上 下
4 / 5

異世界の最強種族を家族にすると毎日が大変です。

しおりを挟む



地上に降りるとリリィを放してやる。
まだ足から離れないエリクの背中を押してやりながら歩く。
リリィはキャーキャーと騒がしく走り出した。
「苺。ありがとう。安全に飛ぶことが出来るようになってきたんだな。すごいな。」
子供が出来てから知ったことだが、小さな竜は狩の練習なのか本能なのか悪戯が好きだ。
うちの子供達も俺が遊ぼうと言うと吹っ飛ばしたり引き摺ったりとよく力の加減を誤る。
苺も少し前まで俺の手足を持って骨を折ったり、振り回して遊んでいた。
尻尾で吹っ飛ばされて軽く死にかけたことも数えきれないほどある。
空を飛び始めた子供達は特に危険だ。
治療してくれた人達と俺の代わりに子供逹を叱ったり常識を教えようと奮闘してくれている家庭教師達にはとても感謝している。
「いつの話してるの?前にも落とさないように魔法覚えたから大丈夫って言ったよね?!もう!今日は父さんのおいしいご飯が食べたいな~」
「はいはい。」
褒められて嬉しかったのか、尻尾が揺れていた。




「やぁ、どうも。お邪魔してます。」
家に入ると知った男が軽く手を上げた。
仕事着なので、ギルド関係で用があるのだろう。
「忙しそうだな。」
もう一人の男は大きな剣を背中に抱えている。
こちらもたまに店に来ることがある知人だ。
「あ、転んだ。」
リリィを見て微笑んでいた女性は心配になったのか、手足に砂を付けているのに何もなかったかのように走っていくリリィの方に行った。
出迎えてくれたこの人逹は料理人として店が出来る前、冒険者をやっていたときからの知り合いだ。
冒険者が店などでもたまに食材として珍しいものを持ち込むのはよくあることなのだけれど、ギルドでお金に変えてから来て欲しいと思ってしまうのはたまに厄介なものが混ざっていることがあるからだ。
そしてこの男はギルド関係者なので厄介なものである可能性が高い。
「また変なものでも持ってきたのか?見なかったことにしてやるから、さっさと帰れ。」
「あー…………とりあえず、話を聞いてくれないか?ギルドでもお手上げでね。鑑定出来る者十人以上に見てもらったんだが、よくわからなかったんだ。今回のは本当に偶然というか、珍しいダンジョンの宝箱に入っていたものなのだけれどね。」
彼の持っている小さな箱にかけられていた布が取られると中に小鳥のブローチが入っていた。
「俺もうちの妻も鑑定士じゃない。他を当たってくれ。」
「まぁまぁ。うちのギルマスからのお手紙もあるんで話だけでも聞いてくれないか?」
ギルマスからの手紙があるなら正式な依頼である可能性が高い。
普段冒険者達にもお世話になっているとも言えるので少しぐらいならば、協力するべきなのだろう。
「はぁ……飯の後でいいなら聞いてもいいが……お前らも食べてくか?俺がいない時には新人を連れてくるなよ。」
商人の男の後ろに若い男の子がいたのでそちらを見る。
「うん。新人に大切な交渉を一人で任せるようなことはしていませんから安心してください。ただ、特殊な魔力になれてもらおうと思っただけですから。お詫びにこちらをどうぞ。」
ギルド服の男から缶が色々と入った籠を貰う。
「解ってないな。うちは平和な時じゃないと危険だから新人を壊すようなことはやめろと言っているんだ。……また種類が増えたのか。」
飲んだことのない名前のものが多いが、妻の好きなものもある。
「おかげさまで。ギルドは世界最大の交易組織でもありますからお店のご協力も出来るかもしれません。お力になれるかは解りませんが、何かお困りなことがありましたらご相談だけでもどうですか?」
新人に見本を見せているのだろう。
ニッコリと笑うギルド服の男は商人として名を上げた貴族の三男で、とても器用な男の弟という印象が強い。
「うちはギルドに頼らずとも常連達が色々と持ってくるからな。……そういえば、養蜂は上手くいっているのか?」
缶に紛れて瓶もあった。
これはその器用な兄からだろうと思う。
「それが……売れているのはいいのですが、どうやら偽物が出回り始めたようで少し騒いだ者もおりました。明らかに本物とは違うので一度食べたことのある者ならば、解るのですが……少し面倒な貴族の方に渡ったようで店にいらっしゃいました。」
「偽物?へぇ……。瓶はどんなものなんだ?うちの商品の中身を変えて転売してるってことか?」
「いえ。中身も瓶も全く違うものです。蜂蜜と砂糖水を薄めたような液体が入った粗末なものなのですが、売っていた商人が有名なところの者だったようでして。もちろん、見つけたその日に捕まえましたが。その商人は昔から蜂蜜を扱っている店で売れなくなったから名前を使ったと言っているのですが、その商人はこちらの長女である林檎様と同じ年に産まれた娘が御学友でその縁で許可してくれたと証言しています。」
