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異世界の最強種族を家族にすると毎日が大変です。
しおりを挟む地上に降りるとリリィを放してやる。
まだ足から離れないエリクの背中を押してやりながら歩く。
リリィはキャーキャーと騒がしく走り出した。
「苺。ありがとう。安全に飛ぶことが出来るようになってきたんだな。すごいな。」
子供が出来てから知ったことだが、小さな竜は狩の練習なのか本能なのか悪戯が好きだ。
うちの子供達も俺が遊ぼうと言うと吹っ飛ばしたり引き摺ったりとよく力の加減を誤る。
苺も少し前まで俺の手足を持って骨を折ったり、振り回して遊んでいた。
尻尾で吹っ飛ばされて軽く死にかけたことも数えきれないほどある。
空を飛び始めた子供達は特に危険だ。
治療してくれた人達と俺の代わりに子供逹を叱ったり常識を教えようと奮闘してくれている家庭教師達にはとても感謝している。
「いつの話してるの?前にも落とさないように魔法覚えたから大丈夫って言ったよね?!もう!今日は父さんのおいしいご飯が食べたいな~」
「はいはい。」
褒められて嬉しかったのか、尻尾が揺れていた。
「やぁ、どうも。お邪魔してます。」
家に入ると知った男が軽く手を上げた。
仕事着なので、ギルド関係で用があるのだろう。
「忙しそうだな。」
もう一人の男は大きな剣を背中に抱えている。
こちらもたまに店に来ることがある知人だ。
「あ、転んだ。」
リリィを見て微笑んでいた女性は心配になったのか、手足に砂を付けているのに何もなかったかのように走っていくリリィの方に行った。
出迎えてくれたこの人逹は料理人として店が出来る前、冒険者をやっていたときからの知り合いだ。
冒険者が店などでもたまに食材として珍しいものを持ち込むのはよくあることなのだけれど、ギルドでお金に変えてから来て欲しいと思ってしまうのはたまに厄介なものが混ざっていることがあるからだ。
そしてこの男はギルド関係者なので厄介なものである可能性が高い。
「また変なものでも持ってきたのか?見なかったことにしてやるから、さっさと帰れ。」
「あー…………とりあえず、話を聞いてくれないか?ギルドでもお手上げでね。鑑定出来る者十人以上に見てもらったんだが、よくわからなかったんだ。今回のは本当に偶然というか、珍しいダンジョンの宝箱に入っていたものなのだけれどね。」
彼の持っている小さな箱にかけられていた布が取られると中に小鳥のブローチが入っていた。
「俺もうちの妻も鑑定士じゃない。他を当たってくれ。」
「まぁまぁ。うちのギルマスからのお手紙もあるんで話だけでも聞いてくれないか?」
ギルマスからの手紙があるなら正式な依頼である可能性が高い。
普段冒険者達にもお世話になっているとも言えるので少しぐらいならば、協力するべきなのだろう。
「はぁ……飯の後でいいなら聞いてもいいが……お前らも食べてくか?俺がいない時には新人を連れてくるなよ。」
商人の男の後ろに若い男の子がいたのでそちらを見る。
「うん。新人に大切な交渉を一人で任せるようなことはしていませんから安心してください。ただ、特殊な魔力になれてもらおうと思っただけですから。お詫びにこちらをどうぞ。」
ギルド服の男から缶が色々と入った籠を貰う。
「解ってないな。うちは平和な時じゃないと危険だから新人を壊すようなことはやめろと言っているんだ。……また種類が増えたのか。」
飲んだことのない名前のものが多いが、妻の好きなものもある。
「おかげさまで。ギルドは世界最大の交易組織でもありますからお店のご協力も出来るかもしれません。お力になれるかは解りませんが、何かお困りなことがありましたらご相談だけでもどうですか?」
新人に見本を見せているのだろう。
ニッコリと笑うギルド服の男は商人として名を上げた貴族の三男で、とても器用な男の弟という印象が強い。
「うちはギルドに頼らずとも常連達が色々と持ってくるからな。……そういえば、養蜂は上手くいっているのか?」
缶に紛れて瓶もあった。
これはその器用な兄からだろうと思う。
「それが……売れているのはいいのですが、どうやら偽物が出回り始めたようで少し騒いだ者もおりました。明らかに本物とは違うので一度食べたことのある者ならば、解るのですが……少し面倒な貴族の方に渡ったようで店にいらっしゃいました。」
「偽物?へぇ……。瓶はどんなものなんだ?うちの商品の中身を変えて転売してるってことか?」
