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第15章
それは、水面に映る月影に似て 2
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突然胸を押しつぶそうとしていた膨らみが弾け、ぎゅうぎゅうにつまっていた光が飛び散るように、その瞬間マテアはこれから何が起きるか理解した。
見覚えのある光景。月光母の顔が浮かぶ。
こちらへきて、いろいろな事が起きすぎて、忘れていた。
「いやっ、はなして!!」
自由なもう片方の手で拳を作り、相手の胸らしきところを必死に叩く。金属ではないが、固い鎧の感触が手を伝わる。その手もたやすくとられ、骨がきしむくらい強く握りこまれて、マテアはあっけなく抵抗する力を失った。
『すげえ! こんな美女、見たことねえ!』
苦痛に喘ぎながら上を向いたマテアの面を見て、男が喜声を上げる。
『やった! 今日からおまえはおれのモンだ。いいか、逆らうなよ、こんな細い腕なんざ、簡単にぽつきり折れちまうんだからなっ』
身をよじるマテアのなまめかしい胸元を覗きこんで、興奮気味に男はまくしたてる。そのままぐっと重心をマテアの方へ移し、のしかかって、マテアを地面に押し倒した。
「……っ、ぃやあっ……!」
死に物狂いでマテアは手足を動かす。
月光界の者は皆神月珠より生まれ、<魂>の混合により精神的合一を果たす。心が満たされるので、肉体を用いての結びつきに必要を感じない。そのため性別はあっても肉欲はなく、性交という知識そのものが欠落しているのだが、それでも少女たちがどんな目にあわされているかを目の当たりにしてきたマテアは、この男が何をしようとしているか、わかりすぎるほどわかっていた。
――レンジュ!!
「いやっ! 放して!」
誇りも体裁も、とうにかなぐり捨てていた。盲滅法、真白になった頭でとにかく動く限り手足をばたつかせ、触れるものを押しやる。
熱にひるんでいる間はなかった。ひるめばますます男はその肌を押しつけてくるのだ。
耐えられるわけがない!
『くっ、そ。このアマあ、いいかげん観念しやがれっ』
これでもかとばかりに服の上から胸をわしつかまれて、マテアは悲鳴を上げた。握りつぶそうとでもしているかのように手にこめられた力は強く、激痛が走る。
「いやあああああああああああ……っ!!」
四つん這いになった男の唇が噛みつくように鎖骨に触れた。がさつく指がスカートをめくり、太腿をまさぐって内側へ侵入を図ったとき。極限へ達した恐怖に叫声を上げる。
刹那、どかりという重い衝撃が男から伝わった。
びくびくっと男の体がはね、胸や足にのっていた腕がだらりと落ちる。
温かくてぬるりとした何かがマテアの顔や手や足を伝った。雨滴のように幾筋も伝い、流れ落ちていく。
男の動きはとまっていた。一瞬前まで体中に脹っていた、あの鋼のように硬く熱い力がすっかり消え失せている。
死んでいるのだ。死んでしまって、自分で自分の体を支える力もないはずなのに、男の体はいつまでもかぶさろうとしない。
理由は一つ。それを許さない力が、男の襟首にかかっていたからである。
「レン、ジュ……」
危機を救ってくれたのはあの男に違いないと、信じて疑わないか細い声が、安堵の息とともにもれる。
きっと心配してくれているだろう、彼の面を見ようと男の下から這い出したマテアは、そこに立つ者が誰なのかを知った瞬間肌を粟立たせた。
『へっヘへ……。
おまえは、おれのもんだよなあ』
にたり。
悦に入ってマテアを見下ろした顔は、あの奴隷商人・ゼクロスのものだった。
見覚えのある光景。月光母の顔が浮かぶ。
こちらへきて、いろいろな事が起きすぎて、忘れていた。
「いやっ、はなして!!」
自由なもう片方の手で拳を作り、相手の胸らしきところを必死に叩く。金属ではないが、固い鎧の感触が手を伝わる。その手もたやすくとられ、骨がきしむくらい強く握りこまれて、マテアはあっけなく抵抗する力を失った。
『すげえ! こんな美女、見たことねえ!』
苦痛に喘ぎながら上を向いたマテアの面を見て、男が喜声を上げる。
『やった! 今日からおまえはおれのモンだ。いいか、逆らうなよ、こんな細い腕なんざ、簡単にぽつきり折れちまうんだからなっ』
身をよじるマテアのなまめかしい胸元を覗きこんで、興奮気味に男はまくしたてる。そのままぐっと重心をマテアの方へ移し、のしかかって、マテアを地面に押し倒した。
「……っ、ぃやあっ……!」
死に物狂いでマテアは手足を動かす。
月光界の者は皆神月珠より生まれ、<魂>の混合により精神的合一を果たす。心が満たされるので、肉体を用いての結びつきに必要を感じない。そのため性別はあっても肉欲はなく、性交という知識そのものが欠落しているのだが、それでも少女たちがどんな目にあわされているかを目の当たりにしてきたマテアは、この男が何をしようとしているか、わかりすぎるほどわかっていた。
――レンジュ!!
「いやっ! 放して!」
誇りも体裁も、とうにかなぐり捨てていた。盲滅法、真白になった頭でとにかく動く限り手足をばたつかせ、触れるものを押しやる。
熱にひるんでいる間はなかった。ひるめばますます男はその肌を押しつけてくるのだ。
耐えられるわけがない!
『くっ、そ。このアマあ、いいかげん観念しやがれっ』
これでもかとばかりに服の上から胸をわしつかまれて、マテアは悲鳴を上げた。握りつぶそうとでもしているかのように手にこめられた力は強く、激痛が走る。
「いやあああああああああああ……っ!!」
四つん這いになった男の唇が噛みつくように鎖骨に触れた。がさつく指がスカートをめくり、太腿をまさぐって内側へ侵入を図ったとき。極限へ達した恐怖に叫声を上げる。
刹那、どかりという重い衝撃が男から伝わった。
びくびくっと男の体がはね、胸や足にのっていた腕がだらりと落ちる。
温かくてぬるりとした何かがマテアの顔や手や足を伝った。雨滴のように幾筋も伝い、流れ落ちていく。
男の動きはとまっていた。一瞬前まで体中に脹っていた、あの鋼のように硬く熱い力がすっかり消え失せている。
死んでいるのだ。死んでしまって、自分で自分の体を支える力もないはずなのに、男の体はいつまでもかぶさろうとしない。
理由は一つ。それを許さない力が、男の襟首にかかっていたからである。
「レン、ジュ……」
危機を救ってくれたのはあの男に違いないと、信じて疑わないか細い声が、安堵の息とともにもれる。
きっと心配してくれているだろう、彼の面を見ようと男の下から這い出したマテアは、そこに立つ者が誰なのかを知った瞬間肌を粟立たせた。
『へっヘへ……。
おまえは、おれのもんだよなあ』
にたり。
悦に入ってマテアを見下ろした顔は、あの奴隷商人・ゼクロスのものだった。
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