彼女の願いはあまりに愚かで、切なくて

「杏沙、お願い。私が退院するまでこの人と付き合って」

末期がんに侵された友人の由紀はそう言って、自分の彼氏──永井和臣を差し出した。

「うん、いいよ」

それで由紀の病気が快方に向かうならという気持ちから、杏沙は願掛けのつもりで頷いた。



それから和臣との付き合いが始まった。

手も握らない。キスもしない。身体を重ね合わせることも、彼との未来を想像することさえしない偽りの交際は、罪悪感だけが積もる日々。

そんなある日、和臣は言った。

「由紀にとって、君は一番大事な友達……親友なんだ」

その言葉に杏沙は、ちくりと罪悪感を覚えた。

杏沙は由紀の親友では無い。親友になりたくても、なれない。そんな資格は無いのだ。

なぜなら昔、杏沙は由紀に対してひどい裏切りをしたことがあったから。


友人の回復を信じて偽装恋愛を始めるOLと、偽装恋愛をしてでも恋人の回復を願う大学生のいびつで切ない秋から冬までのお話。

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