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──な、の、に、だ。
フェイルはあろうことか、自分に惚れ薬を飲ませたのだ。
ルナーダは……いや王都の一部の大人たちは、魔女がもう年老いて耄碌していることを知っている。
けれどそのことを知っている者たちは諸々とこの魔女にはお世話になった経験がある。なので、ボランティア活動として、時折、知らないふりして薬を買っていた。
その薬は全て、役立たずな代物で、異常に苦いことも知っている。それでも大人達は魔女が飢えないように、定期的に購入を続けていたのだ。
使い道は主に眠気覚ましの気付け薬。
ちなみに王宮騎士団では、軽い罰則者に向けて使用されている。
ルナ―ダはそつなくこなすタイプだ。だから噂は耳にしていたが服用はしたことない。ただそれを飲んだ後、悶絶する同僚を目にして、絶対に懲罰対象にならないよう一層努力してきた。
なのに、模範騎士と褒められた自分が、このクソ苦いインチキ薬を飲むハメになろうとは。
世の中、本当に意味がわからない。
───ほんの少し前のこと。
騎士団からの帰り道、フェイルにそれとなく領地に行く気はあるかと聞こうと思ってパン屋に寄った際、今日に限ってフェイルが「私の部屋に行こう」と誘ってきたのだ。
ぶっちゃけ、フェイルに腕を引かれた時、ルナーダは途方に暮れた。
自制心にだって限界があることを、ルナーダは既に知っている。
だからフェイルが大人に近づくにつれ、なるべく二人っきりにならないように細心の注意を払っていたのだ。
けれど、長年大切に想ってきたフェイルは、そんなルナーダの気持ちなどこれっぽっちも気付いてない。
そしてルナーダとて、フェイルの腕を無下に振り払うことはできなかった。
ただなぜか、フェイルの部屋に足を踏み入れた途端、彼女はあからさまに挙動不審となった。そこそこ、挙動不審になっているルナーダが不審に思う程。
ただ訝しむ時間もなく、明らかに色のおかしいお茶を出され……ルナーダは嫌な予感がした。でも、飲んだ。それは、愛ゆえに。
どんな味だったかは言葉にできなかった。
控えめに言って、まずかった。意識を保てたのが奇跡と呼べるほどの不味さだった。2度目は絶対に断ると即決できるほどに。
ちなみに、フェイルは真剣な表情でルナーダを見つめていた。まるで思い詰めているかのようでもあった。
背中と額に脂汗を掻きながら、ルナーダはここでピンときた。
フェイルが自分に何を飲ませたかを。そしてカマをかけるかのように、愛の言葉を囁けば、どうやら当たりのようで……。
ただ喜びに満ち溢れる気持ちとは裏腹に、こうも思った。
「泣くくらいなら、こんなことをせずに、直接言えば良いのに」と。
──フェイルが自分を求めている以上に、自分はフェイルを求めているのだから。
フェイルはあろうことか、自分に惚れ薬を飲ませたのだ。
ルナーダは……いや王都の一部の大人たちは、魔女がもう年老いて耄碌していることを知っている。
けれどそのことを知っている者たちは諸々とこの魔女にはお世話になった経験がある。なので、ボランティア活動として、時折、知らないふりして薬を買っていた。
その薬は全て、役立たずな代物で、異常に苦いことも知っている。それでも大人達は魔女が飢えないように、定期的に購入を続けていたのだ。
使い道は主に眠気覚ましの気付け薬。
ちなみに王宮騎士団では、軽い罰則者に向けて使用されている。
ルナ―ダはそつなくこなすタイプだ。だから噂は耳にしていたが服用はしたことない。ただそれを飲んだ後、悶絶する同僚を目にして、絶対に懲罰対象にならないよう一層努力してきた。
なのに、模範騎士と褒められた自分が、このクソ苦いインチキ薬を飲むハメになろうとは。
世の中、本当に意味がわからない。
───ほんの少し前のこと。
騎士団からの帰り道、フェイルにそれとなく領地に行く気はあるかと聞こうと思ってパン屋に寄った際、今日に限ってフェイルが「私の部屋に行こう」と誘ってきたのだ。
ぶっちゃけ、フェイルに腕を引かれた時、ルナーダは途方に暮れた。
自制心にだって限界があることを、ルナーダは既に知っている。
だからフェイルが大人に近づくにつれ、なるべく二人っきりにならないように細心の注意を払っていたのだ。
けれど、長年大切に想ってきたフェイルは、そんなルナーダの気持ちなどこれっぽっちも気付いてない。
そしてルナーダとて、フェイルの腕を無下に振り払うことはできなかった。
ただなぜか、フェイルの部屋に足を踏み入れた途端、彼女はあからさまに挙動不審となった。そこそこ、挙動不審になっているルナーダが不審に思う程。
ただ訝しむ時間もなく、明らかに色のおかしいお茶を出され……ルナーダは嫌な予感がした。でも、飲んだ。それは、愛ゆえに。
どんな味だったかは言葉にできなかった。
控えめに言って、まずかった。意識を保てたのが奇跡と呼べるほどの不味さだった。2度目は絶対に断ると即決できるほどに。
ちなみに、フェイルは真剣な表情でルナーダを見つめていた。まるで思い詰めているかのようでもあった。
背中と額に脂汗を掻きながら、ルナーダはここでピンときた。
フェイルが自分に何を飲ませたかを。そしてカマをかけるかのように、愛の言葉を囁けば、どうやら当たりのようで……。
ただ喜びに満ち溢れる気持ちとは裏腹に、こうも思った。
「泣くくらいなら、こんなことをせずに、直接言えば良いのに」と。
──フェイルが自分を求めている以上に、自分はフェイルを求めているのだから。
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