転生した私は人間不信の勇者と村を出る

スノウ

文字の大きさ
上 下
15 / 37
冒険者として生きていく

テラネを出よう

しおりを挟む

 
「私は左のやつを止めるよ!」

「おう!」

「わかった。僕は右のやつを誘導する。《ライト》」

『ギィィ!?』

「《封縛陣》!」

「【ダブルスラッシュ】!」

「ナイス!2体とも動きが止まった!!トドメを刺すぞ!【岩砕き】!」

「はぁっ!!」

『『ギャイィンッ』』

「おっしゃあ!もうこの辺りのモンスターは楽勝だな」

「アンセルが技を習得してからバトルが格段に楽になったものね」

「ふふ、ユーニスにそう言ってもらえると嬉しいよ」

「いや、マジで楽になったよ。まさか《ライト》をあんな目的で使うやつがいるなんて思わなかったぞ」


 デリックの言葉に大きく頷く私。

 《ライト》は夜間や暗い場所を探索する時に、周囲を明るく照らし、視界を確保するために使うものだと思っていた。

 しかし、アンセルはそんな《ライト》の常識を覆し、敵に対して目眩ましがわりに使用することで、一時的に敵を足止めしたり、敵の注意を引き付ける手段として使うことを編み出した。

 さらに、アンセルが習得した【ダブルスラッシュ】にノックバック効果があると知るや、アンセルはこの効果を利用してモンスター達を上手く《封縛陣》の中に誘導してくれるようになった。

 私は【ダブルスラッシュ】にそんな効果があるとは知らなかったし、こんなふうに応用できるなんて考えもしていなかった。

 つくづくアンセルのバトルセンスには驚かされるばかりだ。


 こんな具合にモンスターとの戦闘においてそれぞれの役割分担が決まってきた。

 私は《封縛陣》でモンスターの足止め。

 アンセルは敵の撹乱と《封縛陣》ヘの誘導、そして足止めした敵ヘの攻撃役。

 デリックはその圧倒的な攻撃力を活かし、動けなくなった敵にトドメを刺すフィニッシャーの役割である。


 私達のパーティは遠距離攻撃役が1人もいないという欠点を抱えているが、飛行するモンスターに対しては《封縛陣》を受けた敵が地面に落下するため、今のところはうまく対応できている。

 将来的にはアンセルが斬撃を飛ばす技を覚えるはずなので、離れた敵ヘの攻撃手段も増えるだろう。


「怪我をした人はいる?」

「いんや、ピンピンしてるぞ」

「ふふ、ユーニスの魔法の出番はいつになるかな」

「みんなが無事ならいいのよ」

「最初はモンスターから攻撃を受けることもあったけど、役割分担がはっきり決まってからはそれもなくなったよね」

「俺たちの動きも良くなったと思うぞ。チームワークも!」

「この辺りのモンスター相手ではレベルが上がりにくくなったし、そろそろ別の場所に拠点を移してもいいかもしれないわね」

「そうだね。3人ともレベル5になってから全然レベルが上がらなくなったし、そろそろ狩り場をかえる時期なのかもしれない」


 そう。今の私達は3人ともレベル5である。

 そして、私はレベル5になったことで新しい魔法を習得した。《光輪陣(こうりんじん)》という魔法で、これはなんと回復魔法である。

 今のところ大きな怪我をした者はいないため、どれほどの怪我を治せるのかははっきりとはわかっていない。

 この魔法は対象の足元に魔方陣を出現させ、対象の傷や状態異常を回復させることができる。効果範囲は魔方陣にいる味方すべてに及ぶため、パーティメンバーが近くにいれば全員を一気に回復させることもできそうだ。

 モンスターを効率良く狩れるようになってからは誰も怪我らしい怪我をしなくなったため、今のところあまり出番がないのだが。



 ここしばらくのモンスター狩りでレベルが上がっていないのは気になっていた。もしかするとこの世界では格下相手だと得られる経験値が極端に少なくなるのかもしれない。これは【果てなき終焉のファンタジア】にはなかった仕様だ。

 私のこの考えが間違いでなければ、この世界でレベル99になるのは不可能に近い。それどころか高レベルを目指すこと自体が難しいかもしれない。

 格下相手に経験値を稼ぎ、レベルを十分に上げてから次のエリアに進む。

 そうした安全第一の方策をとれないため、いつも同格もしくは格上と戦うことになる。

 ゲームであれば負けてもセーブポイントから再開できるが、この世界はゲーム世界であってもあくまでもリアルなのだ。命の危険を冒してまで強くなる必要が本当にあるのだろうか。