「友達?まさか、林檎がその友達となにか悪戯しているのか?」
「いえ、どうも店に説明をせずに名前を使うことを許可したと……商人が証言していまして。正式な条文もないようですからお嬢様には何も問題はないとは思いますが、一応ご報告だけ。」
子供達が関わっているのならば、余計に新人を連れてくるべきではなかっただろう。
林檎が泣き出したら魔力的な衝撃波で脳をおかしくするかもしれない。
「……そうか、感謝する。後で確認しとく。」
「いえ、世界一の鑑定をしていただけるのならばこの程度のことは何の問題もありません。ぜひ、この未熟者にご指導ください。」
どうしても鑑定を頼みたいらしい。
ギルマスの手紙を確認して眉を寄せる。
この新人は鑑定士で鑑定する所を見たいとのこと。
何日もかけてここまで来たのは王が絡んでいるからだろう。
国王の印まであった。
断れないやつだ。
新人と言っても魔力がそれなりにあるようだから妻に会わせても大丈夫かもしれないが、彼の足は震えているようだ。
ギルマスからは身に覚えのない感謝状までもらった。
洞窟に閉じ込められた作業員達の人命救助?
なんだこれ?
「はぁ……どうなっても知らんぞ。これは?」
「はい。お願いします。そちらは苺様だと思われます。作業員達の話を聞いた領主から相談された結果、感謝状という形に落ち着きました。」
「領主に気を使わせたようで悪いな。何か壊すならともかく、人命救助?本当にうちの子だったのか?」
「赤い竜がドライアドと共に飛んで来て岩に挟まってしまった人などを助け出し、医者を連れてきたと聞いています。この国で人の言葉を話せるドライアドがいるのはここの家の関係者だけですから間違いではないと思いますが。」
「赤い竜とドライアドの組み合わせならうちの誰かかもしれませんけど。なぜ、苺であると?」
うちの飛べる子供のうち、林檎と苺が赤い竜である。
「ドライアドが苺様と呼んでいたそうです。」
「そうか。」
苺で間違いなさそうだ。
「孫と遊んでいた所を邪魔して悪いな。俺はいい肉が手に入ったから持ってきただけだ。多いからノエルに渡しといたから落ち着いたら確認してくれ。忙しそうだし出直す。」
大きな剣の男に首肯する。
「悪いな。ノエルにいつものを持ってこさせるから。蜂蜜を持ってきてくれたから甘いものも作るが、時間があるなら子供達用に少し持っていくか?」
この男は子供達の好きなお菓子を獲物と交換して欲しいとよく来るのでいつも通りお菓子の詰め合わせを用意してある棚の近くにいる使用人達に合図を送る。
「いや。俺は急いでいない。さっき来て一息ついていただけだ。また来るから、そっちの件を優先してやれ。」
「ノエル!菓子缶を二つ頼む。」
名前を呼ぶと控えていた使用人が首肯する。
「お帰りなさいませ。旦那様。お菓子の缶を二つといつもの酒樽を一つでよろしいですか?」
「あぁ。お菓子の缶は残っているか?リリィとエリクをつれてきた。木で細工したものを見せに後で工房の方に行くけど、こちらを優先させなきゃいけないから迷子にならないようにお菓子でもやって誰か見ていてくれ。」
「ございます。スゥ。リリィ様達を。」
ノエルの側にいた一人が頷いてリリィ達の方へ行く。
「林檎は家にいるか?」
「お部屋にいらっしゃいます。」
「はちみつだって~」
「みつ~?」
「甘いやつだよ。」
「あまいのリリィすき~」
「リリィ?!」
「苺様!子供と遊んでいるときは地面から離れてはいけません!」
苺が尻尾にリリィをぶら下げて飛んで遊んでいるのをエリク達が追っていく。
「苺、蟹を冷凍室に持っていってくれ!遊ぶのはその後だ。」
「はーい。」
リリィが楽しそうだから放っておいたが、やはり危険だよな。
しかし、リリィを追いかけていた彼女がこの家に来るのは珍しい。
「山本さんはどうしたんだ?」
「うん。急に来たのにお土産とかなくて申し訳ないんだけど、私もちょっと相談したいことがあって。」
彼女は異世界転移仲間だ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

アビーの落とし穴

夢咲まゆ
ファンタジー
 二十二歳の青年ジェームズは、敬愛する魔法使い・リデルの側で日々家事や育児に奮闘していた。  俺も師匠のような魔法使いになりたい――  そう思い、何度も弟子入りを志願しているものの、リデルはいつも「やめた方がいい」と言って取り合わない。  一方、五歳になったアビーはいたずら盛り。家の中に魔法で落とし穴ばかり作って、ジェームズを困らせていた。  そんなある日、リデルは大事な魔導書を置いてふもとの村に出掛けてしまうのだが……。

