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 ルナーダは豪快に噴き出したと思ったら、今度は腹を抱えて大爆笑した。

「あはは、ははっははっははっ。フェイル、お前、馬鹿だなぁ」
「なっ!?」

 こりゃたまらんと大口を開けて笑うルナーダを見てフェイルは唖然としてしまう。

 ついでに彼の突然の変わり様にフェイルの涙が、ピタッと止んだ。

 それを待っていたかのようにルナーダは笑いを止めて、目を白黒させるフェイルに向けてもう一度同じ言葉を吐く。

「お前、本当に馬鹿だな」
「はぁ!?」

 罵り言葉を二度も食らったフェイルは、自分の立場を忘れて思わずカッとなってしまった。

 馬鹿なのは、あなたのほうだ。何の危機感も抱かず、こんなものを口にするなんて!!

 そう言いたくても、目まぐるしく変わる状況に思考が付いていけずフェイルは唇をワナワナと震わすだけ。

 そんなフェイルに、ルナーダは更に衝撃的な言葉を紡ぐ。

「これ、惚れ薬じゃないぞ」
「……」

 ああ……なんて説得力の無い言葉だろう。フェイルは、泣けてきた。

 薬の効用は、飲んだ本人にはわからない。だからこその惚れ薬だというのに。

 再び、フェイルの瞳から涙がポタリと溢れる。

 それを見たルナーダは、やれやれといった感じでフェイルの目尻を親指の腹で乱暴に拭うと肩を竦めた。

「あのさぁ、」

 そこで言葉を止めたルナーダは、一度コホンと小さく咳払いをした。まるで、気持ちを切り替えるように。

 それから、いつもの”お兄ちゃんの表情”になり、フェイルにこう問いかける。

「フェイル、これ王都の外れの楡の木の真下にある魔女の家で買ったんだろ?」
「黙秘をさせ……あ、うん。買いました」

 観念したフェイルがボソボソと肯定すれば、畳み掛けるようにルナーダが言葉を続ける。 

「実はさ、あそこのばあさん、もう呆けてるから、薬なんて調合できないんだよ」

 さらりと告げられた事実に、フェイルは愕然となる。そして、

「えー!?嘘ぉ!!」

 フェイルの大絶叫が、カタカタと窓を揺らした。
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