 ううん、今はそうした考えを抱くような段階じゃないよね。私達はまだ新米冒険者だ。

 まずは私達のパーティで行けるところまで行ってみよう。ゲーム知識だってある。格上とは戦わないようにして、なるべく安全にレベルアップしていきたい。


「テラネを離れるなら、一度親父の店に寄っていこうぜ」

「ああ、以前店を飛び出してそのままだったな」

「それじゃあ、デリックのお父さんに挨拶したらテラネを出るってことで決まりだね」

「テラネを出るのはいいけどよ、次はどこへ行くんだ?ここから近い距離だと、南西には王都、南東にはホワルっていう町があるぞ」

「え?南東に町?」

「お、おう。町があるぞ。気乗りしないっていうなら王都にするか?」

「デリック、王都と言うからにはたくさんの人で溢れかえってるんじゃないのか?僕はあまり行きたくない」

「そうか。まあ俺はどちらでもいいぞ。ユーニスはホワルの町でもいいか?」

「え?あ、うん。ホワルの町でいいよ。その町でいい装備を売っているといいね」

「そうだな。そろそろ斧を新調したいと思ってたんだ」

「僕も今の剣では物足りなくなってきてるよ。いい剣があれば買い換えたいな」

 アンセルが「いい剣があれば」と言った瞬間、ロンちゃんが『はいはーい』と言うように片手を大きく挙げて自分をアピールしていた。

 すべてアンセルの目の前で行われているのだが、ロンちゃんのことを視えていない彼には何ひとつ伝わっていない。

 人間のことを見極めると言っていたロンちゃんだが、少なくともアンセルのことは認めているらしい。

 頑張っているロンちゃんが報われる日は来るのだろうか。早くアンセルの心が癒されることを祈るしかない。




 それにしても、南東に町があると言われた時には驚いた。
 ゲームでは名前しか聞いたことがなかった町だったからだ。

 王都の住人から『東にあるホワルという町が魔王の配下によって滅ぼされたそうだ。王都は大丈夫なのだろうか』というセリフを聞くことができ、プレイヤーはそのセリフから魔王の配下が動き出したことを知る。

 後にその配下と戦う機会があり、そこでもホワルについて少し触れられていた。

 要するに、魔王とその配下の恐ろしさをプレイヤーに印象付けるためのフレーバーテキストに近い扱いで、そのセリフを聞かなくてもゲーム本編に影響はなかった。


 そのホワルが滅ぼされていないということは、やはり魔王は力を取り戻せなかったとみて間違いないだろう。

 魔王が弱いままであれば配下のモンスターが暴れる展開も起こらないらしい。 配下のモンスターは魔王から力を与えられて強くなっていたのかもしれない。




 そんなことを考えているうちにデリックのお父さんが経営する武器屋に到着した。

 デリックにとっては実家なので、気安い感じで店の扉を開いた。


「親父ぃ、帰ったぞ~」

「この馬鹿息子!お客さんの前でその言葉遣いはやめろとあれほど」

「あーあー聞こえないー。それより親父、俺達、テラネを出ることにしたから」

「何だって!?……あの、お二人とも、愚息の言葉は真実なのでしょうか」

「はい、私達は南東にあるホワルを目指す予定です。あの、店主さん、この間は失礼な態度のまま店を出ていってしまい、申し訳ありませんでした」

「店主殿、あなたがユーニスのために言ったことを僕が曲解してしまい、失礼な態度を取ってしまったことを謝罪する。本当に申し訳ありませんでした」

 2人して店主さんに向かって頭を下げる。

 店主さんに「頭を上げてください」と言われ、私達はおずおずと顔を上げた。


「お二人の謝罪は受け取りました。しかし、あの時は私の言い方にも問題がありました。ユーニスさん、あなたを傷つけるような言い方をしてしまったこと、心からお詫び申し上げます」

 店主さんは深く頭を下げた。
 私は慌てて顔を上げるように懇願する。

 店主さんはしばらくそのままだったが、私の懇願を受けてゆっくりと頭を上げた。


「お互いに謝ったんだから、もうこの話は終わりでいいだろ?」

「またお前は……」

「なんだよ親父。それより、俺達町を出るから挨拶に来たんだよ」

「ああ、ホワルに行くんだったか。お前、あの事はお二人にちゃんと話したのか?」

「当たり前だ。2人は俺が斧しか使わないって言っても嫌な顔ひとつしなかったぞ。こんないい奴らとパーティを組めて、俺は幸せ者だ」

「デリック……」

「私達もデリックがいてくれて嬉しいよ」

 その場が生温かい空気に包まれる。
 その様子を見ていた店主さんは、私達に向き直り、再び頭を下げた。

「……お二人とも、どうかうちの息子を宜しくお願い致します」

「店主殿…はい、僕達にお任せください」

「店主さん、デリックがもし怪我をしても私が必ず治してみせます」

 私の言葉に店主さんが顔を上げる。

「ユーニスさん、もしや回復魔法を…?」

「はい。最近覚えました!」

「そうでしたか…私の言葉は本当に余計なひと言だったようですな」

「店主さんの気持ち、ちゃんと伝わってますからね。だからそんな言い方しないでください」

「ユーニスさん……」

 店主さんはもう一度私に頭を下げた。今度はすぐに頭を上げてくれたのでホッとした。

 これでこの町とはしばらくお別れだ。最後に気になっていたことを尋ねてみてもいいだろうか。

 私はこちらを見ている店主さんに声をかける。


「店主さん、今までの話とはまったく関係がないんですが、店主さんは王都の噂について何かご存知ですか?」

「王都の噂、ですか……」


 本来であれば、『この国の王が魔王討伐のために勇者を探している』という噂がテラネの町で流れているはずだった。

 しかし、魔王が力を取り戻していない現状、国王が勇者を探す必要はなくなったわけで、それならそんな噂も流れていないことになる。

 私はその事を確かめておきたかったのだ。


「噂といえば、国王が聖女を探しているという噂を聞きましたよ」

「え?」


 聖女?勇者じゃなくて?

 


────────────

 朝起きるとお気に入り登録が100人を超え、いいねが500を超えていて、とても驚きました。ポチポチしてくださった方、どうもありがとうございます。

 たくさんの方に読んでもらえているようで、とても嬉しく思っております。

 あまり作者の話ばかりするのは閲覧の邪魔になりそうなので、これ以降、作者のコメントは控えさせていただこうと思っております。

 お気に入り登録やいいねについては毎日確認しておりますので、もし気が向いたらポチポチしてやってくださいませ。作者の口角が上がります。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?

越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。 ・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...