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閑話

フィラー教師の生徒観察日記1

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【〇月×日】

今年の私の受け持ちクラスは1年A組となった。1年次のクラス分けは魔力有無のみでランダムに決定されるとなっているが、実はそれは表向きで、魔力持ちの中でも将来有望と思われる生徒がA組に集められている。ただしこれは入学決定時の判断なので、あくまでも予想でしかない。判断基準は入学試験での成績、もしくは魔法の素質(系統)の多さ、または魔力量である。

授業を始める前の段階だが、現時点で私が注目しているのはティタンである。彼は魔法科のトップ入学者だ。魔法の素質については火と土であり、入学前の申告では炎球を出せるとなっていた。加えて彼の家は多くの魔導師を輩出しており、兄のロドリスも現在魔法科で優秀な成績だと聞いている。魔法の素質に血筋は関係ないと言うのが一般常識だが、例外はあるのではないかと考えている。

次に注目しているのはセインだ。彼は無試験入学の為学力は不明だが、魔法の素質が回復、防御、風、水と四系統であり、魔力量もかなりある。申請では水球を出せるとなっているため、ある程度魔力制御も出来ている点から考えて、若くして魔導師になれる可能性を持っているとみている。

他にも数名、優秀な成績で入学した生徒がいるので注目はしているが、専攻が魔法科でないのが残念だ。今後の成績次第では、魔法科への転科を勧める可能性もある。



【〇月×日】

本日より魔法の授業を始める。
初日の今日は、事前申告していた生徒に魔法を披露してもらった。申告した四人のうち、披露できたのは三人であった。
光球を出したライムは、魔法の発動まで少々時間を要していた。魔力制御の練習を繰り返すうちに、もっと素早く発動できるようになるだろう。
ティタンは炎球を二つも出していたので、入学前にかなり練習を積んでいたと思われる。魔力制御の練度も高い。2年次進級前に、時間差ではなく二つ同時に出せるようになる可能性が高い。今後が楽しみである。

セインはクラスの中で一番注目する生徒となった。
注目するに至った理由は二つ。ひとつは魔法を発動させるまでの時間が短いこと。これは魔力制御の練度が高いことを示している。意識しなくても瞬時に魔力を集めることが出来ていると思われる。ただし他の生徒が魔法を披露してる間に魔力を集めていた可能性がある為、あくまでも可能性としてだが。
もうひとつは無詠唱で魔法を発動させたことだ。初めて無詠唱を成功させるまでには、かなりの時間を要する。それから考えて、彼がかなり真剣に魔法の練習に取り組んでいたと思われる。しかも無詠唱は練習しても出来ない人もいることから、魔法に対しての才能が高いと判断した。
その後の授業で、彼には他の生徒たちに、身体の中の魔力を感じるコツをアドバイスしてもらっていた。教えているときの様子から、彼の知能は高いと思われる。前期終了時の試験結果が楽しみな生徒である。今後も継続して注目していきたい。



【〇月×日】

本日よりクリーン魔法の指導を始める。
我がA組の生徒は、全員が身体の中の魔力を感じることが出来ている。これは例年よりも早い状態で、B組では半々だと聞いている。たまたま全員が優秀な子たちなのかもしれないが、どちらかと言うと、セインのアドバイスが良かったからだと考えている。アドバイスの内容を教師仲間に教えてやると、B組でも効果があったと聞いた。もしかしたらセインは教師向きなのかもしれない。

クリーン魔法の成功率は約半分であった。初回は上手くいかない子も、先に魔力を流すイメージをしてもらってから発動させると、上手くいったようである。あとは繰り返すことで発動に失敗することがなくなると思われる。
部分クリーンについては、出来たのはごく数名であった。失敗した生徒もクリーンが成功していることから、部分クリーン魔法の発動自体は成功していると考えている。このようになった原因は魔力を右手の人差し指に集めることが出来ていない、つまりは魔力制御がしっかりと出来ていないことにある。魔力制御は地味な練習だが、再度練習の重要性を話す予定だ。

初日に魔法を披露した三人については、部分クリーンは右手首の泥を対象としてもらった。結果セインのみ成功となった。ティタン、ライムは右手の人差し指で示す場所であれば、部分クリーンは成功していた。右手以外から魔力を出すのは本来は2年になってから練習するものであるから、失敗しても何ら問題は無い。逆に言うと、セインの練度が高いと言える。

放課後、我が校の生徒が精霊魔法に成功したとの連絡を受けた。その後屋内訓練場で披露してもらい、たしかに精霊魔法だと、他の魔法科教師と共に判定した。理由としては、彼には火系統の魔法の素質が無いこと、陣を使わず呪文で魔法を成功させたことの二点である。



【〇月×日】

放課後、ティタンを私の部屋へ呼び、精霊魔法の練習についていろいろ教えてもらった。先日精霊魔法を成功させたのは彼の兄であり、彼自身も精霊魔法使いを目指していると聞いたからである。我が国で初めて精霊魔法を成功させた人は彼の祖先であることから、ティタンも期待できると考えている。自分の担当クラスから精霊魔法使いが出る可能性を考えて頬が緩む。



【〇月×日】

セインの優秀さに舌を巻く。教えた魔法は必ず一度で成功している。初級魔法は魔力制御がしっかりできていれば、失敗することはほぼ無いとは言え、可能なら彼に中級魔法を教えてみたい。もしくは初級魔法の同時展開を練習してもらおうか?
ティタンは新しい魔法では躓くこともある。彼の魔力制御もほぼ完ぺきだと思っていたが、多少ムラがあるらしい。初心に帰り魔力制御をしっかりやるようにアドバイスしておいた。

ここ最近で一番成長を感じるのはトーマだ。授業初日こそ魔法を失敗していたが、それ以降は順調にやってきていると思われる。コツコツと練習を積み上げるタイプらしく、進級時には上位の成績が予想できる。



【〇月×日】

魔法協会より派遣された魔導師三名が、学園に到着した。
うち一名は我が国で二人目の精霊魔法使いである。一人目が既に故人であるため、先日までは彼が我が国唯一の精霊魔法使いであった。彼らの目的は精霊魔法を成功させた生徒の確認である。ここで認められれば、あの生徒は我が国三人目の精霊魔法使いと正式に認定される。
精霊魔法については非常に興味はあるのだが、私自身にその才能が無いことと、人材が少ない、文献が少ない等の理由で研究には至っていない。これを機に他国の文献の取り寄せを検討したい。学園長に申請してみようか。



【〇月×日】

本日は受け持ちの生徒と一緒に精霊魔法を見学することができた。
派遣されてきた魔導師たちは皆この学園の卒業生であることから、少々後輩指導をしてから帰りたいとの申し出があった為だ。その言葉の裏は、期待できそうな生徒に目星をつけたいと言うところだろう。私自身も似たようなことをしているから、よく理解できる。

精霊魔法と言うのは地味な魔法である。しかも現時点では利用方法すら無いのが現状だ。この分野は使える人が少ない為研究が進んでいない。非常に残念である。
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