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第14章

雨の夜に見える月のように 3

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 何言ったって聞きやしないなら、おれが目を配って守るしかない。

 自分の命だっていうのに、なんだっておれの方が心配してやらなきゃいけないんだか。わがままに腹は立つが、死なれるよりずっとマシだ。

 本気だぞと睨むハリに、馬上のレンジュは、まさかそんな手に出るとは思わなかったと目を丸くすると、次の瞬間くすっと鼻を鳴らして大仰に肩をすくめてみせた。

「それはこわいな。おまえに見放されたら、おれなんかすぐ死んじまうんだろうから」
「ああ、そうとも!」

 胸を張って肯定するハリに、ぷっと吹き出す。

「ははは。
 わかったよ。絶対おまえの前には出ない」
「休みもとれ!」
「とるよ、とる」

 よし、と頷いたハリが手綱から手を放して自分の馬へ戻ろうとしたとき。ふっとレンジュの手綱を持つ手から力が抜けた。それと気付いて見上げたハリの前で、うっすらと笑む。

「ハリ。もしおれの暴走を心配してるなら、無用だよ。おれは死ぬ気はこれっぽっちもないから。
 すごく苦しいけど、でも、死ぬことの方がもっと辛くてやりきれないって、ちゃんとわかってる。
 安易に死を望んだりはしない。誓うよ」

 静かな声だった。力みも諦めもない、今日の天気についてでも話すような声。

「……ああ、そうだなっ」

 申し合わせたように互いの掌を叩きあわせ、ぱんっと軽快な音をたてた後。気がかりが払拭された面でハリは自分の馬に戻った。

 そう。死ぬわけにはいかない。

 ハリが横に並ぶのを待つ間、レンジュは己が口にした言葉の正しさを確認する。

 死んでしまったなら、もう彼女を見つめることさえできなくなる。

 愛されなくていい。自分に愛される資格がないことは、最初からわかっていたことだ。一生、触れられなくていい。そばにいてくれさえすれば。彼女を失う以上に辛いことなどありはしない。だから、どんなに辛くとも堪えられないはずがない。


 死ぬために戦うんじゃない。ただほんの一時、この苦しさをまぎらわせるために、自分は戦うのだ。


 自分の行いは間違っていないと確信し、レンジュは馬を進める。
 けれどもこの選択が人生最大の誤りであったと彼が心底から悔やむのに、そう時間はかからなかった。
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