが素。お前の前ではカッコつけてた」

「嘘!?」

 フェイルは再び絶叫した。けれど、ルナーダはからからと笑うだけ。

「ははっ。嘘なもんか。それに今の俺の口調、無理しているように聞こえるか?」

「ううん」

 フェイルは食い気味に首を横に振った。

 ルナーダのこの口調に違和感はない。妙にしっくりしている。貴族らしくはないけれど。

「俺がお前に対して丁寧な物言いをするのは、お前がガルドのこと乱暴者って言ったからだ」

「それが理由?」

「ああ。俺はガルドのように嫌われるなんて願い下げだからな。だから、お前と一緒の時はものすごく気を付けてたんだ」

「……そうなんだ」

 長い付き合い故、ルナーダのことは誰よりも、そして何でも知っていると思っていたフェイルにとって、このカミングアウトはとても複雑なものだった。

 ちなみにガルドは、ルナーダと同じ王宮騎士であり親友である。平民出身で言葉遣いは粗野だけれど、心根の優しい青年だったりもする。

 けれど、ガルドのことはどうでも良いことのようで……フェイルは、ルナーダの新しい一面を見て、微妙な顔をして小さく唸り声を上げてしまう。なぜなら、そんな彼も素敵と思ってしまうから。

 そんなフェイルを、ルナーダは面白おかしく見つめている。けれど、その目は慈しみに溢れていた。

 フェイルは気付いていなかっただけ。ルナーダがずっとこういう眼差しをフェイルに送っていたことを。

 既にフェイルの気持ちに確信を得ているルナーダは、もう隠すことはせず、自分の胸の内をさらけ出す。

「俺は、お前が好きだよ」

「………ありがとう。でも、薬飲んでるから、そう思えるんだよ」

 フェイルは心のどこかで、まだ惚れ薬がインチキ薬だと思っている。

 そして、この薬の効果が切れてしまえば、これで終わりだと思い続けている。

 胸をときめかせる甘い言葉も、蕩けてしまうような眼差しも全部消えてなくなる。呆気ないほどに。

 そして、薬の効果が消えてしまえば、ルナーダは自分のことを幻滅するだろう。

 そんな悲観的なことすら思っていたりもする。

 あと忘れてはいけない。フェイルは惚れ薬の代価として笑顔を失った。

 これから一生──女性と呼ばれるようになっても、おばあちゃんになっても、もう笑顔を浮かべることはないのだ。
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