異世界は黒猫と共に

小笠原慎二
ファンタジー
我が家のニャイドル黒猫のクロと、異世界に迷い込んだ八重子。 「チート能力もらってないんだけど」と呟く彼女の腕には、その存在が既にチートになっている黒猫のクロが。クロに助けられながらなんとか異世界を生き抜いていく。 ペガサス、グリフォン、妖精が従魔になり、紆余曲折を経て、ドラゴンまでも従魔に。途中で獣人少女奴隷も仲間になったりして、本人はのほほんとしながら異世界生活を満喫する。 自称猫の奴隷作者が贈る、猫ラブ異世界物語。 猫好きは必見、猫はちょっとという人も、読み終わったら猫好きになれる(と思う)お話。

【本編完結】異世界に召喚されわがまま言ったらガチャのスキルをもらった

れのひと
ファンタジー
 ガチャのために生き、ガチャのために人は死ねると俺は本気でそう思っている…  ある日の放課後、教室でガチャを引こうとすると光に包まれ見知らぬ場所にいた。ガチャの結果をみれず目の前の人に文句を言うとスキルという形でガチャが引けるようにしてくれた。幼女のなりして女神様だったらしい?  そしてやってきた異世界でガチャのために働き、生きていくためにガチャを引く、ハッピーガチャライフ(俺にとっては)が始まるのだった。 初回公開日より1年以内に本編完結予定です。現在他視点の追加を始めています。

転生特典:錬金術師スキルを習得しました!

雪月 夜狐
ファンタジー
ブラック企業で働く平凡なサラリーマン・佐藤優馬は、ある日突然異世界に転生する。 目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中。彼に与えられたのは、「錬金術師」としてのスキルと、手持ちのレシピブック。 素材を組み合わせてアイテムを作る能力を持った優馬は、錬金術を駆使して日々の生活を切り開いていく。 そんな彼のもとに集まったのは、精霊の力を持つエルフの少女・リリア、白くフワフワの毛並みを持つ精霊獣・コハク。彼らは王都を拠点にしながら、異世界に潜む脅威と向き合い、冒険と日常を繰り返す。 精霊の力を狙う謎の勢力、そして自然に異変をもたらす黒い霧の存在――。異世界の危機に立ち向かう中で、仲間との絆と友情を深めていく優馬たちは、過酷な試練を乗り越え、少しずつ成長していく。 彼らの日々は、精霊と対話し、魔物と戦う激しい冒険ばかりではない。旅の合間には、仲間と共に料理を楽しんだり、王都の市場を散策して珍しい食材を見つけたりと、ほのぼのとした時間も大切にしている。美味しいご飯を囲むひととき、精霊たちと心を通わせる瞬間――その一つ一つが、彼らの力の源になる。 錬金術と精霊魔法が織りなす異世界冒険ファンタジー。戦いと日常が交錯する物語の中で、優馬たちはどんな未来を掴むのか。 他作品の詳細はこちら: 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】 『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/270920526】

ぼくは悪のもふもふ、略して悪もふ!! 〜今日もみんなを怖がらせちゃうぞ!!〜

ありぽん
ファンタジー
恐ろしい魔獣達が住む森の中。 その森に住むブラックタイガー(黒い虎のような魔獣)の家族に、新しい家族が加わった。 名前はノエル。 彼は他のブラックタイガーの子供達よりも小さく、 家族はハラハラしながら子育てをしていたが。 家族の心配をよそに、家族に守られ愛され育ったノエルは、 小さいものの、元気に成長し3歳に。 そんなノエルが今頑張っていることは? 強く恐ろしいと人間達が恐れる、お父さんお母さんそして兄のような、 かっこいいブラックタイガーになること。 かっこいいブラックタイガーになるため、今日もノエルは修行に励む? 『どうだ!! こわいだろう!! ぼくはあくなんだぞ!! あくのもふもふ、あくもふなんだぞ!!』

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

捨て駒として呼び出された俺、剣聖(美少女)と賢者(美少女)に拾われる

あーる
ファンタジー
国同士の戦争で、囮として召喚されたシン。突然窮地に立たされるも、何とか一時を凌ぐことに成功する。 だが、ほっとしたのも束の間、身分証が無いと街に入れなかったり、毒の水(?)を飲んで苦しんだり、兎に角不幸が襲いかかる。 そんなある時、剣聖(美少女)と賢者(美少女)に出会い、無理を言って彼女達に弟子入りという形で拾ってもらう。 そんなお話です。

処理中です...