好きな人に惚れ薬を飲ませてしまいました

当麻月菜

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 王都の外れにある森の奥には、樹齢何百年と思わせる大きな楡の木がある。

 そしてその真下には、今にも壊れそうな小屋がある。

『絶対にあそこへ行っちゃいけないよ。悪い魔女に食べられてしまうからね』

 親は子供に、そんなふうに口うるさく言う。

 ちなみにその親も、子供時代には同じことを親に言われてきた。

 つまり王都の庶民のご家族では代々、楡の木の小屋には近づくなと子供に言うのが伝統なのだ。

 ……でも、ある一定の年齢になると、気付いてしまう。あそこがどんな場所なのか。

 楡の木の真下の小屋では、薬師が取り扱うことがない、不思議なお薬が売っているのだ。

 頭のてっぺんが寂しくなってしまった殿方には、もう一度、”頭がふさふさになるお薬”を。

 目元と口元に、しっかりと皺が刻まれてしまったご婦人には、かつてのような”みずみずしい素肌になるお薬”を。

 そして、年頃の男女には、意中の相手を射止めることができる───”惚れ薬”を。

 取り扱う薬はどれも、大変高価だけれど、効き目はバツグン。

 どんなに努力しても叶わない願いは、神様にお祈りするより、あそこに行けばすぐに解決できる。

 努力ではどうすることもできない失われたものは、お金でなんとかする。

 夢は必ず叶うというキャッチフレーズになんて、もう心を震わせることはなくなった。 

 夢は見るもの、いつかは醒めるもの。

 そんな言葉を平然と吐くようになった人間が通う場所。

 そう。楡の木の真下にある小屋は、大人だけが知る秘密のお店──魔女の住処だったのだ。

 そんな場所にフェイルは、汚くも金の力で切実な願いを叶えようと足を向けたのだった。

  悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、悩みつくした結果、この結論に至ったのだ。だから、後は実行に移すのみ。



 ───......なのに現実は、なかなかしょっぱいものだった。
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