「いえ。中身も瓶も全く違うものです。蜂蜜と砂糖水を薄めたような液体が入った粗末なものなのですが、売っていた商人が有名なところの者だったようでして。もちろん、見つけたその日に捕まえましたが。その商人は昔から蜂蜜を扱っている店で売れなくなったから名前を使ったと言っているのですが、その商人はこちらの長女である林檎様と同じ年に産まれた娘が御学友でその縁で許可してくれたと証言しています。」
「友達?まさか、林檎がその友達となにか悪戯しているのか?」
「いえ、どうも店に説明をせずに名前を使うことを許可したと……商人が証言していまして。正式な条文もないようですからお嬢様には何も問題はないとは思いますが、一応ご報告だけ。」
子供達が関わっているのならば、余計に新人を連れてくるべきではなかっただろう。
林檎が泣き出したら魔力的な衝撃波で脳をおかしくするかもしれない。
「……そうか、感謝する。後で確認しとく。」
「いえ、世界一の鑑定をしていただけるのならばこの程度のことは何の問題もありません。ぜひ、この未熟者にご指導ください。」
どうしても鑑定を頼みたいらしい。
ギルマスの手紙を確認して眉を寄せる。
この新人は鑑定士で鑑定する所を見たいとのこと。
何日もかけてここまで来たのは王が絡んでいるからだろう。
国王の印まであった。
断れないやつだ。
新人と言っても魔力がそれなりにあるようだから妻に会わせても大丈夫かもしれないが、彼の足は震えているようだ。
ギルマスからは身に覚えのない感謝状までもらった。
洞窟に閉じ込められた作業員達の人命救助?
なんだこれ?
「はぁ……どうなっても知らんぞ。これは?」
「はい。お願いします。そちらは苺様だと思われます。作業員達の話を聞いた領主から相談された結果、感謝状という形に落ち着きました。」
「領主に気を使わせたようで悪いな。何か壊すならともかく、人命救助?本当にうちの子だったのか?」
「赤い竜がドライアドと共に飛んで来て岩に挟まってしまった人などを助け出し、医者を連れてきたと聞いています。この国で人の言葉を話せるドライアドがいるのはここの家の関係者だけですから間違いではないと思いますが。」
「赤い竜とドライアドの組み合わせならうちの誰かかもしれませんけど。なぜ、苺であると?」
うちの飛べる子供のうち、林檎と苺が赤い竜である。
「ドライアドが苺様と呼んでいたそうです。」
「そうか。」
苺で間違いなさそうだ。
「孫と遊んでいた所を邪魔して悪いな。俺はいい肉が手に入ったから持ってきただけだ。多いからノエルに渡しといたから落ち着いたら確認してくれ。忙しそうだし出直す。」
大きな剣の男に首肯する。
「悪いな。ノエルにいつものを持ってこさせるから。蜂蜜を持ってきてくれたから甘いものも作るが、時間があるなら子供達用に少し持っていくか?」
この男は子供達の好きなお菓子を獲物と交換して欲しいとよく来るのでいつも通りお菓子の詰め合わせを用意してある棚の近くにいる使用人達に合図を送る。
「いや。俺は急いでいない。さっき来て一息ついていただけだ。また来るから、そっちの件を優先してやれ。」
「ノエル!菓子缶を二つ頼む。」
名前を呼ぶと控えていた使用人が首肯する。
「お帰りなさいませ。旦那様。お菓子の缶を二つといつもの酒樽を一つでよろしいですか?」
「あぁ。お菓子の缶は残っているか?リリィとエリクをつれてきた。木で細工したものを見せに後で工房の方に行くけど、こちらを優先させなきゃいけないから迷子にならないようにお菓子でもやって誰か見ていてくれ。」
「ございます。スゥ。リリィ様達を。」
ノエルの側にいた一人が頷いてリリィ達の方へ行く。
「林檎は家にいるか?」
「お部屋にいらっしゃいます。」
「はちみつだって~」
「みつ~?」
「甘いやつだよ。」
「あまいのリリィすき~」
「リリィ?!」
「苺様!子供と遊んでいるときは地面から離れてはいけません!」
苺が尻尾にリリィをぶら下げて飛んで遊んでいるのをエリク達が追っていく。
「苺、蟹を冷凍室に持っていってくれ!遊ぶのはその後だ。」
「はーい。」
リリィが楽しそうだから放っておいたが、やはり危険だよな。
しかし、リリィを追いかけていた彼女がこの家に来るのは珍しい。
「山本さんはどうしたんだ?」
「うん。急に来たのにお土産とかなくて申し訳ないんだけど、私もちょっと相談したいことがあって。」
彼女は異世界転移仲間だ。
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