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冒険者として生きていく
テラネを出よう
しおりを挟む「私は左のやつを止めるよ!」
「おう!」
「わかった。僕は右のやつを誘導する。《ライト》」
『ギィィ!?』
「《封縛陣》!」
「【ダブルスラッシュ】!」
「ナイス!2体とも動きが止まった!!トドメを刺すぞ!【岩砕き】!」
「はぁっ!!」
『『ギャイィンッ』』
「おっしゃあ!もうこの辺りのモンスターは楽勝だな」
「アンセルが技を習得してからバトルが格段に楽になったものね」
「ふふ、ユーニスにそう言ってもらえると嬉しいよ」
「いや、マジで楽になったよ。まさか《ライト》をあんな目的で使うやつがいるなんて思わなかったぞ」
デリックの言葉に大きく頷く私。
《ライト》は夜間や暗い場所を探索する時に、周囲を明るく照らし、視界を確保するために使うものだと思っていた。
しかし、アンセルはそんな《ライト》の常識を覆し、敵に対して目眩ましがわりに使用することで、一時的に敵を足止めしたり、敵の注意を引き付ける手段として使うことを編み出した。
さらに、アンセルが習得した【ダブルスラッシュ】にノックバック効果があると知るや、アンセルはこの効果を利用してモンスター達を上手く《封縛陣》の中に誘導してくれるようになった。
私は【ダブルスラッシュ】にそんな効果があるとは知らなかったし、こんなふうに応用できるなんて考えもしていなかった。
つくづくアンセルのバトルセンスには驚かされるばかりだ。
こんな具合にモンスターとの戦闘においてそれぞれの役割分担が決まってきた。
私は《封縛陣》でモンスターの足止め。
アンセルは敵の撹乱と《封縛陣》ヘの誘導、そして足止めした敵ヘの攻撃役。
デリックはその圧倒的な攻撃力を活かし、動けなくなった敵にトドメを刺すフィニッシャーの役割である。
私達のパーティは遠距離攻撃役が1人もいないという欠点を抱えているが、飛行するモンスターに対しては《封縛陣》を受けた敵が地面に落下するため、今のところはうまく対応できている。
将来的にはアンセルが斬撃を飛ばす技を覚えるはずなので、離れた敵ヘの攻撃手段も増えるだろう。
「怪我をした人はいる?」
「いんや、ピンピンしてるぞ」
「ふふ、ユーニスの魔法の出番はいつになるかな」
「みんなが無事ならいいのよ」
「最初はモンスターから攻撃を受けることもあったけど、役割分担がはっきり決まってからはそれもなくなったよね」
「俺たちの動きも良くなったと思うぞ。チームワークも!」
「この辺りのモンスター相手ではレベルが上がりにくくなったし、そろそろ別の場所に拠点を移してもいいかもしれないわね」
「そうだね。3人ともレベル5になってから全然レベルが上がらなくなったし、そろそろ狩り場をかえる時期なのかもしれない」
そう。今の私達は3人ともレベル5である。
そして、私はレベル5になったことで新しい魔法を習得した。《光輪陣(こうりんじん)》という魔法で、これはなんと回復魔法である。
今のところ大きな怪我をした者はいないため、どれほどの怪我を治せるのかははっきりとはわかっていない。
この魔法は対象の足元に魔方陣を出現させ、対象の傷や状態異常を回復させることができる。効果範囲は魔方陣にいる味方すべてに及ぶため、パーティメンバーが近くにいれば全員を一気に回復させることもできそうだ。
モンスターを効率良く狩れるようになってからは誰も怪我らしい怪我をしなくなったため、今のところあまり出番がないのだが。
ここしばらくのモンスター狩りでレベルが上がっていないのは気になっていた。もしかするとこの世界では格下相手だと得られる経験値が極端に少なくなるのかもしれない。これは【果てなき終焉のファンタジア】にはなかった仕様だ。
私のこの考えが間違いでなければ、この世界でレベル99になるのは不可能に近い。それどころか高レベルを目指すこと自体が難しいかもしれない。
格下相手に経験値を稼ぎ、レベルを十分に上げてから次のエリアに進む。
そうした安全第一の方策をとれないため、いつも同格もしくは格上と戦うことになる。
ゲームであれば負けてもセーブポイントから再開できるが、この世界はゲーム世界であってもあくまでもリアルなのだ。命の危険を冒してまで強くなる必要が本当にあるのだろうか。
ううん、今はそうした考えを抱くような段階じゃないよね。私達はまだ新米冒険者だ。
まずは私達のパーティで行けるところまで行ってみよう。ゲーム知識だってある。格上とは戦わないようにして、なるべく安全にレベルアップしていきたい。
「テラネを離れるなら、一度親父の店に寄っていこうぜ」
「ああ、以前店を飛び出してそのままだったな」
「それじゃあ、デリックのお父さんに挨拶したらテラネを出るってことで決まりだね」
「テラネを出るのはいいけどよ、次はどこへ行くんだ?ここから近い距離だと、南西には王都、南東にはホワルっていう町があるぞ」
「え?南東に町?」
「お、おう。町があるぞ。気乗りしないっていうなら王都にするか?」
「デリック、王都と言うからにはたくさんの人で溢れかえってるんじゃないのか?僕はあまり行きたくない」
