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ep.1

『理由はさておきとりあえずこの世界を見つけた自分に惜しみない拍手を贈りたい』

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大きくはないけれどお洒落なデザインというのが一番よね。

森の中にありそうな、ログハウス風のこぢんまりとしたお家。

屋根は赤がいいな。

いつかつまらない集合住宅を出て1人で自由に暮らすなら、こんな家がいい!という理想を、確か学校で友達に話したりもしたような気がする。


私いま、夢見た通りの家に住んでるわ。

素晴らしい再現度。言うことなし。


まあ、ここまではリアルでも実現できる話。

ここからは完全に現実離れした、夢のまた夢のお話だったわけ。


まずは私の容姿ね。

髪はふわふわの金髪で、しかもそれが地毛っていうのがいい。

服はリボンとフリルをめいっぱい使ったピンクのワンピース。

世界一の美少女になんかならなくていいのよ?

そういうのは「お姫様」の役目。

私はお城になんか関係ない、もちろん怖いダンジョンとかなんかにはまっっったく関係ない、平和でのどかな町娘になりたいんだから。


だからまあ、町で一番ぐらいには美人でもいいんじゃない?

町か……そうだ、町の様子も大事よね。

ご近所の人はみんな仲がよくって、その辺のおじさんおばさん達が、家族みたいに「いってらっしゃい」とか「おかえり」とかって自然に声をかけてくれるような町かな。

で、一番可愛い私は毎度のように「うちのせがれの嫁さんになっておくれよ~」なんて言われるんだけど、


ここからが大事よ!


私はいつもそういう申し出を笑顔でやんわりと断るの。

だって、そう…何よりこれよ。

私には将来を誓い合った婚約者が居るんだもの!!

その人は同じ町に住んでる同い年の超イケメンで、私のことを世界一宇宙一溺愛しているの……!!



…っていう夢の世界に、私は今、普通に居る。



こんな幸せなことってある?

こうなったらもう毎日神様に感謝して、ひたすら幸せを噛みしめて生きていくしかない!

――普通だったらそう思うところなんだけど。


私には、この状況を手放しでは喜んでいられない事情がある。

たった1つだけど、あまりにも大きすぎる問題が。



「こんにちは、ビビアン。今日も美人さんだねぇ。

 ほんっとうちの息子の嫁さんになってくれたらどんなにいいかって思うよ」


「おばさま、こんにちは。お褒め頂き嬉しいわ」



こんなに馴染んでいるこの“異世界”に、

――どうやって飛ばされて来たのか、全くもって思い出せないという大問題が。



◆◇◆◇◆



少し前まで、私は間違いなく日本の女子高生だった。

――ある日突然思い出した、という表現で、果たして合っているのだろうか?

いや、感覚としてはむしろ逆で。普通の女子高生として生きていたはずが、ふと気付いたらいつの間にかこの世界の住人になっていて、なぜかここで生まれ育った記憶がオプションで付いていた…という方がしっくりくる。

多分だけど、あっちが現実で、こっちが何かおかしい。

だから本当ならば、現実世界に……つまりあっちに帰る方法を見つけて、帰る努力をしなければいけない………んだと思う。


でも。


でも………それは嫌なんだよなぁ~!!


こっちが現実世界であっちが異世界なのだと思い込もうとしてみたこともある。

だって、どう考えたってこっちの方がいいに決まってるもの!

しかし考えれば考えるほど、私の中でこっちの異世界感が増してゆく。

この美人は私じゃない。平凡な女子高生だった私が目一杯妄想を膨らませて思い描いた理想の女の子がこの「ビビアン」なんだ。

だから恐らくというか、ほぼ確信なレベルだけど。

私は間の記憶だけ絶妙になくして都合のいい異世界転移をしてきたっぽい。


でも、それならそれで、未練の欠片もない現実世界のことなんて気にしないでこの幸せな世界でこれからずっと生きていけばいい。それだけのことじゃない?

…って思えればいいんだけど。



(来た経緯がわからないんじゃ、さすがの私でも全く気にせずになんていられないのよね……)



だから、決めた。いま決めた。

曲がりなりにも異世界転移したヒロインとして、どういう方向性で生きていくのかを。

私は、元の世界に帰る方法を探して奮闘するのではない。


ここへ来るに至った経緯の記憶を取り戻して、何の気兼ねもなくこの世界で生きていけるようになるんだ。

そしてあわよくば、今居るこの世界こそを私の現実世界と認定してやるんだ…!



決めてしまえば行動は早い。

たった今掲げた目標を達成するため、私はいつにもまして急ぎ足であの人の所へ向かった。

この世界にしか存在しない、最愛のあの人の元へ。

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