「そうか。まあ俺はどちらでもいいぞ。ユーニスはホワルの町でもいいか?」
「え?あ、うん。ホワルの町でいいよ。その町でいい装備を売っているといいね」
「そうだな。そろそろ斧を新調したいと思ってたんだ」
「僕も今の剣では物足りなくなってきてるよ。いい剣があれば買い換えたいな」
アンセルが「いい剣があれば」と言った瞬間、ロンちゃんが『はいはーい』と言うように片手を大きく挙げて自分をアピールしていた。
すべてアンセルの目の前で行われているのだが、ロンちゃんのことを視えていない彼には何ひとつ伝わっていない。
人間のことを見極めると言っていたロンちゃんだが、少なくともアンセルのことは認めているらしい。
頑張っているロンちゃんが報われる日は来るのだろうか。早くアンセルの心が癒されることを祈るしかない。
それにしても、南東に町があると言われた時には驚いた。
ゲームでは名前しか聞いたことがなかった町だったからだ。
王都の住人から『東にあるホワルという町が魔王の配下によって滅ぼされたそうだ。王都は大丈夫なのだろうか』というセリフを聞くことができ、プレイヤーはそのセリフから魔王の配下が動き出したことを知る。
後にその配下と戦う機会があり、そこでもホワルについて少し触れられていた。
要するに、魔王とその配下の恐ろしさをプレイヤーに印象付けるためのフレーバーテキストに近い扱いで、そのセリフを聞かなくてもゲーム本編に影響はなかった。
そのホワルが滅ぼされていないということは、やはり魔王は力を取り戻せなかったとみて間違いないだろう。
魔王が弱いままであれば配下のモンスターが暴れる展開も起こらないらしい。 配下のモンスターは魔王から力を与えられて強くなっていたのかもしれない。
そんなことを考えているうちにデリックのお父さんが経営する武器屋に到着した。
デリックにとっては実家なので、気安い感じで店の扉を開いた。
「親父ぃ、帰ったぞ~」
「この馬鹿息子!お客さんの前でその言葉遣いはやめろとあれほど」
「あーあー聞こえないー。それより親父、俺達、テラネを出ることにしたから」
「何だって!?……あの、お二人とも、愚息の言葉は真実なのでしょうか」
「はい、私達は南東にあるホワルを目指す予定です。あの、店主さん、この間は失礼な態度のまま店を出ていってしまい、申し訳ありませんでした」
「店主殿、あなたがユーニスのために言ったことを僕が曲解してしまい、失礼な態度を取ってしまったことを謝罪する。本当に申し訳ありませんでした」
2人して店主さんに向かって頭を下げる。
店主さんに「頭を上げてください」と言われ、私達はおずおずと顔を上げた。
「お二人の謝罪は受け取りました。しかし、あの時は私の言い方にも問題がありました。ユーニスさん、あなたを傷つけるような言い方をしてしまったこと、心からお詫び申し上げます」
店主さんは深く頭を下げた。
私は慌てて顔を上げるように懇願する。
店主さんはしばらくそのままだったが、私の懇願を受けてゆっくりと頭を上げた。
「お互いに謝ったんだから、もうこの話は終わりでいいだろ?」
「またお前は……」
「なんだよ親父。それより、俺達町を出るから挨拶に来たんだよ」
「ああ、ホワルに行くんだったか。お前、あの事はお二人にちゃんと話したのか?」
「当たり前だ。2人は俺が斧しか使わないって言っても嫌な顔ひとつしなかったぞ。こんないい奴らとパーティを組めて、俺は幸せ者だ」
「デリック……」
「私達もデリックがいてくれて嬉しいよ」
その場が生温かい空気に包まれる。
その様子を見ていた店主さんは、私達に向き直り、再び頭を下げた。
「……お二人とも、どうかうちの息子を宜しくお願い致します」
「店主殿…はい、僕達にお任せください」
「店主さん、デリックがもし怪我をしても私が必ず治してみせます」
私の言葉に店主さんが顔を上げる。
「ユーニスさん、もしや回復魔法を…?」
「はい。最近覚えました!」
「そうでしたか…私の言葉は本当に余計なひと言だったようですな」
「店主さんの気持ち、ちゃんと伝わってますからね。だからそんな言い方しないでください」
「ユーニスさん……」
店主さんはもう一度私に頭を下げた。今度はすぐに頭を上げてくれたのでホッとした。
これでこの町とはしばらくお別れだ。最後に気になっていたことを尋ねてみてもいいだろうか。
私はこちらを見ている店主さんに声をかける。
「店主さん、今までの話とはまったく関係がないんですが、店主さんは王都の噂について何かご存知ですか?」
「王都の噂、ですか……」
本来であれば、『この国の王が魔王討伐のために勇者を探している』という噂がテラネの町で流れているはずだった。
しかし、魔王が力を取り戻していない現状、国王が勇者を探す必要はなくなったわけで、それならそんな噂も流れていないことになる。
私はその事を確かめておきたかったのだ。
「噂といえば、国王が聖女を探しているという噂を聞きましたよ」
「え?」
聖女?勇者じゃなくて?
────────────
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